たなべさんカウンタ2036ゲット記念企画
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道場内は1月の冷気が満ちて、息も凍りそうな寒さだ。
ガンマ団士官学校1年3組と4組の面々は、この時間、柔道の授業を受けていた。
暖房の一つもない道場で、柔道着に裸足の少年たちが、それでも整然と畳の上に注目している。今、中央で3組の模範試合が行われているのだった。
「せやー!」
気合一発、大柄な生徒が突進する。受けて立つのは、対照的に頼りなさげなくらい細い少年だ。
ふわり・・・宙に浮いたのは、大きな方の体だった。
豪快な投げ技が決まり、あっけなく勝負はついた。生徒たちの歓声と野次が、静寂を突き破る。
「すげえー」
チョコレートロマンスは立ち上がり、手が痛くなるくらいの拍手をした。上気した頬が興奮を物語っている。
「ホント、すげえよなー、ティラミス」
「ああ、強えよな、あんなちっこい体で」
まわりの友達も感心して、口々に褒めそやす中、ティラミスが畳から下りてくる。チョコレートロマンスは前に出て、笑いかけた。
「さすがだな、ティラミス」
右手を出し、肩に置こうとして、避けられる。ティラミスは無言で冷たい一瞥をくれると、背を向けて行ってしまった。
「・・ありゃー」
手の行き場所がなくなってしまい、チョコレートロマンスは仕方なく自分の頭をかく。
「ハハハ。またふられたな、チョコレートロマンス」
「おまえも懲りないねぇ」
クラスメートたちがふざけた口調ではやし立てた。
「あいつさー、3組のトップだけど、愛想悪いもんな」
「そうそう。いっつもひとりでさ」
「・・なんでだろうなあ」
ティラミスの姿を目で追う。焦げ茶色の、つやつやした髪は短くしてあって、顔立ちを更にシャープに引き立てていた。瞳も同じ色で、いつものように近寄りがたいくらいに鋭い光を帯びている。
事実ティラミスは人を寄せ付けず、チョコレートロマンスもまともに話すらしたことがなかった。しかし、何故か気になってしょうがない。親しくなりたいものだと、ことあるごとに近付いて行くのだが、今のようににべもなく無視されるのが常だった。
「次! チョコレートロマンス!」
教官に呼ばれ、慌てて大きく返事をする。襟を直しながら前に進み出た。
チョコレートロマンスは、4組では成績トップなので、同じように模範試合をするのだ。
淡い色の長髪を、今は邪魔なので一つに束ねている。畳に立って真っ直ぐ相手を見据えた。鮮やかに技を決めたら、見てくれるだろうか、などと考えながら思わずティラミスの姿を捜してしまう。そんな自分に苦笑してしまった。
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チョコレートロマンスは甘党だった。
名前からしてそうなのだが、甘い物が大好きで、よくお菓子を買い食いしている。
だから、今日、家から届いた荷物を見て小躍りしてしている彼の姿を見れば、その中身を推測することはたやすい。
「うっわ、うまそう」
ハートや星の形のクッキーは、母の手作りのものだ。何といっても、砂糖が多めに使われており(通常の1.5倍)、かなり甘い。
ガンマ団士官学校の一年生といえば、普通だと中学校一年生に当たる。甘い物が好きだったり、少し母を恋しく思ったり、まだ子供のようなものだった。
宿舎の個室で、チョコレートロマンスはひとり、早速食べようかと手を伸ばす。が、ふと考えて止まった。
(あいつ、甘いの好きかなあ)
あいつ、とは、もちろん隣のクラスの気になるあいつのことだ。
そういえば名前もデザートみたいだし、もしかして同じように甘党だったら、仲良く一緒に食べられるかも。
軽い気持ちで、チョコレートロマンスはクッキーを手に自分の部屋を出た。
士官学校の生徒はほとんどがこの宿舎で寝起きしていたが、誰でもチョコレートロマンスのように個室に入れるわけではない。小さいながらも自分専用の部屋で暮らせるのは、成績優秀な者だけに与えられる特権だった。
そしてティラミスも、同じフロアに個室を割り当てられている。ドアの前に立って、チョコレートロマンスはノックをした。
−つづく−
2 (続きへ)
H11.2.10