たなべさんカウンタ2036ゲット記念企画
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よく晴れている。冬色のかすみを帯びた空の下は、どこまでいっても白一色の世界だ。
サングラスを外して山々の稜線をぐるり遠くまで見渡すと、雪が眩しくて目を細める。ティラミスはもう一度サングラスをかけた。
周りのクラスメートたちの思い思いのおしゃべりが、賑やかに雪山へこだましている。
今日は授業の一環で、一年生全員参加のスキー合宿に来ていた。
遊びではないので、全てが揃い整備もされたスキー場などではなく、誰も足を踏み入れないような山奥までわざわざ来ている。当然、リフトなんてあるわけはない。スキーをかつぎ、みんなで険しい雪山を登ってここまで来た。
かなり大変だったけれど、この風景を見ると全身が達成感に包まれた。風もすがすがしく、髪を優しく乱してくる。
「ティラミス、滑るか」
チョコレートロマンスがゴーグルの下にいつもの笑顔を浮かべている。ティラミスは軽く頷いて応えた。
激辛スナック以来、二人は仲良くなっていた。相変わらずティラミスはあまりしゃべらず、無表情なときが多いが、それでも嫌がる素振りはしなくなったので、チョコレートロマンスは嬉しかった。もうすっかり友達だと思って、何かと言えばそばにいる。
「行くぜー」
チョコレートロマンスが先に滑り出した。ティラミスも後を追うように斜面を下りる。3組と4組のトップがぐんぐん小さくなってゆくのを、他のクラスメートたちは思わず見とれていた。
風が頬にびりびりと痛い。だがそれすらも心地よく受け止め、いっきに滑り降りてゆく。チョコレートロマンスとの距離はなかなか狭まらず、木々の間を見え隠れする黄色いスキーウエアの背中を追いかけていた。
雪質は最高で、深く積もっていてもさらさらと抵抗なくかき分けて行ける。あちこちにある地面のコブやへこみにも転ぶことはなく、二人はかなりのスピードで風を切っていた。
「?」
チョコレートロマンスの姿が急に消えた。
スピードを殺して、ティラミスはあちこちを見渡す。木の陰にも見えないし、はるか先に行ったわけでもない。
「チョコレートロマンス・・・」
焦りで乾いた唇が、友人の名をつぶやく。
折しも雪雲が中空を覆い始め、風も強く吹いてきた。
「いやー、済まないなあ」
雪の中に半分埋まっていた黄色いスキーウェアを助け起こすと、チョコレートロマンスはやけに朗らかに笑っていた。
ゆっくりと滑り下りながら捜していたら、崖のように切り立った場所に突き当たったので、ティラミスは慌てて雪を蹴り、止まった。もしやと思いのぞき込むと、下にはチョコレートロマンスがつぶされたカエルのような格好をしてめりこんでいたのだった。
道なき山道を、起伏にとんで面白そうなコースをわざわざ選んで下りてきた結果がこれだった。
「大丈夫か」
腕をつかんで立ち上がらせようとする。しかしチョコレートロマンスは、わずかに顔をしかめて首を振った。
「ちょっと待ってくれ・・・」
「どうしたんだ」
明らかに、どこか痛そうだ。ティラミスはかがみ込む。離された手を右足首に当て、チョコレートロマンスは友達を見上げた。
「足、くじいたみたいだ・・・ははは・・・」
弱々しい笑い声を、強い強い雪混じりの風がかき消した。
−つづく−
5 (続きへ)
H11.2.21