DEPARTURES 2

   第4話・扉は開かれた

 

 今度はナオミがみんなに追いついた。ナオミはハッとする。金髪のシンタローの背中から、飛行船の中にいたときと同じ、ただならぬ殺気を感じたからだ。
 ハーレムがそそのかしたのだろうか・・・。茂みの向こうを見下ろし、今しも攻撃をしかけようとする体勢だった。
「ダメ!」
 その向こうに、誰がいるのか。ナオミには分かりすぎるほど分かっていた。夢中で駆ける。
「お嬢さん」
 リキッドの声も聞こえない。
「やめてシンタローさん!」
 飛びついて後ろからレザージャケットにしがみつく。シンタローは虚を突かれて動作を止めてしまった。
「・・・ナオミ」
 シンタローが振り向くと同時、ナオミは強い力で引き離されていた。
「おとなしくしていろ、ナオミ」
 ハーレムがナオミの腰に腕を回し、姪の動きを封じたのだった。
「おじ様」
 無言で前の方を示され、ナオミも顔を向ける。金髪のシンタローや特戦部隊の面々が立っている位置の目前は小さな崖のようになっていて、その下に、数人の人影が見えた。みんなこちらには背を向けているが、ただ一人だけ、ナオミたちに顔が見える方向に立っている男がいる。
 一つの扉を背にしたその男は、ガンマ団の制服を着た短い黒髪の男だった。よく顔を見て、ナオミは叫びに似た声を上げる。
「シンタロー!」
「あれは、シンタローじゃねえ・・・」
 低く押し殺された声に、ナオミは恐怖を感じた。叔父の顔を見上げることはできない。何故かは分からないが、ハーレムは眼下の男に対し最大級の怒りと嫌悪を持っていて、しかもそれをどうにか押し込めていた。
「痛いわ、おじ様」
 自分に回された腕にも無意識に力がこもって、ナオミには苦しいほどだった。ハーレムはようやく気付き、ゆるめてやる。
「あれは、ジャンだ・・・。絶対に許さねえ。俺は、あいつを・・」
「・・・」
 ジャン。その名には覚えがある。もう一人の叔父で婚約者のサービスから聞いたことがあったからだ。
 かつてサービスの親友だった男で、秘石眼の力によりサービスが殺してしまったガンマ団員。サービスの右眼がないのは、この事件の直後に自分自身でえぐり取ったためだった。
 シンタローにそっくりだった、とは聞いていたが、今初めて見て、その言葉は本当だったと知る。よく見ればジャンの方が年若いが、瓜二つといっていいくらいに二人はよく似ていた。
「ジャン・・・でも、それにしても、どうして」
 サービスの話だと、ジャンは25年も前に死んでしまっているはずだ。それなのに、どうしてこの場に、しかも若いままの姿でいるのだろう。
 ナオミはすっかり混乱してしまった。視線をさまよわせると、みんなの姿が後ろからだが確認できる。
 ジャンの目の前に立っているサービス。兄のグンマと、ドクター高松もいる。その他の四人の男は知らないが、ガンマ隊員だろうか。ヨロイや忍者装束、マント姿の個性的な隊員たちだ。少し遠巻きに、小さな男の子の姿がある。腰ミノ一枚という服装を見れば、この島の子なのだろうと予想がついた。そばに茶色いかわいい犬が立っている。
 そして、黒髪のシンタローも、そこにいた。身体は半透明で、黒い髪の上に光る輪っかを乗せている、幽霊の姿で。
 幽霊だということも、また、そんな姿にしてしまった元凶は自分自身にあるということすらも一瞬忘れて、ナオミは心からわき上がる幸せな気持ちに身を浸した。
 シンタロー。迷うことはない。あそこにいるのが、大好きなシンタロー・・・・。
 今すぐにそばに行きたい。触れたい、話したい。
 心臓が、ハーレムに伝わりそうなくらいにドキドキしていた。
「ナオミ、おとなしくしているんだぞ」
 再び言って、叔父は大きな手で突然ナオミの口元をふさいだ。何故そんなことをするのか。ナオミにはその理由が直後に分かった。
 スローモーションのようだ。
 金髪のシンタローが、手を上げる。指先から眼魔砲が発射され、閃光とすさまじい破壊力が扉を貫いた。ジャンの肉体ごと・・・!
「−−−−!!」
 ナオミの叫び声は、せき止められる。
「ジャン!!」
 悲痛なほどの声を上げたのは、サービスだった。すぐ目の前で、親友が爆風に巻き込まれたのだ。
 ナオミの目に色彩が、耳に音が蘇る。
 爆裂音の名残がまだ辺りの空気を震わしている。爆発により生じた煙の向こうに、破壊された扉が見えてくる。
 あの時、ナオミが無意識に眼魔砲をシンタローに向けて放ったあの時に良く似ていた。あれから、全ては始まったようにも思える。
「扉は開いた! さぁ貴様の正体を見せろ!!」
 金髪のシンタローの声が、居丈高に響いた。

 

 

 

 おわり

あとがき

中途半端で終わっているような気もしますが、コミックス最後までのおはなしとなると長くなるので、いっぺんには書けないんですよね。だから途中で終わって、次回に続きます。
今回はストーリー的にはあんまり進みがなく、パプワ島に到着してから扉が開くまでなんだけど、目的は「軌道修正」だったんですよ。
前回「ALONE」から今回のおはなしを書くまで、ブランクは実に5年。
何度も言うように、私はその当時登場したてのハーレムとリキッドの性格をちゃんと把握していなかったし、ナオミは二人のシンタローの間で揺れているし、軌道修正が必要だったの。
ハーレムやリキッドに対する印象を良くさせて、そしてナオミにはやっぱり黒髪のシンタローだと再確認していただかなくてはと。

そういうわけで、第1話は、ハーレムの印象を良くする話(笑)。
ハーレムって、すごく鋭い感覚の持ち主なんじゃないかな。ルーザーの気配にも気付いていたし、いろいろなこと、全体を見ている。だから、ナオミは自分たちの母とは違うんだ、ということに気付いてもらいました。
しかし、寝室に忍び込む辺りは、まだまだアヤしいおじ様だね。

第2話では、しばらく閉じ込められていたというナオミとシンタローの共通点を書きたかったの。
普通の人なら驚く非常識にも、外の世界が初めての二人には何でもないこと。
なんとなく、面白いよね。このおかしさを表現できればと思いました。

リキッドへの偏見は、第3話で解消していただきました。
本当はディズニー好きのかわいい男の子なんだよ。
しかも、洋服のセンスもいいらしい。
リキッドも可愛い女の子には弱いらしくて、ぽーっとしてます(笑)。彼の方が年下なんだけど。

そして第4話で、扉が開きました。

二人のシンタローを、どう呼び分けたらいいのか分からなかったんだけど、文章中では「金髪のシンタロー」「黒髪のシンタロー」というように、ナオミには「シンタローさん」「シンタロー」というように分けました。
本編の紹介では「白シンタロー」というのもあったけど、白黒だから白なので、本当は金髪なんだしね。
それと「キンタロー」という高松命名の呼び名もあるんだけど、何となくかわいそうな気がして(笑)。
 

「DEPARTURES」というのは、原作のストーリーに沿ってナオミを主人公に書いているおはなしのシリーズです。
DEPARTURESシリーズのその1は、「ALONE」なので、これは2話目になるというわけ。
DEPARTURESもALONEも歌のタイトルだけれど、今回は適当なのが結びつかなかったので、普通のタイトルをつけました。

それでは、「DEPARTURES」の3でまたお会いしましょう。
 

 
 

 

H11.3.13