DEPARTURES 3
70% −夕暮れのうた
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第1話・金色の天使
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「扉は開いたぞ! さっさと正体を見せろ、ニセ者!」
金髪のシンタローにより、ジャンもろとも扉は破壊された。
今まで扉の奥に隠されていたホコラを、ナオミは凝視する。砂煙は風に払われ落ち着きつつあるが、暗さと奥行きのせいで、中までは見えない。しかし、その先にある物が自分を待っているような気がした。何か懐かしい物・・・。例えばそれは、幼いころになくした宝物のような、知らずに年月のはざまへ落としていった遠い記憶のような。
「てめエ・・・」
振り向いた黒髪のシンタローの顔を見たとき、ナオミの体は自然に動いていた。
ゆるんだハーレムの腕をふりほどき、小さな崖の端まで駆ける。誰が止める間もなかった。ナオミ自身の理性すらも、その行動を認識できてはいなかったのだから。
「ナオミ!」
最初に叫んだのは、下にいたシンタローだった。幽霊になっているシンタローが見たものは、天使。金の髪の天使だ・・・。まるでフィルムが遅く回っているような、ゆっくりとした時間に感じられる。本当に羽を持っているのか、軽やかにふわりと天使は降りてくる。太陽を背にして、優しく乱れるすべらかな髪はそれは眩しいものだった。
ハッとする。長い金の髪を舞わせて飛び降りてくるのは、ナオミの体だ。
シンタローは両手を伸ばした。半透明の手に、地面の色が透けている。
(・・・ナオミ!)
シンタローは、今ほど自分の幽体を恨めしく思ったことはなかった。この姿では、ナオミを助けることができない。いくら手を伸ばしても、決して触れることすらできない・・・。
「危ない!」
フィルムが正常に動き出した。ドサッ、と音がする。
コージがシンタローの代わりに手を差し出し、ナオミの身体を受け止めたのだった。
「危機一髪じゃ・・・。無茶するのォ、お嬢さん」
「・・・・」
今さらながら恐怖に打ちふるえ、ナオミの顔は真っ青だった。何故あの崖から飛び降りるなんてことをしたのだろう。地面に下ろされでもふらつき、駆け寄ってきた兄のグンマに支えられる。
「ナオミ、どうしてここに」
「お兄ちゃん」
兄の顔を見て少し安心し、ナオミは今自分が飛び降りた崖の上を見上げる。つられてみんなも同じ方向を見て、息をのんだ。
「ガンマ団特戦部隊・・・」
ハーレム以下4人の特戦部隊のことは、無論ここにいる全員が知っている。にわかに緊張が走った。
「妙ですね。特戦部隊が、たかが島ひとつに出てくるなんて」
さりげなくグンマの手をナオミから離させながらドクター高松がつぶやくと、サービスはさぁな・・・と答えた。
「ただわかっているのは、特戦部隊の出動が意味するもの、それは攻撃目標全破壊だ」
穏やかならぬ言葉に、ナオミも再び体をかたくする。
「ハーレム隊長! あそこに秘石が!」
崖の上で、特戦部隊のGが叫んだ。指さす先をナオミがたどると、茶色くてかわいらしい犬にぶつかる。パプワと仲良しの、チャッピーだ。その首輪には、確かに青い石が輝いている。
ザザッ、と金髪のシンタローが崖から降り、犬を抱き上げた。少しこわごわと、でも優しく抱き上げているようにナオミには見えた。
「や・・やばい」
「秘石を取られたぞ」
チャッピーの首輪から青い秘石が取られるのを見てガンマ団員たちは焦るが、焦るだけで何もできない。シンタローはチャッピーを肩につけるように抱いていた。
「動物を触るのは初めてだ」
またあの子供のような調子をのぞかせて、どこかぼんやりとひとりごちるもので、ナオミの頬も少しゆるんだ。
が、Gの硬質の声が、すぐに緊張を呼び戻すのだった。
「ハーレム隊長、アイツらいかがいたしましょう」
「ふ・・・」
肩越しに振り向いて、無表情をつくり、ハーレムは指示を出す。
「サービスとナオミ以外は、好きにしろ」
「そうこなくっちゃ!」
早速前に出たのは、血気盛んなリキッドだが、マーカーが鋭く声を飛ばして制した。
「待てリキッド!」
「あんだよマーカー」
「馬鹿者が・・・気付かんのか!」
本当に見下すようなマーカーに反感を覚えつつも、リキッドは足を止める。目の前で、何かが微かに光を反射した。目線を左右に走らせる。
「なんだァア! この糸は!!」
行く手を阻むかのように、リキッドの目の前には、細い糸が幾重にも張り巡らされているのだ。きらきらと粒を転がすように無数の糸が光っている。
「抜け目ないですねー」
気付いた高松は半分呆れているかのようだった。
「アイツはこーゆー演出が好きなんだヨ」
サービスは首を巡らせ、上に向かって親友の名を呼んだ。
「そうだろ、ジャン!」
驚いて、ナオミも見上げる。高い木の枝に、本当にジャンの姿を見つけた。
「さすが親友! わかってらっしゃる」
ちょっとおどけるようにして、ジャンは木の上から降りてくる。
「やはり、かわしてたか」
「靴を片方損したけどね」
同じく糸の向こうにいる金髪のシンタローに、左足を上げてみせる。左の靴だけが眼魔砲に巻き込まれ、ジャンは裸足になっていた。
ナオミは深く息をつく。人が死んだりしないで、本当に良かった。
「その糸は特殊調合してある。触ったとたん、大爆発するぜ」
ジャンの解説に、リキッドは切歯するが、金髪のシンタローは黙って前をにらみつけながらチャッピーを地面に下ろしてやった。
「もう行け」
チャッピーはずいずいと糸の下をくぐり、パプワのもとへ走って戻る。パプワは「お帰り、チャッピー」と小さな手で大好きな友達を迎えた。
ジャンはそれを見届けると、みんなを促しながらホコラへ体を向ける。
「急げッツ!! グズグズしてるヒマはないぞ!!」
みんなはジャンと共に走り出した。ナオミも後を追う。
何かがある。この奥に、自分にとって大切な、何かが。
根拠のないはずの、それでも確かな予感に背中を押され、ナオミは駆けた。
つづく
第2話・赤い光
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