DEPARTURES 3   
 やしの陰でひざを抱えて、ナオミはひとり、物思いにふけっていた。
(私は、一体、何者なの?)
 答えなど、出そうもない。海に反射する光が、ちらちらと目に眩しいだけだった。
 赤い秘石もジャンも、明らかに自分のことを知っていた。そして自分はルーザーの娘ではなく、ガンマ団に捨てられていたところをハーレムに見つけられた拾われっ子だ。
(赤の一族なの?)
 それならば、この外見はどう説明がつけられるのだろう。
 ナオミは、金の髪に触れてみる。つやつやの感触が指に心地よい。
(青の一族・・・?)
 金の髪と青い瞳。両の目に宿る不思議な力は、青の一族の秘石眼だ。マジックもハーレムも、みんなが認めているのだから、間違いはない。
 赤なのか、青なのか・・・。
 思考はループして、振り出しに戻ってしまう。ナオミは顔をふせてしまった。
 やしの葉から光が漏れて、金の髪をきらめかした。
 熱を感じる。頭の上で、太陽は回っている。あの夏の日みたいに。
 暑い暑い・・常夏の南の島・・・。

「ねえ・・・」
 うるおった女性の声に、ナオミはハッと顔を上げた。すぐ隣に、人が立っている。
 驚いた。気配なんて感じなかったのに。
「・・・・」
 声も出せず、左側に顔を向けるのが精一杯。
 木の幹に右手を回して、背の高い女性が一人、こちらを見下ろしていた。ナオミの目は彼女に釘付けになる。白いワンピースに包まれていても尚、それと分かるグラマラスなボディ。華奢なナオミとは対照的だ。ストレートの長い髪は見事に美しい黒で、葉陰をくっきりと映し出していた。 少し日焼けした肌に、赤い唇。鼻すじのすっと通った大変な美人で、凛とした瞳も髪と同じ色をしている。
 女の人は、ナオミに微笑んでみせた。
「あなたは・・・」
 ナオミの問いには答えず、黙って隣に腰を下ろす。軽くて白いスカートがふわっと広がった。
 彼女のつややかな髪が、すぐ目の前にある。太陽の下でもまだ黒い、シンタローとそっくりの色をした髪だ・・・。
「あの」
 思いつきは確信に近かった。ナオミは彼女の側に手をつき、身を乗り出す。
「あなたは、この島の方?」
「・・・まあね」
 あいまいな答えと笑みだった。それでもナオミには十分だ。
「それじゃあ、赤の一族なんですか?」
「ズバリ聞くのね」
 くす、と笑って、長い髪をかき上げる。妖艶さをまとった声と仕草に、ナオミの勢いはそがれてしまった。
「昔ね、私、ここに住んでいたのよ。いいところでしょう、ここは」
「・・・はい」
 大気の濃さも、熱い太陽も、全てがナオミに心地よいはずだった。
 ただ、さっきまでは、それを感じる余裕を忘れていたのだけれど。
「ナオミ」
 ごく自然に名を呼び、日焼けした腕を伸ばすと、ナオミの肩を抱く。
 少しもいやな気はしなかった。まるでこの島に包まれているみたいだったから。
「あなた、疲れているわ。休みなさい」
 優しい命令。ナオミは逆らわず、彼女の膝の上に頭を載せた。目を閉じる。いいにおいがした。海と太陽と、えも言われぬ甘さが混じり合ったような、そんなにおいが彼女の体から立ちのぼっている。遠い昔にどこかで感じていた、懐かしいにおいだ。
「疲れているときは、ゆっくり休むのが一番よ。そして、目が覚めたら、深呼吸して周りを見回してごらんなさい。今よりももっと、いろいろなものが見えるはずだから」
 ゆらめく声には、慈しみが満ちている。安らぎの中ですぐにでも眠りの波にさらわれていきそうだった。
「・・あなたは・・・もしかして、私の・・・・」
 意識のふちでもがいて、ナオミはどうにか声をふりしぼった。しかし、途切れてしまい言葉にならない。
 最後に知覚したのは、頬を撫でられる優しい感触と、これもまた途切れた彼女の声だけだった。
「そうよ・・・私は・・・・・ナオミ、あなたの・・・・・・よ・・・」
 心に刻みつけることが、叶ったかどうか・・・。

 
 

 

 

つづく
 
 
 
 
 第5話・夕暮れのうた

         「70%−夕暮れのうた」トップへ   南国少年パプワくんのページへ戻る      ホームへ戻る


H11.5.6