DEPARTURES 3 「ナオミ」
 けだるい暑さの中で、軽く体をゆすぶられるのを感じ、ナオミは目覚めた。気分だけはとてもすっきりとしている。
 両手で体を支えて、起き上がる。ぽーっとした目で見回すが、黒髪の美女の姿はどこにもなかった。あれは夢だったのか、それとも・・・。
「どうしたんだい、ナオミ」
「・・サービスおじ様」
 心配そうな叔父の顔にピントが合う。ナオミはゆるく笑ってみせた。
「ごめんなさい。私、眠っていたみたいで」
「風邪をひくよ。もう夕方だ」
 サービスに助けられてすっかり起き上がり、元のように座り込む。
『深呼吸して周りを見回してごらんなさい。今よりももっと、いろいろなものが見えるはずだから』
 不意に耳の奥に蘇ったのは、あの女性のしっとりとした声。ナオミは息を吸い込んだ。海のものに混じって、夕暮れのにおいが鼻をくすぐる。
 赤い、赤い空。
 青い瞳を見開くと、そこに世界が広がった。
 まるで両腕を広げているかのような水平線に、今しも夕陽が迎え入れられようとしている。 太陽は今まで見たこともないほど大きく、赤かった。
 飛行船の中からも夕焼けは見ていたけれど、それよりも、もっと迫り来るような・・・鮮やかな夕陽!
「きれいだわ・・・」
 胸を衝かれて、それ以上の言葉は出てこない。
 サービスは、そんな姪を黙って見守っていた。朱に染まる頬や髪を、いとおしく感じながら。
 夕陽はみるみる沈んでゆく。じっと見つめていると、海の彼方へと動いてゆくさまが分かるほどだった。
 またそれに呼応するように、海面も赤い光をたくさん反射させていた。きらきらと、それはまるで繊細なガラス細工のように。
 この世界の、なんと美しく、雄大なことだろう。
 今まで、ナオミの世界の全ては小さな部屋の中だった。そこでは自分の思い通りにならないことなど、何一つとしてなかった。
 だが、本当の世界は違う。
 ここで、この大自然の中で、自分の存在の何と小さなこと。
 それに気付くと同時、少しの切なさを抱き、涙の出そうな心地にもなる。
 −赤でも青でも、そんなことはどちらでも良いような−
 自分が自分である限り、大した問題ではないような。
「ねえ・・サービスおじ様」
「なんだい」
 ふっと息をつき、ナオミはサービスの方に顔を向けた。目を上げる。青い瞳すら、夕陽の色を吸い込んで美しく、わずかにうるんでいた。
「私がどこから来たのか、それは分からないけど、でも、私は、ナオミなの」
 秘石眼の奥に、ゆるぎない意志が見える。サービスは頷いた。
「ああ。ナオミは、ナオミだよ」
 本当はそばにいて支えてあげたい。しかし、それが出来るのは自分ではないということも、サービスはとっくに気付いていた。
 それならば、せめて認めてあげたかった。
 どんなことがあっても、ナオミはナオミだと言ってあげられるように。

 夕陽が、最後のきらめきを残して沈み切ってしまうのを、二人は言葉もなくして見つめていた。一条の光をまっすぐに浴びて、髪も肌も全て夕暮れの色に浸して。

 サービスにも、ナオミにも、大切な人がいる。待っている相手が。
 二人の待ち人は、一体いつ、どんな姿で戻ってくるものか。
 例えどんな結果になろうとも、それが愛する人である限り、気持ちは揺るがないだろう。ただそれだけは信じていた。
 そう、誓いを立てることすら、いとわない。この島の、こんな夕暮れの中でなら。
 

 
 
 

 

おわり
 
 
 
 

あとがき
 
DEPARTURESも3作目です。
今回は、マンガで言えば時間的には白シンタローに扉を破壊されてから、パプワとくり子が海辺で話をし、別れるまでを描きました。

そろそろナオミの正体を・・と思ったんだけど、小出しにしているね。ジャンも、「今は時間がない」とか言ってごまかしているし。
南国美人も登場しているし。
・・・なんか、いつものごとくあんまり深く考えないで書いているから、後でつじつまが合わないことになったらどーしよう。
ま、いずれナオミの正体も分かるでしょう。大した仕掛けでもないんだけどね。

最近、小説に夕焼けをよく出しているような気がする。好きなのかなあ。
でも、夕陽が沈むスピードは本当にびっくりするくらい速いよ。見ているうちにどんどん沈むんだよ。

タイトルは、私が好きでよく聴いているCHARAの歌からもらいました。
70%は意味不明だけど(笑)。

ではまたDEPARTURESの4でお会いしましょう。
 


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