世間知らずのタレント

 

彼は、いま売れないタレント。一時は日本中が彼に注目し、良くも悪くも彼が話題の中心だった。

彼のケチのつきはじめは結婚であった。愛した女性と結婚したがそこから人気は急降下・・・。

愛した女性は一流タレントを選んだのであり、今の彼には愛想をつかしている。

その彼女といえば、すでに別居中である。

そんな彼が今、一代決心をしようとしている。それは、タレントを辞めて事業を起こすことである。

昔、稼いだお金はすでにない。人気絶頂のときは生活費が毎月300万円かかっていた。

それが今では毎月50万円。稼ぎは0円である。貯金もすでに100万円割っている。

しかし、彼には幸い自宅があった。そう、結婚と同時に購入した都心の一等地の住宅である。

当時、総額2億円と言われた自宅を担保に銀行に交渉へ行くと決めた日にある人物が彼を訪ねてきた。

「こんにちは。私はこういうものです。」名刺には日衰(ニチスイ)の営業マンと書いてある。

「どういう、ご用件ですか?」

「はい、何かお金のことでお困りではないかと思いまして、失礼かと思いましたが、突然お伺いいたしました。」

「おお、それは奇遇ですね。今から銀行へ行こうと思っていたところですよ。」

彼は、その日衰の営業マンに融資の話を持ち出した。

「それは、よかった。私どもは真心を込めてお金を貸しております。これは、何かの縁でございましょう。ぜひうちで融資させてください」

「彼は、渡りに船とはこのことだ」と大変喜びし、その場で借入申込書にサインをした。

「では、明日にも現金を5000万円お持ちいたします。ホントにこんなことがあるんですね。」

営業マンと彼は笑顔でその日は別れた。

彼は、さて、どんな事業をしようかな?明日には5000万円くるからそれから、考えるか。

なんと、彼はまだ何をやるかは決めていなかったのだ。

その日の夜、彼の別居中の奥さんが帰ってきた。

「やあ」

「お久しぶり」2人はぎこちなく挨拶を交わしたが、彼が

「立ち話もなんだから、入ってよ」

「うん」

「で、今日は何しにきたの?」

「あのね、私いま、あなたと別居して考えたの。いままで、わがままばっかり言って、あなたに甘えてきたことも、やっとわかったの。それでね、またやり直したくて戻ってきたの。」

「そうか・・・。実は、おれも今の生活をどうにかしようと思っていたところだったんだ。」

「それでね、私いま、ブティックやってるの。今度ね、そのブティックで海外の有名デザイナーの服を独占販売しようと思ってるんだけど契約金が足りなくて・・・」

「お店、開いたんだ」

「うん。それで2人の生活をまた楽しく、2人の生活を前のように楽しくできるようにと思ってるの。」

「そうか、君は君で考えていたんだな。それで、それにはいくら必要なの?」

「別にお金は必要じゃないの。今はね。ただ、手形にサインして印鑑を押してほしいの。」

「ほう、手形か。初めてだな。見せてよ。」

「うん、これ」

「あれ、初めてじゃないや。最近みたことあるな。いつだったかな?」

「いつでも、いいじゃない?金額3000万円で振出人は当然私ね。あなたは、その保証人ってことになるのよ。これがうまくいけば、あなたにもうちのお店手伝ってもらうわよ。」

「わかった。」彼は心よくサインしながら思った。じゃ、今日申し込んだ借り入れはキャンセルしよう。夜も遅いから明日にでも電話しとくか。

2人は久しぶりに2人の夜を過ごした。

翌朝、彼は目がさめたが、彼女は隣には見あたらなかった。居間に行くと手紙がおいてあった。

「ありがとう。今日、契約だから。よく寝ていたので起こさず行きます。」

今日が契約か。うまく行くといいな。

やっと未来が明るくなったような気分でとても楽しい気持ちで朝食をとった。

すでに、昨日契約した借入金のことなど忘れ、楽しいブティックで自分が働く姿を連想しながらニヤニヤとした日を過ごしたのだった。

夜、奥さんより電話がはいった。

「もしもし、朝ごめんね」

「いいよ、それより契約どうだった?」

「バッチリよ。それでね、いまその有名デザイナーの国に突然招待されて空港にいるの。」

「ええ、今からいくの?」

「そうよ、外人は気が早いわ。私も相手の気が変わるのイヤだし、まだ、いろいろ協力もお願いしたいから、いまから2ヶ月ほど海外へ行ってきます。帰りを楽しみにしててね。」

彼は、それはいくらなんでも早すぎないか。と思いながらも彼女はオレよりしっかりしてるから任せるしかないと思った。

「うん、楽しみに帰り待ってる。おれも、いろいろ勉強しとくよ」

 

 

それから、1ヶ月がたったある日だった。

いつものような、朝を迎え、何をするわけもなく午前中を過ごしていると、

「ピンポーン」

めずらしいな、来客か。

玄関にでてみると、そこには2人組のサラリーマンが立っていた。

「朝から、申し訳ございません。日衰です。集金にお伺いしました。」

「なんのことでしょう?」

「イヤだな。1ヶ月前にお金を貸した日衰ですよ。冗談はなしですよ。」

「ああ、あの日衰さんですか、お金を持ってきていただいたんですね。すみません。実はお金要らなくなったんですよ。キャンセルしてもらえませんか。」

「何、寝言いってやがるんだ。集金に来たんだ。ふざけるな。」

「だから、キャンセルしたいんですけど・・・・・集金?」

「貴様、よくわかってないらしいな。いいかよく聞け。1ヶ月前にオマエは日衰から5000万円融資を受けたんだ。その支払日が今日だ。これがその証拠だ。」

日衰は彼のサインが入った借入申込書を見せた。

そう、彼がサインしたのは申込書ではなく、手形の振出人になっていたのだ。

「?????」

「でも、私はお金を貰っていないんですけど。」

「うちの金庫からは、5000万円でてるんや。オマエ手形しらんのか!」

「この手形は現金と引換えに貰うもんや、あんまり寝ぼけたこといってるとシバくぞ。こらー」

やられた!彼は、だまされたことに気付いた。しかし5000万円があるわけもなく、

「この前来た、この営業マンに会わせてください。」と言って名刺をみせた。

「ああ、こいつもう辞めたぞ。うちは入れ替わりが早いからな。」

「そんな・・・・・。」

「いいから、金だせ。このやろー!利息入れて6000万円や。無いなら、家売らんか。権利書あるやろうが。」

6000万円??利息が1000万円ですか?」

「そうだ、よくみろ手形の額面6000万円になってるやろーが。オマエのサインと印鑑も間違いないだろ。」

「サインと印鑑は間違いなく私のですが・・・すこし、待ってください。ちょっと電話して都合してみます。」彼は都合つけるふりをして慌てて弁護士に電話した。

その弁護士に事の成り行きを説明してどう対処するべきか尋ねた。

「それは、もう逃れようがありませんね。手形振り出しているんでしょ。それで商業取引は成立していますので、争いようがありません。警察も取り合わんでしょうな。」

「そんな・・・」

「忙しいので、無料相談はここまでです。お金もって来てください。ガチャ」

「・・・・・」弁護士がいうのなら悪あがきしてももう、どうしようもないことを悟った。

「すいません、都合つきませんでした。」

「仕方ないな、それじゃ、手形のジャンプするか。」

「ジャンプといいますと、日にちを延ばせるんですか?」

「そうや、うちは良心的やろ。あと1ヶ月待ってやる。その代わり、利息は貰うぞ。合計で7000万円や、ここにサインしろ。あと、担保も貰うぞ。この家に担保設定させてもらう。いいな。」

「はい、待ってもらえるのなら。」

彼は、しぶしぶサインと印鑑を押して今日のところは帰ってもらった。

「畜生!あの営業マンめ」

来月までに、どうやって7000万円用意しようか。

来月には奥さんも帰ってくることだし相談してみよう。しかし、1ヶ月間、連絡もよこさないであいつ、なにやってるんだ。

翌日である。

リリリーン。電話がなった。

「私、消光ローンといいます。えー手形が不渡りとなりまして3000万円の保証人であるあなたに、請求書をお送りいたします。」

「?????」

「これは、奥さんですかな?苗字がいっしょだが。」

「はい、そうです。」

「その奥さんの手形ですよ。不渡りになったのは。」

彼は、奥さんの事業が上手くいかなかったことを考えた。

「まったく、困ったもんですね。2500万円持ち逃げですよ。500万円は利息ね」

「ええええっ?」

「若い男といっしょに来たときから、なんだかおかしかったんだが、おなたの保証があったから、融資したんだが、やっぱりこういうことになってしまったよ。」

「・・・・・」

「まー、おたくの家は、担保もついてないし3000万円ぐらいは、家を処分したら払えるでしょう。手元のお金でもいいから、早く払ってよ。」

「・・・・・」

「それじゃ、よろしく。ガチャ」

彼は、奥さんに騙されたことを、いま気がついた。

なんとも言えぬ憎しみが奥さんへと向けられた。

「あのやろー、若い男だ。ふざけやがって!」

 

数日後、彼の家に1枚の絵はがきが届いた。

その絵はがきは、奥さんからだった。

「あなた、ごめんね。でもこうでもしないとお金もらえないし。慰謝料と思って許してね。慰謝料と思えば安いでしょ。2人はもうやり直しはできないのよ。子供がいなくてよかったわ。いまね、新しい彼が出来たの。これで私から心も離れることでしょう。」

絵はがきの裏の写真には、楽しそうな奥さんと若い男がうつっていた。

若い男は、そう最初にきた日衰の男だった・・・。