−サクラの木の下には、死体が埋まっていると言う−
「お前が埋まれぇぇ!焔ぁ!」
「うっせーな!てめーが埋まれ!」
160cmの女、184cmの男。2人は本気で取っ組み合っている。しかもどう見ても酔っ払い。普通ならどう考えても男が有利だろう。しかし実際はそうでもなく、だからと言って男が手加減しているようにも見受けられない。どうやら、体格差を越えた力が彼女にはあるようだ。
場所はサクラの咲く公園。時期も時期なので花見客で溢れそうだ。田舎だと言うのに、一体どこからこんなに人が集まるのだろう。長い冬の間、雪に閉じ込められて暮らした雪国の人間にとって春と言う物は、有り難い物なのだろう。開放感も手伝って、人は外へと出かけたがるようだ。
さて、先ほどのにぎやかな2人だが、どうやら連れもいるらしい。同じ敷物に成人したくらいの女性と小学生くらいの女の子が座っていた。
「ハイハイ、みー、おかわりどう?」
「はーい、ありがとうございますぅ★」
自分たちの背後で繰り広げられている騒動などはお構い無しに、彼女らは花見を満喫していた。そしてたまにちらりと見やり、呑気な会話を交わしていた。
「ひな乃様と焔様、できあがってますね。」
「そうね、できあがってるわね。」
暫く放置していたが、ひな乃と焔の取っ組み合いは一向に収まる気配が無く、むしろ発展の兆しを見せていた。さすがに心配になった「みー」と呼ばれた女の子が自分よりも年上の女性に伺いを立ててみる。
「桃姫様ぁ、ホントに止めなくていいんですか?」
「いいのよ、どうせ止めたって止まりゃしないわ。」
桃姫と呼ばれた彼女の表情は変わることなく「心底無駄だから」と言うオーラははっきりと見て取れた。
その時、
「いーぃかげんにしろぉぉぉ!」
ぶん投げたのは焔と呼ばれた男。投げられた物はワンカップ。
そのカップは空ではなく、お約束に中身が残っていた。
のでもちろんこぼれる。
更に運の悪いことに桃姫の頭上で弾けた。
ぱりん。
「あ・・・」
投げた本人、我に返る。周りの空気も凍る。
「・・・・・」
止まった空気を漕ぐように、ゆらりと桃姫は立ち上がった。黒い影を背負いながら、目は焔を見据えていた。
「今投げたのは・・・だぁれ?」
顔色も変えず無言で指差すひな乃。その先には焔。
「あ、いや、待て!俺のせいじゃなくて!」
「誰が投げたのか聞いてるの。だぁれ?」
有無を言わせぬ静かな圧力。
これもまた、体格差を超えた力である。
これから来るであろう地獄を想像しながら焔は息を呑み観念したように答える。
「お、俺・・・」
それを確認して、桃姫はにこりと声も無く笑った。
瞬間、桃の花が舞った。
暗転。
遠くの方で断末魔の叫び声が聞こえたような気がしたがひな乃にとってはどうでもいいことだった。日常。
酒にも飽きて爽やかにアイスクリームなんかを食いながら彼女は、彼女と同じように置いてきぼりを食らった、みーに話し掛ける。
「黙って言われときゃいいのになぁ。ねぇ、みーちゃん?」
「そうですねぇ。焔様、男に言い訳は似合いませんわ。」
何事も無かったかのように会話は続いていた。
(終)
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