雛の膳
 

赤い布をかけた階段、それはただそれだけのモノに見えた。       小さい屏風やら色重ねの菱餅、橘、ウコンに似せた疑似造作。      それに小さい座蒲団。更にその上におりたたんであるきらびやかな布。  などがおかれていなければ。

「何ですか?これ?」喜々としてそれらをならべてゆく自分の主に桃姫はもっともな疑問を投げかける、小物を並べる手を休めてくるりとこちらを向き「お雛さま飾りっ」はずんだ声でひな乃が答える            「あ、そいでー3月3日にみんなが来るからね〜v」答えにならない返事をしながらひな乃はまた棚に没頭しはじめた。

「みんなって・・・」桃姫の脳裏には緑童子のこの上ない無邪気な、でも迷惑この上ないお遊戯と、面倒みはよいが女性と見ると会話したがる黄童子、べたべたべたべたと青にくっつきたがる元気なだけがとりえの赤童子の姿、それにクールというか、一緒にいると息のつまりそうな、なんで赤童子はあんなにすげなくされてもまとわり付くのか理解に悩む青童子、といった面々が浮かぶ。                             「ま、まさかね、」つぶやいて桃姫は恐ろしい事を思いついてしまった。あの段、ひな乃が作っていた壇と座蒲団のサイズ!あれは自分達サイズではないのか?

「ひ?ひなか、ざ、りとかご主人さま言ってたわよね?」辞書を読もうとして周りを見回す、対になる護法同士は、お互いひきずられる、近くにいればなおさら、身体のサイズを変えるにあたって一応の了解はとっておくものだしかし焔の姿はない、近くにいないのならば、ま、いっか、と、辞書を読みやすいように人間サイズになった。

ごきょ、嫌な音がした。

「あ、あいつめぇぇぇっ!」ここは桃姫の足の下とでも言うか、縁の下、猫が住み着いたらしいのでその様子を見にやって来た焔である。もちろんせまい、人間サイズでも気を付ければ入れないことはない、しかし、前触れも無く15cmから186cmになどなったひにゃ、そりゃ目も当てられないだろう。黒い服は泥だらけ、あちこち打撲だらけである。猫は、あまりの事に驚いて逃げた、置き土産に焔の顔をひっかいて。

「おんなぁぁぁぁぁ!」桃姫が自失呆然としているとどすどすと足音をさせて怒りもあらわに焔が乗り込んで来た、しかし桃姫は反応しない、なにやら眉間にしわをよせて考え込んでいる、手には辞書。           「おい?」その様子にさすがに不信になって焔童子は辞書と桃姫の視界の間に手を入れ、ひらひらと手を動かしてみる、とたん、ばっと本から顔をあげ桃姫が押し殺した声を上げた

「焔!逃げるのよ!」

「はぁ?」

訳がわからないままずるずるとひきずられて行く、いつもとは違う桃姫に先程の文句も飲みこまざるをえない焔であった。


「か、駆け落ち?ですか?」久々に北の地を踏み締めた舞と俊香それに繭里はひな乃の言葉と意味に驚いた、想像が出来ない『あの』桃姫と焔である、「うーん急に親睦を深めたくなったのかなぁ、もぉシャイなんだから二人共いってくれれば宿の手配くらいしたげたのに〜」ひな乃そりゃ違うだろう、とは誰も突っ込まない、妄想ははてしなく。

「えーでも困ったなぁ、せっかくみんなに来てもらったのになぁー」ちろん、視線の先には護法残り4人と繭里がつれてきた北海道組言わずと知れた、コロポックル達が駆け回っている。

「えーと1、2、で3、4、んーとご、ご、ごー5と、6、7、8、9、10っとおお!」ぽんと手を打つ。ひな乃の頭に図式が完成した。

時間経過。

「わーアヤきれーい」「こらたっちゃんキリっとしなさいアヤの方ばかり見て無いっアヤも笑って」ばしゃばしゃシャッター音が響く 「かーわーいーいー」「こらハヤテ逃げるな」むず、繭里がこそこそと逃げようとするコロボックルをむんずと掴む、「ほーらかわいいかわいい」げらげら笑っている。すでに出来上がっているようだ。赤い袴を着けたハヤテはなさけなそうな顔をしている、配役は以下のとおり、 お内裏様たつ、お姫様あや 三人官女サヤ、ハヤテ(じゃんけんで負けた)祀音 5人囃子ヒカル、リョウマ、ヒュウガ、ゴウキ、斗紋 「こらーヒカルーひなあられ全部食うなーっ!」「あっどんどんあたしのもってきたどぶろく!!!!!」「やーんサヤかわいいー」「こらそこの兄弟かってに持ち場を離れない」 こうして護法、コロボックルの面々は女性陣の趣向につきあわされたのであった。


「9、8、7、6、5、4、3、2、1ゼロ、っとよし、3日は終ったわね、何しているの?帰るわよ焔!」3月4日午前0時、説明もされぬままひきずられて来た焔には何がなんだかわからなく、ただ頚をかしげるばかり、桃姫のせっぱつまった形相に何も聞けず今にいたる。

「いけにえに置いてかれなかった事に感謝しなさいよね!」そうえばられても…反論する間も無く帰途に着く。

もう着せ変えとひな飾りにされないはずだと家に入ろうとして足を止める 「駆け落ちしなくても2人にしたげるのになぁ〜〜〜〜〜〜」      「かけおちってなんですかー」                    「それわなぁんーとぉ〜よっしゃしー俺とかけおちするか?」      「わーお師さまとかけおちしたいですー」               「アヤーおれたちもかけおちしよっかー」               「・・・意味わかってんのか?阿呆竜津也」              「うえーひどーいアヤは俺の事嫌いなのおおおおぉー」         「桃姫と焔童子のお雛さまも見たいなぁああ」             「見たいねーひな乃さぁん」                     まだ宴会はつづいていた、酔っ払いに日付を説いても仕方が無いだろう、ましてやお雛様をかたずけるのが遅れれば婚期も遅れるなどと言う俗説などは聞き入れられるはずも無い今帰ればどんな遊びのネタ話のネタになるか知れたものではなかった。

…この宴会が終るまではまだ帰れそうに無かった。

 

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