邂逅  真司 vs ひな乃 <仮>

 

ばたばたと黒いコートをはためかせて一言、「ぷーだ」         ふくれっつらをした彼女は、カシャンとコインの落ちる音と共に終了をしめした望遠鏡の台からストン、と飛び降りた。              デパートの展望台に在るさびれた望遠鏡は久々におとずれた客に対しても時間のおまけサービスはないのだ。

男は視覚に入る彼女のその恰好とその言葉があまりにもそぐわなかったので、ついまじまじと見てしまった。

面白い女だなと思った。


この寒空にこんな所にいるなんて物好きだなぁ、            野上ひな乃は自分の事を棚に上げてそう思う、プーさんか?(熊キャラにあらず)そう思うような格好をその男はしていた、年代入ってそうに膝と裾が擦り切れたジーンズに綿シャツ(ああ、洗濯はしているようだ、)上からカーキの軍隊ものの様なジャケットを羽織っている、脇には巨大なリュック、  しかし何が気を引くかと言えば彼のはいているのがゲタだという所か、今時めずらしい人間だ、一見目付きが悪そうだが妙に人なつっこいような口元が雰囲気をやわらげていた。                      こちらを見ているのは、向うも同じように物好きだとでも思っているのだろうか、お互いさまだよーんとつぶやくとひな乃はこれもまた望遠鏡に負けず劣らず寂れた鉄条網のかかった柵をのりこえて非常階段を降りていった。

「わぉすっげぇ、」ぴゅうとつい口笛の一つもモレるモノだ、それもそのはず、ひな乃が助走無しで軽く飛び越えた柵の高さは自分の伸長ぐらいだ、180cmを越える柵を助走無し、片手の力だけで飛び越えられるモノなど人間には、そういるものではない。

「おもしろいなぁ祐二、世の中は、これだからふらふらすんのはやめらんないね。あれをおっかけるかな」独り言をつぶやく、

もういない人間に対して。

 


 
<<散文