■ 傾きの挑発
「じゃーん!」 

そういってひな乃は小さな(しかし護法サイズには丁度良いのだろう)黒と赤が基調の銃を取り出した。 
「なんだ、それ。」
その銃が恐らく何に使われるかは分かっていたが、自分に向けられる視線を感じて、焔は一応確認を取る。 通常通り、上機嫌のひな乃は含み笑いで答える。 
「んっふふー。古池(こいけ)と共同開発で作ったんだー、あんた専用武器。」 
懲りずにびしっと構えるひな乃は、案外自分にもそういうオモチャが欲しいのだろうか。 



古池 雄(こいけ たけし)
 ひな乃と同じスカイランドに所属する妖怪仲間。仲は、良くも無いが悪くも無い。ちょっと(?)ゲーマー。なので手先が器用。見間違うとただのヲタク系の怪しい人。「声だけ聞けばいい男なんだけどねー」とは、ひな乃談。



共同開発、とは言っても実質はほとんど古池が手を加え、ひな乃は希望のみ伝えていたのであろうことは、言ってはならないお約束。

さて、実際に手にした感触はまぁまぁだと珍しく謙虚な焔。 彼は新たに手に入れたオモチャがおもしろくて仕方が無いのだろう。何かを撃ちたくてウズウズしているようだった。「あの缶、撃ってみな。」そう言って、さして遠くにも無い空缶をひな乃は指差した。「よし。」静かに狙いを定める。思う通りに飛ぶかどうかもわからないのに、当てる気でいる焔は結構のせられやすい。

しかし、見ていた桃姫には疑問があった。
「これは何が発射されるの?」 

普通にしていても妖力のある護法童子に、何を今更、間接物理攻撃の手段が必要なの?、と言う意味であろう。実際そうである。妖力の使えない時は護法自体の存在の危機だし、なにより他の護法とは違い、焔は数値にして1.25倍の破壊力の持ち主なのである。それだけの奴にこれ以上何が?と言うのが正直な感想だろう。

そんな桃姫の気持ちを察したのかどうかは知らないが、ひな乃は即答した。

「吸盤。」 
 



ぺほんっ。 



字にしても音にしても間抜けな音が静かに響いた。 



「なんだよ、これ。」

セリフは先程と同じだが、口調は明らかに今回の方がひねくれていた。

「何って、吸盤ガン(銃の意味)よ。かわいいでしょ。」

そのネーミングもどうだろうか。せっかくかっこいい(この辺は古池の趣味だが)銃を手に入れて、意気揚々と発破したら、出て来たものは間抜け以外の何物でもない「吸盤」である。焔の落胆ぶりは如何ばかりであっただろうか。まぁそれでも、当てるべき所に的中したので、それはそれで良かったのかもしれない。(フォローにもならない)

「俺が言いたいのはそう言う問題じゃなくてだな・・・」

まだ何か言いたそうな焔を遮るようにひな乃は口を開いた。
「あんたの破壊力は知ってるわよ。焔ほどの力があれば大概の相手は倒せるでしょうね。でもね、力じゃなくて、精神的に負けるのって、一番屈辱なのよ。どういうことかわかる?」
随所に焔の自尊心をくすぐるような表現を入れるのはわざとだろうか。ひな乃も痛い所を突いてみたらしい。 

「何もしなくても強いのに、よりによってそいつの放った銃は、弾丸じゃなくて矢なんだよ。しかも吸盤の。もう、相手をおちょくってるとしか思えないね。こーりゃ、喰らった相手は精神的ダメージ大、間違い無し。」
ひな乃お得意の畳み掛け論法である。彼女の表現の仕方に緊張感は無いが、それでも「それもありか」と感じてしまうところもあったらしい。やや説得されつつある焔。実は単純である。
「そんな、多面的に強い奴になるといいな、と思って焔にはこれ!って薦めたけど、気に入らない?」
言葉に詰まる。実は意外だった。いつもいつも暇さえあれば自分に八つ当たりをするだけの主人が、たまには自分のことも気にかけていたのか思うと、拍子抜けと言うものだ。しかし決して心打たれる事は無い。

「いや、気に入らない・・・訳でもない・・・。」
何か言いたそうだが、ここではっきり言うと後々まで言われるので、焔なりに気を遣った答えがこれらしい。「嬉しいくせにね。」桃姫に図星を刺されて更に言葉に詰まり、それ以上何も言うことも無いらしい焔の、不機嫌そうに銃をいじる様は、まんま子供でどこか微笑ましいかもしれない。



「でね、ここにちゃぁーんと炎の模様(ファイヤーパターン)入ってるの★」「あ、ほんとだ。こまかーい。」吸盤の真ん中には、彼女らが楽しそうに騒いでいるように焔の手足にも描かれている炎の印が記されていた。それを見た焔は確信した。 
「大義名分だ・・・!」 

安い大義もあったものだ。 

 
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