お土産一波乱
 


「とーしかさーん。あーそぼー。」
 

そう言って無遠慮にドアを叩く女。名を野上ひな乃(のがみ ひなの)と言う。こんな口調だが、外見年齢は一応成人女性らしく見える。その叩いたドアの横には、ちゃんとインタフォンが設置しているのだが、なぜか彼女はドアを叩く方が好きらしい。
 

「小学生じゃないんだから・・・。」半ば諦め笑いでドアを開けたのはこの部屋の主、小坂俊香(こさか としか)である。

「何しに来たの?」「そんな!遠くからわざわざ来たのに、そんな事言うの?」かわいこぶっても駄目。
 

実際、ひな乃の住む青森と俊香の住む東京は、お世辞にもあまり近い距離とは言えない。何かしら事件絡みで来ていると言うことも無くはないのだが、基本的にひな乃と言う女は「なんとなく」で行動することの多い人間なので、「今回もそれ?」と俊香は思ったのであろう。もちろん、その予測は間違っていなかった。
 

「おみやげおみやげ。これ、自称日本一のシュークリーム。」後ろ手に提げていたビニル袋を目の高さにまで掲げて、ひな乃はにっかりと笑いながら言った。

シュークリーム。それは俊香本人と彼女の持つ青護法、の『好物』で、あるはずだった。



「なんてったって『自称』日本一!これはもう、お2人に食べて頂くしか無いってもんですよ。 あ、大丈夫。ちゃんと護法は別にして持ってきたから。」そう言って上着の胸ポケットを軽く叩くと、中から抗議の声が聞こえた。
 

彼女もまた、愉快な護法所持者の1人である。
 

いそいそと袋からシュークリームを取り出すひな乃。そんな楽しそうな彼女とは対照的に俊香はやはり(やはり?)浮かない顔だった、一応紅茶を用意はしてみたけれど。

「『自称』ってすごく気になるんだけど?」どうやら彼女はその枕詞「自称」がいたく気に障るらしい。しかしひな乃も思う所は同じだったらしく、内ポケットに入っていた護法2人をつまみ出しながら答えた。「そーなんだよねー。胡散臭いよねー。で、あたしもさ何がどう日本一か気になるから、お店に聞いたんだ。そしたら、」
「そしたら?」少々の期待を込めて俊香も一応あいずちを打つ、
「種類が日本一なんだって。」
「ああそう。」がっくり、どんなすごい答えが返ってくるかと思えば、それは実にどうでもいい理由であった。「全部で200種類以上。あまりに多すぎて、店に全部並べられないほど。更に正確な数も分からないって。」種類の豊富さはまだしも、それを把握できていないと言うことは、威張って言えたことだろうか。

「それでどうやって売るの。」
「定番以外は予約販売だって。要電話予約。」
「それって・・・。」

本末転倒である。



「ということで、定番品プラスα買ってきたんだ。食べて食べて。」何が「ということ」なのかわからないが、ひな乃自身の中では整理が付いたらしい。悪意のかけらも無くにっこりとそれを差し出す様は、どこか不気味だ。

「嫌だなぁ。そういう『数で勝負』モノって基本的においしくないから。」人に勧められた物は取り合えずでも受け取るのが礼儀だが、モノがモノだし、相手も相手なのでつい俊香は正直に考えたままを口に出す。もちろん相手がそんな事を気にしないというのが前提である。そしてひな乃には確かに通じなかったらしい。とは言っても、ここまで持って来てしまったのだから、もう引っ込みが付かないというのもあるのだろう。

「まぁまぁ、美味しかったらラッキー、不味かったら笑い話ということで。」
なし崩しに話を進めようとするひな乃だが、俊香はぴしゃりと言い放つ。

「そう言う怪しげな物はこれっきりにしておいて。」
 

確かに。
 
 

 

<<散文                     次文>>