節 分
 

「何故逃げる?」                           じりじりとその影は近付いてくる。                  顔を冷汗がつたう、もう逃げ場がなかった。

「逃げるなっつーとるだろが!」その声と一緒に何かが飛んで来る、   バラバラバラっ                         「鬼はー外!」                            「痛ぇぇぇぇぇっ!てめぇいいかげんにしろぉぉぉぉぉぉぉっ!」

「好きよね、ご主人様はイベント。」少し離れた場所で桃姫は、はふ、とため息をつきながら窓の外を見る、彼女の主人であるひな乃は吹雪いている外に出れないうっぷんもあるのだろうが、節分の豆蒔きゴッコをしてヒマをつぶしている、もちろん焔が鬼だ。                   マトが小さくすばしっこい為なかなかいい運動になっているようだが、お昼を食べて腹ごなしだと言ってすでに3時間程やっている、よくあきないモノだと桃姫などは感心する。

時計を見れば2:50。タイミングもいいので、たまにはあの哀れな相方を助けるかなぁと頭の片隅でちょっと考えてみたり。

「ご主人ーっお茶の時間ですけどどうなさいますか?」         「あ、玉露がいいなぁv」くるっと方向転換、桃姫は小さな身体では不自由なので人間サイズになってお茶の支度をする。             「まだ当分お天気駄目みたいですよ、」これは無意識に会話としてでてしまったのだが、そのセリフにひな乃がにしゃ、と笑みを作る        「あ、そか、おっきくなったしちょーどいいね、」くるっと桃姫に引きづられてこれも人間サイズになった焔に向き直り「雪掻きしてね、もっとひどくなる前に。」だけ言い残しお茶をしに向かう、

「…お前の方がよっぽど世間一般的に鬼じゃないのか・・・?」      それでも律儀に雪掻きをしに行く焔に桃姫はつい付け加えてしまう、   「炎で焼いたりしちゃ駄目よ?ご近所の目に止まったらマズイからね。」 「わかっている!」さらにヘの字顔になった焔を見送ってこんなはずじゃなかったんだけどなぁと罪悪感を少々覚える。ちらりとひな乃の顔を見ると 「終ったら入れるようにお風呂を入れてやれば?」君達は本当にかわいいねぇと言わんばかりの笑みをたたえてひな乃が言った。その意味深な含み笑いに気をきかしてくれた意味を見て取り、少し顔を赤くしてうなずきながら桃姫はお風呂場に駆けて行く自分から焔の為に何がしたい、とはリアクションがおこせない桃姫であった。

「あーもー二人ともっかーわーいーいーっ」ひな乃はコタツに入り、窓の外の雪掻きしている長身の焔を見ながら桃姫の入れてくれたお茶をすすった。


「出来たー」俊香がなんとなく買って来た豆にはこの時期のイベント用に鬼の面がついていた、切りぬいて輪ゴムをつけるとかぶれるようになっている少々護法サイズには大きいが。                    「節分の夜豆蒔きっていう行事があるのよね、」と説明を受け民謡と行事内容をを聞いた赤童子はやってみたくなったらしい、しかし、       「俺が鬼やるからーねーあやぁ豆撒きやろうよー」というさそいに対し  「嫌だ」青童子の実も蓋も無い会話の打切に、寂しそーな顔をしてすごすご引き下がる、言えば相手をしてくれそうな俊香は出かけてしまい誰も彼の相手をするものはいなかった 。


「きゃーきゃーきゃー次はお師さまが鬼っ」              「し、しーまだやんの?」豆があたったら鬼になる。というとりきめにしたお遊戯、もちろん黄童子は手加減している、師匠というよりこれでは子守だなと最近とみに思う。                        「しーちゃんと遊ぶのは嫌ですか?」うるっと緑童子が瞳を潤ませる

「あ〜あ〜泣かした〜しーちゃんなーかした〜」一人こたつにぬくぬくとしながら舞が突っ込む、すでに微酔い状態。               「そ、そんなことないぞ!」舞さんずるいよーと心でつぶやきつつも、観念して、また黄童子は鬼の面をかぶる「わーい」素直に喜ぶ緑童子の顔を見てるとまぁいいかーと思ってしまう俺ってちょっとかわいい。などと誰も突っ込めない所で黄童子は思った。


「ただいまー」夜中である、もう寝てるかな?とおみやげに買って来たナポレオンパイを冷蔵庫に入れ、ようとしてなんだか変な音に気が付く。

「違うわね?」これは呻き声だ、あわてて声のする方に走る、何かあったのだろうか?

「竜津也?!綾瀬?!」はたして居間で赤童子がうなっていた、そばでは青童子がかいがいしく汗など拭いている、が、なんとも心配している顔ではなく、ぶっちょうずらだ。

「綾瀬、竜津也どしたの?」                     「豆を…50何個か、」                        「50個?!食べたの?!」                     15cmの分際で…50個も食べればそりゃお腹も痛くなるだろう。よく見れば赤童子のお腹はぱんぱんに膨れている。

「それでか、しっかし何でそんなに?」ちろ、赤童子を横目で見ながら、 「年の分とか、」ああ、そういえば節分の話でそんな事も言ったかもねぇ 「普通食べる?」青護法がふるふると肯定の意味で首を振る青童子は心底呆れているようだ、(見た目、形はこうだが、彼等が造られたのは50年以上も前だ、ほとんどを眠ってすごしてはいるが、始めの記憶があるので逆算でもしたのだろう、)とりあえず身体のサイズを人間と比較して小量の消化剤など飲ませてみる、後は自分で消化するのを待つしかない。

「さて、あや、ご苦労さま、お土産にナポレオンパイあるよ食べる?」    とたんに青護法の表情がふにゃっと明るくなる。彼はカスタード系のお菓子が大好きなのである。                        「おーれーもー食べたいー」                     半泣きで赤童子が訴えるが二人から冷たい視線で却下、当然の事だ。

「では、紅茶を入れてまいりますねv」いそいそと人間サイズになりキッチンへ向かう青童子、当然竜津也も引きずられて人間サイズになる。

「…あれ、お腹痛くない」

至極もっともだ、186cmの人間が豆の50個ぐらい食べたぐらいでそうそう体調をくずすわけもなく、かくして、脱力した綾瀬と俊香の見守るなか喜喜として一緒にパイを食べる赤童子であった。

もちろん 頭には報復の瘤の2つもあったけれど。


節分は、そもそも邪鬼を追い払い厄払いをする風習である、が、こんな彼等の日々の生活で邪鬼などといるわけもなく、今日も明るい声が各御家庭では響きわたるのだ。

笑う度には福が来る、かもしれない。

 

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