| 時移り事去りて行き交ひて |
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いつもより早い時間についてしまったので一番乗りかと思ったが、扉を開けたとたん「こないだの『アレ』調子どうだった?」所せましと書籍や書類の乗っている机の向うから声がした、顔が見えないが彼だろう。どうやらまたここですごしたらしい「うーん調子いい、とは言わないかなぁ今日はまだ見に行ってないんだよっていうかそれの為に残ってたんじゃないの」 上着をハンガーにかけて大きめの眼鏡を外し少しくせのある長めの髪をかきあげる、それを見て「伸びたなー」と今度は近くで声がかかった 「…お前の動きが素早いのはわかったからもう少し気配出して近寄ってくれるか?」自分の後ろからちょいちょいと自分の髪の毛をひっぱる相手に対して形だけ文句を言ってみる、どうせ言ったって聞きやしないのだが 「だって俺人間じゃないし」 目の前にいるこの男、日本人にしては少し堀の深い顔立ち、ブラックアイ、少しグレイがかった髪をオールバックに長身を白衣でつつんだその男「人間だろ」自分との距離を置かれた気がしてついむきになる自分に、にかっと笑みを作ってよこす 「柏餅食う?」「はぁ?」唐突に目の前に包が差し出された「ああ今日は節句か、って違うよ!」 「和菓子嫌いだっけ?」「いやそんなことは、」「んじゃハイハイ」「どうしたんだこれ?」なんとなく先程までの会話を続けるのがむなしくなって乗せられてると思いながらも自分で方向転換してしまう、食べればなかなかどうしてよもぎが香り、アンコもそんなに甘くなくておいしい「作ったんだよ」「は?」「昨日よもぎつむの手伝だってもらったじゃん」 そういえばそんな事もしたような「んで調理室借りて作ったの」 「お前ってたいがい突拍子もないよなぁ」あきれるを通り越して感心する、ああ、そういえば似た人がいたなと思い忍び笑いをもらす「何?」「いやぁ兄きがさ、似たような事をやってたなと」「ふん?例の旅好きな兄き?」 「うん、親はほら物心ついたらいなかったから、たいして離れてないのに俺の面倒見るんだって頑張ってくれてさ、そういう節句なんかはかかさなかったんだ、まぁそんなんでも俺が高等学校卒業したとたんに出かけるから後は適当にやるよーにとかいってふらっと出てっちゃって、」「音信不通?」「いや?事細かく手紙よこすよ、今日はここ明日は何処」 「うわー過保護」「じゃなくて日記というか見聞録なわけだよ、実際内容は俺にだってわからないような走り書きああでも面白いよ俺等と違ってそこに居る、とかそこに在るモノを見て歩いてる、どこぞの庵で鼬にあったりね、その鼬は不思議な事に毎日近くの潮だまりを眺めているらしい、聞くとそこに眠るモノを待っていると言うのだな、ちょっと面白い話だろう?」 「ふーん」 しばし柏餅をぱくつく 「アレさぁ片方なーんか安定悪いんだよねぇ」「どっち?」「焔」「そりゃ」「そう、もらった方」「人選誤ったんじゃないのかどんな素性だったんだほいほいワケわかんないモノなんか使うからだ」「うーんよくは、ええと交通事故で即死、20前後男性身元不明。」「にしたんじゃないの?」「えーまさか、まぁまだ数値は許容範囲だしもう少し様子を」 書類を手に取ってめくる「どうした?」急に口をつぐんでしまった同僚に問いかけながら、べろ、口元をなめた「なぁっ!なにすんだよリュウヤぁぁぁ!」真っ赤になりながら口下をおさえて祐二が叫ぶが「アンコがついてたから取った」とリュウヤは平気な顔をしている「えっ?あっ悪いってだからちーがーうーんーだー」あわてふためいている祐二を眺めてつぶやく 「なんでおまえみたいなのが」当の本人には聞こえない程度の 「祐二がどうか?」在るべきでない三人目の声「…!?」気がつかないなんて「兄貴!?」祐二が目を丸くしている兄き?「なんで!いつこっちに、れ?なんでここがわかったの?」そうだ、ここは一般人が来られる場所では「んー?まぁいいじゃないの、兄弟愛だよ兄弟愛!」よくは無い、ここは関係者の家族で在ろうが、下手をすれば、外に出られなくなる。 しかしこの気配のなさは「はっじめましてっ君がリュウヤ君?いつも祐二がお世話になってます〜兄の笠戸真司といいます。ところでこれ君が作ったの?美味いねぇ」見ればまだ残っていた柏餅をパクついている「は、始めまして」「もー兄貴ーもう初対面の人にー」 「リュウヤ君」図上から声がする木の上だ 「声をかけるのに上からは、どうかと思うんですけど」言い終らぬうちに飛び降りてきた「や、失礼あんまり見とがめられたくなかったんでね」「祐二とは血のつながった兄弟なんですか?」「うん、こないだまでね、やっぱり君にはわかるよな、なんか違うモノになっちゃったんだよなぁ血は流れてるよ心臓無いけど」 人間とは違う存在。異形のもの、やはり「ローズクルセイダーに殺されちゃってね」 「…なっ」「調べものをしててね、深入りしすぎたみたいだ、」「私はそこの研究員なんですよ、末端ですけどね、」「君はたぶんやつらのやっている事を知っていて、でも賛同はしてない、それに人間では無いだろう?弟を祐二をたのみたいんだよ」さくさくと言いたい事を言う 「何故そう思うんです、貴方の事を報告しないと」「柏餅おいしかったし、祐二くんを裏切りそうにはとてもみえなかったから」リュウヤは両手を挙げてみせる、降参の意。 「読まれて ますか、相手が相手なんでお約束はできかねますけどね、死んでも守るぐらいの気持ちではいますよ、けどそこまでの事になっていて」 「なんでやめさせないか?祐二自体が何かわかっててやってるだろう、けっこう頑固なんだ1回始めると普通に気軽に無茶をする奴だから、ああだから面倒見るのもそんくらいでいいよ、心で裏切らないでくれれば、あいつ無意識に君が裏切らないってわかってると思うよ、昔からそーいうの聡い奴でねぇちゃんと自分の居場所がわかるみたいなんだ」 「…真司さん親馬鹿って言いますよそれ」「あははそうかもね、立場上俺はそんなに近くにいられないからまぁそんなかんじでひとつ、適当に」「はぁ、そういう問題ですか」どう受け止めていいものか。 「話し変わるけどさぁ今日いた部屋の近くに『俺が』いるな」思い当たるのは。「あれ、の材料はあなたですか」「それ、かどうかはわからないけどそーみたい心臓かなー?」「嫌だなぁ」「んだとこら」「だって祐二になんて言えばいいんですか」「ああそうなー」沈黙。 「適当に」そういってじゃっと手を挙げてさっていった「うわ押しつけるって言うんだぞーずっりーの」まぁあれが形をなすまで時間がかかるだろうしそこまでゆっくり考える事にしよう、さしあたっては「ハラへったな…あんな兄貴の相手をさせられたんだ裕二におごらせよう」そう言って一度は自宅に帰ろうとした道を引き戻した。
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