「え〜、妖精なら天気を変えるくらい出来ると思ったのに……」
「バカね、そんなの無理に決まってるじゃない」
女子高生にしては落ち着いた雰囲気を持つ少女、坂井和泉は後輩の少女の頭を軽く抑えた。
「妖精に出来る事なんて……そうね、精々こんなものよ」
妖精奇譚3 〜妖精の天気予報〜
Hiro.A
「……だから、明日は絶対晴れるの」
「でも天気予報だと、明日は台風がくるらしいよ?」
「そんなの関係ないもん。僕が晴れって言ったら絶対晴れるんだから!」
「そんなこと言って……またずぶ濡れになっても知らないわよ」
「うぅ〜」
小さな子供のような容姿を持ったこの妖精は、天気予報をするのが好きだった。
もっとも当たる確率が高いかと言えば、そんなことはなかったのだが。
しかし私は、この妖精、圭と話すのが好きだった。
出逢ったのはこの高校に入学したばかりの頃、雨の降る校庭で空を見上げたまま動こうとしない少年を、私は自分の傘に入れたのだった。
その時彼が言った言葉を、私は今でも忘れていない。
「……おかしい、何で雨なんだ?」
この少し変わった妖精と私は、すぐに仲良くなれた。
それから2年近く経った今でも、1日に1度は圭の所に行って明日の天気を聞くのが、私の日課になっていた。
そして今日も。
放課後、少し強い風の吹く空を屋上で見ながら、話をしている。
いつもと少しだけ違うのは、圭の予想に期待していることだ。
明日は晴れ、とまでは言わないが、台風には来ないで欲しかったのだ。
「明日、晴れるかな?」
「当たり前だよ。なにしろ僕が晴れだって言ってるんだから」
「……ありがと」
「あ〜あ……やっぱりダメか」
激しい雨の音で目が覚めた私は、暗い空を見上げながらため息をついた。
念のためテレビで確認したが、見事に直撃していた。
朝のうちに休校の連絡があり、私は複雑な気分で部屋の窓から外を眺めていた。
今日は私の年に1度の誕生日だった。
特別誰かに祝ってもらいたいとは思わないが、暗い部屋から1人で外を眺めているのはあまりに寂しい。
しかも両親共に仕事に行ってしまい、家には1人きりである。
普段であれば気にしないことだが、今日ばかりは気が滅入った。
「嘘吐き……晴れるって言ったじゃない」
ベットに横になるうちに、少し眠ってしまったらしい。
外を見ると雨は上がり、空は明るさを取り戻しはじめていた。
そのままぼんやりとしていると、誰かが玄関のチャイムを鳴らした。
(誰だろ……?)
まだハッキリとしない頭のまま、私は玄関にでた。
「どちら様ですか?」
そこにいたのは意外な人物だった。
「だから晴れるって言ったんだよ」
雲が強い風と共に去った今、圭の今の笑顔のように明るい日射しを遮るものは何もなかった。
しかし圭とは正反対に、私は不満だらけだった。
「今更晴れたってしょうがないじゃない」
普段ならば、授業が終わり、これから放課後を迎える程度の時間だったが、すっかり不機嫌になっていた私にとっては十分、今更である。
私が機嫌が悪いのを察しているのか、単に自分の天気予報が当たったと気分を良くしているだけか、彼の天気予報に文句を付けた私に抗議するような真似はしなかった。
(何で圭は家に来たんだろう?)
彼の態度は普段と変わらないように見えるが、いつもより優しい気がした。
彼に誘われるままに家を出たものの、よく考えたらおかしな事だらけだ。
第一、圭が家に来たのは今日が初めてだ。
色々考えている家に、私達は学校の裏の森の手前にたどり着いていた。
「ねえ……ひょっとして、森にはいるの?」
雨上がりの森など、ろくでもないことになっているのははじめから分かっている。
何となく付いては来たものの、これ以上不幸な気分を味わうのは避けたかった。
しかし圭の方は、きょとんとした表情になり、こういった。
「イヤなの?雨上がりの森って気持ちいいと思うけど……?」
「絶対イヤ!」
私が珍しく断言してみせると、彼は少し困った顔になったが、何か思いついたのかすぐに明るい笑顔を見せて
「ちょっと遠いけど付いてきてね」
そう言った。
「綺麗……」
森を迂回して舗装された道路をしばらく歩き、少し脇道にそれるとその場所はあった。
一気に視界が開け、それまで木しか見えなかったのとは打って変わって、綺麗な燃えるように赤く染まった空が飛び込んで来た。
私がその空に見とれていると、圭が横に来た。
「僕の自慢の場所なんだ」
少し誇らしげにそう語った。
「ありがとう、連れてきてくれて」
「そんなの良いよ……」
私は機嫌が悪かったことなどすっかり忘れていたが、気になることが残っていた。
どうしても彼に聞いておきたいことがあったから。
「ねえ」
「なに?」
「どうして誘ってくれたの?」
圭は困った顔をして、
「どうしてって……何となくそんな気分なんじゃないかと思って……」
そう答えた。
珍しく歯切れの悪い態度に、私はすっかりおかしくなって笑い出してしまった。
「あはははっ、何それ」
笑われた事に驚いた顔を見せたが、だんだん不機嫌そうな顔になる。
それを見ても私は、止められなかった。
「ひょっとして天気予報よりも当たるんじゃないの?」
すっかり機嫌を損ねてしまった彼をなだめるのは大変だったが、何年かぶりに誕生日を楽しむことが出来た。
誕生日を祝われたわけでも、なんでもなかったのだけれどね。
「へぇ……そんなことがあったんですか」
「まあね」
「なんかうらやましいなぁ……」
「何言ってるのよ。あなたには仲良しの恋人さんがいるでしょう?」
「違いますよ、あれは……その、そんなんじゃないです」
和泉のからかうような視線を受けて、後輩の少女の方はムキになったように言い返そうとする。
そこへ和泉のクラスメートの男子生徒が、近くに寄ってきた。
「吉仲君」
「あ、部長……」
「すまないがちょっと手伝って欲しいことがあるんだが……」
いつもながら、本当にすまなそうな顔をしているものだと、和泉は思った。
もっとも少女の方はそうは思わなかったようだ。
また?と言わんばかりの仕草でイヤそうにしてみせる。
結局すまなそうな表情に負けたのか、諦めたようにため息を付くと、勢いをつけて立ち上がった。
「それじゃあ先輩、失礼します」
「ええ、またね」
後輩の背中を見送ったあと、和泉はそのまま帰ろうとしたがふと立ち止まって、屋上に向かった。
「今日は2度目だけど……別に良いよね」