「キリュウちゃんって人に試練を与える精霊なんだろ?
その割には弱点多くないか?」

 その日は、大変な一日だった。その一日の始まりが、野村殿のそんな一言だった気がする。


万難地天紀柳の

試練な一日

前編

Hiro.A


 その日は、気がつくともうすぐ昼、といった時間だった。

 主殿が休みの日だったため、夜遅くまで試練の計画を練っていたのだが……
その作業に熱中しすぎたためか、目覚ましを仕掛けるのを忘れてしまった。

(……またしてもこんな失敗をするとは……)

 自分の失敗を悔やみながらも、食堂に向かい階段を降りていった。

 リビングからは、主殿や遠藤殿や野村殿の声もする。

 主殿は、出かけてはいないようだ。

(今からでも間に合うかも知れない……)

 私はそう考え、気を取り直してリビングの戸を開けようとした。

 しかし、何やら野村殿が楽しげに話しているようなので、とっさに入るのを躊躇してしまった。

 私が扉に手をかけたまま、邪魔をして良いものかどうかを迷っていると、中の話し声が聞こえてきた。

「……最近シャオちゃんさぁ、元気無いよなぁ〜。何かあったのか?太助」

「……そんなことないよ。ただ最近いろいろあったから……」

 太助はそう言うと、うつむいて黙り込んでしまった。その反応に、何とか話題を変えようとする乎一郎とたかし。そして、乎一郎がとっさにこんな事を言った。 

「そ、そういえば太助君。最近、キリュウちゃんの試練ってないよねぇ〜」

「そ、そうだな乎一郎」

 二人は、笑顔が引きつるのを何とか堪えつつ、太助に懸命に話しかける。

 そんな二人の気持ちが伝わったのか、太助は苦笑しつつ顔を上げた。

「……キリュウは暑いのは苦手だからな」

「そっか。そういえば最近暑くなってきたからねぇ」

「そうだな」

 また沈黙が訪れる。

 外で、謀らずとも覗く形になっていたキリュウは、そろそろ入って行くべき だろうかと思い、ドアに手をかけた瞬間、たかしの声が耳に入った。

「キリュウちゃんって、人に試練を与える精霊なんだよなぁ。
その割には弱点多くないか?」

 とっさにキリュウの動きが止まった。

 そんなことは知らずに、さらに続けた。

「この間カマクラ作ったときだって、こたつから離れなかったし、暑いのもダメなんだろ?」

「そういえば、辛い食べ物もダメなんだよねぇ」

「朝にも弱いんだよな」

 立て続けに自分の気にしていることを言われ、扉の外のキリュウは肩をピクピクッと敏感に反応させていた。

「人に試練を与えるって割には、何だかだらしないよなぁ〜。なあ、太助」

「まあ、その分試練が減って助かってはいるけどね」

(あ、主殿までそんなことを……)

 太助は、「今は試練を受ける気分じゃないしね……」と続けて、再びうつむいてしまったりしたのだが、今のキリュウには聞こえていなかった。

(確かに私は、今まで自分自身の欠点に寛大すぎたかも知れない……)

 主殿にそう思われているのでは、今後の試練にも関わるだろう。そう判断すると、キリュウは早速、計画表の作成に入った。 



    戻る        次のページへ