私は、何事にあたっても計画を練る方である。

 計画を練るのが好きというのもあるが、今回の試練は重大である。

 慎重に行動せねばなるまい。


万難地天紀柳の

試練な一日

中編

Hiro.A


 私は早速、弱点克服計画をはじめることにした。

 今の時期にやるとしたら、辛い物か暑さに弱い点を克服することだろう。

 私の調べたところによると、辛くておいしいというラーメンの店が駅前にできたらしい。

(ラーメンくらいならば何とかなるかも知れない……)

 私は中国に長いこといたこともあり、なじみのある物の方が良かろうと判断た。

 早速その店へと向かうと、店の前には行列が出来ていた。

(出来たばかりなのにすごい人気だな)

 この炎天下の中、ラーメンのために並ぶのかと思うとあっさり挫けそうになったが、主殿のことを思い出し、気を引き締めた。

 さすがにつらいものはあったが、食べ物の性質上、一人あたりの所要時間は短い。私の順番はすぐに回ってきた。

 私は、メニューもろくに見ずに注文をした。

「げ、激辛を一つ……」

 私はそれだけ言うと、椅子に腰を下ろした。

 よく考えてみると、一人で外食をするなど生まれて初めてかも知れない。そう思うと、何だか緊張してきてしまった。短天扇で扇ぐふりをしつつ、顔を隠した。

「お客さん、おまちどうさま」

 若い給仕の娘が運んできたのは、見るからに辛そうな、スープの色まで真っ赤に染まったラーメンだった。

(まさかこれ程とは……)

 自分の顔から血の気が引いていくのを感じ、倒れそうになる自分を何とか堪えつつ、もう一度じっくりそれを観察した。

 チャーシューやメンマなどが盛られたそれは、自分の知っているラーメンとさほど変わりないように思えた。ただそのスープの色を見ると、何やら見てはいけない物を覗いたような気分になった。

(しかし、ここで挫けるわけにはいかん)

 周りを見ると、皆平然と食べている。きっと見た目ほど辛くはないのだろう。そう思いこむことにして、そのものに箸をつけた。

(ムッ!)

 驚いたことに、我慢できないほどの辛さではなかった。

 私はこの事に気を良くし、2口3口と口に運んだ。さすがにそろそろ辛くなってきたので、一息つくつもりで水を口にした。

 するとそのとたん、汗がどっと吹き出てきた。止めどなく流れ落ちる汗と、口の奥から広がってくるような辛さに急激に襲われ、私はさらに水を飲んだ。しかし、辛さを和らぐことなく私を襲い続けたのだった。

 店を出た後も、口の中がしびれるような感覚がなかなか抜けなかったが、とにかくこの計画は放棄せざるを得ないようだった。

(やはりいきなりは無理だったのだろうか?)

 自分の今まで行ってきた試練を思い返し、自分を納得させた。

(フッ、私としたことが。こんな単純なミスをするとはな……だが次は負けん)

 少し焦りすぎていたことを反省しつつ、次の計画へと進んだ。
 ………………

 まだ3時頃だろうか?うだるような暑さが私を包み込む。その後幾つか、辛い物を試してみたのだが……結果は芳しくはなかった。しかし、ここで負ける

わけにはいかないのだ。

 私はうなだれつつも、かすかな日陰を選んで進んでいった。

 しかし、近所の公園の前に来たところで、私は力尽きた。

 もはや立つ気力もなく、這うように公園の中の木の陰まで進むと、私は芝生の上で横たわった。いくら試練とはいえ、このままでは命に関わる。

 私は、ぐったりとしたまましばらく寝そべっていると、人が近づいてくる気配がした。誰だろう?と思い顔を上げると、そこにいたのは翔子殿だった。

「よっ、キリュウ。こんなところで何してんだよ」

 私は、今の状況をなんと説明すべきか迷っていた。自分自身に課した試練に音を上げているなどとは言いにくい。しばらく考えていると、翔子殿は何故か意地悪そうににやりと笑う。

 翔子殿がこんな顔をするのは、何か悪戯を思いた時だ。私は何やら嫌な予感に襲われる。

 私は、翔子殿が妙なことを言い出す前に、簡単に説明することにした。

「わ、私は……その……試練の途中だったのだ。人に試練を出すばかりでは、万難地天としては失格だからな……」

「ふーん……。で、今は何してるんだ?」

 私の言葉を信用しているのかどうか判断できなかったが、まだニヤニヤとしながら私の方を見ている。私は翔子殿の視線から逃れるように視線を逸らすと、呟くように言った。

「……今は休憩中だ。私にだって……苦手な物は……」

「ふ〜ん。ま、いいけどな。あんまり無理すんなよな。それじゃあ、あたしは行くとこあるからさ。またな、キリュウ」

 終始ニヤニヤとしていたのが気になったが、とりあえず翔子殿は去っていった。

 会話を終えると、私の疲れもとれていた。陽もだいぶ傾き、風がだんだん涼しくなってきた。まだ暑いが、動けないほどではなくなってきた。

(そろそろ行くか)

 辛い物の食べ過ぎで、胃の辺りの調子が悪かった。今日はもう、やめておいた方がいいだろう。そう判断し、私は帰宅することにした。




 創作の道へ  前のページへ  次のページへ