今日という日は、いったい何だったのであろうか?
自分らしくもないミスばかりだった。
試練を出す精霊としては、間違いなく失格だろう……
Hiro.A
全ての計画に挫折した私は、すっかりヘロヘロになって帰宅した。
試練というものが、これほどまでに疲れるものだということを、私は初めて知ったような気がする。
しかも、その全てが徒労に終わったとあらば、なおさらである。
(これでは主殿に合わせる顔がないではないか)
いつも必死になって、私の課す試練に立ち向かっている主殿と比べ、自分は何と不甲斐ないのだろう。それを考えると家にも入りづらかったので、家の前をうろうろとしていた。
「おい、キリュウ。そんなところで何してるんだ?」
後ろから主殿に声をかけられた。私は、近寄ってくる気配にも気づかず、不覚にも驚きの声を挙げてしまった。
「ど、どうした?」
「い、いや別に……」
私は赤らんでいるであろう顔を、短天扇を広げて隠した。もっとも、辺りはすっかり暗くなっているので、主殿には見えないかも知れなかったのだが。
「それよりも……主殿は……その……」
「ああ、ちょっと買い物にな。シャオに頼まれたんだよ」
そういうと主殿は、買い物袋をかざして見せた。
「そ、そうか」
今日はどうも調子が悪い。私は、主殿から逃れるように家に向かおうとしたが、主殿の声がそれを制した。
「なあキリュウ、今日はなにしてたんだ?」
「な、な、な、なぜ……」
「いやさっき山野辺にあってな、何かキリュウが面白いことやってたって言うからさ。一体何やってたんだよ?」
……翔子殿か。私が何をやっていたのか、おおよそ伝わっているのだろう。主殿には面白がっているというよりは、何やら心配しているような様子がうかがえる。
私は観念して、今日の出来事を主殿に伝えた。
…………
「それで、結局治んなかったわけか……」
「……私は、今日ほど自分が情けないと思ったことはなかった」
そういうと私は、膝を抱えた。玄関先で話すのも気が引けたので、今は屋根の上に移動している。
主殿を横目でうかがう。何かを考えるように空を見上げているが、特に怒ったような様子はない。少し安心して、視線を元に戻す。
「……なあキリュウ。俺はもしキリュウが完璧だったらさ、試練なんて絶えられないと思うよ」
「えっ!」
「最初の頃、キリュウって役目が第一な奴だって思ってたんだ。役目のためならどんなことだってする、”完璧な”精霊だってね。だけど、そうじゃないってわかった。優しいところもあるし……それに、色々とミスもするしな」
少し照れているのか、普段よりもぶっきらぼうに話す主殿。私も、誉められているのかそうでないのか良くわからないセリフを聞いて、何だか恥ずかしくなってくる。
顔を膝に埋めたまま、主殿の次のセリフを待った。
「でも、そういうところがあるから一緒にいられるんだと思う。試練だって確かに辛いけど、それだけじゃない。俺は人に試練を出すなんて役目をしているキリュウはすごいと思う」
「私はすごくなんて無い!」
主殿があんまり優しすぎるので、つい声を張り上げてしまった。
「……すごくなんて無い。自分を鍛えることすら出来ないんだから……」
「……そんなことないさ。だって俺は……キリュウがいなかったら、シャオを救う男になんてなれないんだからさ」
少しおどけたように言う主殿を見て、少し心が落ち着いた。
(少なくとも主殿はまだ、私のことを必要としてくれている)
そう思うだけで、私の心は不思議と軽くなったような気がした。
主殿は立ち上がると、私に手をさしのべた。私が手を握ると強引に立たせて言った。
「これからもよろしくな、キリュウ」
今日の夜は眠れそうになかった。
主殿だけに頑張らせておくわけにはいかない。
(私も、徐々に成長して行かねば……)
そんな使命感にも似た思いが、私を動かしていた。
そんなわけで現在、とびきりの目覚ましを作成中なのである。
ようやく完成したのが、いつもよりも遅く、もうじき夜が明けるのではないかという時間であった。
早速セットして眠りにつく。
これでもう寝坊などはしないはずだ。
そう思うと、達成感のようなものがこみ上げてくる。
(これが試練の辛いだけではない面というやつなのか?)
そう思いながら、倒れるように眠りにつく。
それから数時間後、家が壊れるほどの轟音をたて、キリュウの目覚ましが発動した。