第3章 除霊 この町で暮らすことにもなれてきたと思う。私や久遠が普通に暮らせる場所もあるし、寮のみんなも中にはちょっと困った人もいるけど、基本的にはみんな良い人ばかりだし、気分よくすごせる。実家にいたときと比べても、悪くない環境だ。 食事の事を考えれば、実家にいたころよりも良いかもしれない。 実家のレストランでコックとしてしばらく働いていた、と言うだけあって耕介さんの料理はとても美味しかった。それに栄養のバランスや住人たちの健康管理なども考えているらしく、食事の時間はみんなとても楽しみにしている。 私だって楽しみだけど、耕介さんと顔を合わせるたびにが心が苦しくなる。 (わたし、イヤな子だな) やさしくて良い人だってわかってるのに、それでも心は拒みつづけている。 耕介さん、怒ってないかな……。 耕介さんって、本当はどんな人なんだろう? 「はい、神咲です。 ……え?あ、はい。交通課の……。 除霊、ですか? ええっと……はい、わかりました、23時ですね」 今日は海鳴りに来て、はじめての仕事の日だ。 地元でも鎮魂は何度か経験があるけど、除霊と言うのはあまり得意ではない。説得できる相手なら良いけど、そうでない場合は私の手で還してあげないといけない。 雪月を握る手に力がこもる。 運動のたぐいは得意ではないが、いざとなったらこれを使うしかないだろう。 久遠もいるので大丈夫だとは思うけど、少しだけ不安だ。私にとっても久遠にとっても、これがここでの初仕事になる。 「頑張らないと」 不安を振り払うように、そう口にした。 仕度を終えた私は、帰りが遅くなることを報告することにした。この寮には門限もあるし、きちんと外出許可をもらってからでないと、出かけるわけにも行かないだろう。 リビングに行くと、耕介さんと知佳さんが楽しそうに話していた。 私が巫女服なのを見ると、驚いたようなように、知佳さんが声をかけてくる。 「あれ、那美ちゃん。どうしたの?そんな格好で」 「あの、ですね。今日はこれから仕事がありまして……」 「ああ、なるほど」 「初仕事かぁ」 二人ともこういう事にはなれているらしく、あっさりと納得してくれた。ちなみに薫ちゃんは”仕事”の時は退魔用の式服を着ているが、私にはこっちのほうが落ち着く。 「帰りは遅くなると思いますが、朝までには戻ると思います」 そう言って頭を下げると、久遠をつれてリビングを出ようとしたが、 「あ、待って」 と、呼び止められた。 「お迎えとかは来るの?」 「ええっと、帰りは送っていただけると思いますけど」 「そっか〜、大変だねぇ〜」 知佳さんは、なぜか耕介さんのほうをじ〜っと見ている。 耕介さんは困ったような顔をしていたが、 「……わかったよ、送っていけばいいんだろ」 「えへへ」 と言った。知佳さんはとても嬉しそうだが、私は驚いた。 「え……?」 「大丈夫だよ」 私がなにか言おうとするのを止めるように、穏やかな顔を向ける。この顔を前にすると、なんだか心の内側が全部見透かされているような気になる。私の悩みなんて小さくて子供っぽい気がするし、とても恥ずかしかった。 でも、不思議と嫌な気分にはならなかった。 「そ、それじゃあ、お願いします」 だから私は、うつむきながらもそう言った。