七梨邸。
 居間で一人漫画を読んでいたルーアンは、不意に立ち上がった。

「……なるほど。これは使えそうね」

 そう一人つぶやくと、一人高笑いをあげるのだった。


校内写生? <前編>

Hiro.A   


「……えっ、写生大会?」

「そうだよ、太助君。明後日は写生大会だって」

「うちの学校ってそんな行事あったか?」

「今年から出来たんだよ」

「ふ〜ん……」

 ここ鶴ヶ丘中学校、太助のクラスでもその話題で朝から持ちきりだった。
 突如そんな行事が出来ていたのだから、当然の反応だろう。
 太助達もその話題をしていたのだが……

「七梨先輩!」

 いきおいよく太助のクラスに駆け込んできた少女がいた。
 言うまでもなく愛原花織だ。

「あ、いたいたぁ〜」

 そこにいたたかしを押しのけ太助の前に来ると、なぜかきらきらした目で話し出す。

「七梨先輩。これ……」

「何だ……?」

 にこにこしつつも、そこはかとなく迫力を感じさせる態度に太助は引きつつも、とりあえず差し出された紙を見る。

(校内写生大会のお知らせ。突然ですが明後日の木曜日に我が校では写生大会を行うことにいたしました。場所は・・・)

「これがどうしたんだ?」

「ここですよ。こ・こ。」

「え〜っと……なになに、『なお、作品は2人で1つの絵を仕上げることとする』だって〜」

「そうなんです。だから先輩、一緒にやりましょ♪」

 絵を描くのに何で2人でやらなきゃなんないんだ?という当然の疑問が3人の頭をよぎったが、それぞれの頭の中でパートナーのことを思い浮かべると、俄然やる気を出した。
 ……約2名。

「なんて素晴らしい企画なんだ。な、乎一郎」

「頑張ろうね、たかし君」

 嬉しそうに手を取り合う2人と、目の前で太助の返事を待つ、もとい無理にでも頷かせようとするかのような威圧感のこもった目で見つめ続ける愛原。
 太助は、なるべく前を向かないようにしつつ何とか言い逃れをしようと、必死になって考えを巡らしている。
 しかしながら、この愛原花織という少女を納得させられるような理屈など思いつけるはずもない。
 全身に冷や汗を感じつつ、凍り付いたように太助は動けなくなってしまった。

(誰でもいいから助けてくれ)

 太助がそう思ったその時……

「たー様〜。このチラシ見てくれた〜♪」

 ルーアンだった。
 ほとんどない太助と愛原の間に体を割り込ませてくると、太助にチラシを見せつけるように眼前でひらひらとさせて見せた。

「ちょっと、ルーアン先生!七梨先輩は私が先に誘ってたんです。他あたって下さい!」

「何言ってるのよ。これはあたしとたー様が一緒にやる為だけに企画したんだから〜。けちな小娘は引っ込んでなさい!」

「何ですって〜」

 2人が火花を散らしはじめてようやく注意のそれた太助は、そのすきにこそこそと逃げ出すことに成功した。
 ちなみに後ろでは、今にもとっくみあいの喧嘩になりそうな剣幕でにらみ合っている愛原とルーアン。
 その横では、すでに明るい未来の想像図に夢を膨らませている2人組が、幸せそうな笑顔を浮かべていた。


 一方シャオは……

「翔子さん、明後日は写生大会だそうですよ。楽しみですね」

「えぇ〜、そんなん面倒くさいだけだろ」

「そんなこと無いですよ。ほら、ここに2人でやることって書いてありますよ」

 いつものごとく幸せそうな笑顔を浮かべたシャオは、一緒にやりませんか?と続けた。
 一方翔子は、いかにも面倒くさいと言った態度を全身で表している。
 ふと、あることに気付くとやや意地悪げに口元を歪めた。

「なんだよ、シャオ。あたしなんか誘わなくっていいんだぜ〜。他に誘いたいヤツがいるんだろ」

 そう言うと、ちょうどこそこそと逃げている最中の太助の方へ目を向ける。
 翔子の視線を追って、シャオも太助を見る。
 きっちり3秒後、その意味を理解したらしいシャオは、何やら想像したらしく、『ぼんっ』とばかりに急速に顔を真っ赤にしてあわてる。

「しょ、翔子さん!え〜っと……そんなのダメですぅ。あう〜……」

 何を言いたいやら良くわからないほど壊れてしまったシャオを、翔子が面白そうに眺めている。
 不意にシャオは翔子の手を取って、泣きそうな目で見つめると、

「翔子さん。一緒に参加して下さい!」

 と、懇願した。
 一体何を考えたのやら、と思いつつも、そんな目をされてどうして断ることが出来るだろうか。

(仕方がないか。まあ、当日までにシャオも落ち着くだろ)

 そう軽く考えた翔子は、

「わ、分かったよシャオ。一緒に絵を描いてやりゃあいいんだろ」

「翔子さん!ありがとうございますぅ」

 ……返事も気軽だった。


 ついでに……

「出雲さ〜ん」

「何でしょうか、みなさん」

 購買部の前では、すでに女生徒で人だかりが出来ていた。

「校内写生大会、一緒に参加していただけませんか〜♪」

「写生大会……?」

 割と普通の常識を持ち合わせている出雲は、何のことだか理解が出来なかった。
 しかし、女生徒の一人に差し出されたチラシに目を通すと、疑問は残るもののとりあえず納得したようだった。

(こんな事を考えるのはおそらくルーアンさんですね……まったく)

 などと考えつつも、『シャオさんに手ほどきを』などということを当然のごとく考えているあたり、やはり相変わらずのようである。
 大勢の女子中学生の前でニヤリと口元を歪め、髪をいつものように『ふぁさ』っとかき上げると、女生徒達の申し出をやんわりと断り、ターゲットをシャオ一人に定める。

(今回はどんな手でいきましょうか……)

 たかが絵を描くだけにもかかわらず、鶴ヶ丘中学校はすでに波乱の様相を呈していた。

                        <つづく>



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