「もぉ〜、またですか?野村先輩」
「そう言うなよ、花織ちゃん。お互い他に手を組む相手がいる訳じゃないんだからさぁ……」
校内写生大会の前日、放課後の誰もいない教室で野村たかしと愛原花織は、いつものごとく翌日のイベントに向けて作戦を練っていた。
しかし今日の愛原は、いつもの元気モードではなかった。
先日の朝よりルーアンとことあるごとに対立し、珍しいことに疲れを見せていた。
「でもなぁ……野村先輩と一緒だといっつも失敗してるからなぁ」
「うぐっ!」
「あ〜あ。ここにいるのが野村先輩なんかじゃなくて七梨先輩だったらなぁ〜」
(か、花織ちゃん……君って娘は)
怒りを込めての発言であればまだしも、もうどうでも良いと言わんばかりの扱いである。
さすがのたかしもかなりへこんだようであった。
しかし、それにもめげずに何とか立ち直ろうとしている姿は、涙ぐましくさえあった。
「で、どうするんです?今回は……」
Hiro.A
そしてついに校内写生大会の当日。
絶好の写生日和、と言うかどうかは分からないが、雲一つなく晴れ渡った青空が広がっていた。
学校のある町内であればどこを描いてもかまわないと言う、かなり大ざっぱなものであるが、この学校の生徒はこういう唐突な出来事にはすでに馴れきっていた。
すでに生徒達の間には、楽しむ余裕すら見られた。
しかしながら約1名、この青空を浮かない顔をして眺めている人物がいた。
「はぁ……最悪だ」
七梨太助である。
このイベントが決まって以来、彼はろくなことがなかった。
例えば、休み時間の度にルーアンと愛原が目の前で喧嘩を始める、たかしと乎一郎はやたらとライバル視してくる、シャオに避けられる、宮内出雲が不審だ、等々考えられる限りの悪い事態が、全て目の前で展開していくようであった。
加えて言うなら、パートナーすらいない。
彼は深いため息と共に、もう1度同じことを言う。
「最悪だ……」
そうつぶやくと、彼はとぼとぼと歩いていった。
その様子を影で見つめる2人の人影があった。
たかしと愛原である。
「……七梨がシャオちゃんと組まないってのは、どうやら本当だったみてーだな」
「あぁ、七梨先輩。なんて寂しそうなのかしら……可哀相。今花織がそばに行きますからね。」
花織は乙女ちっくモードでそう言うと、『たったったっ』と軽やかなステップで太助の後を追っていった。
「おいっ、花織ちゃん……行っちまったか。仕方ない。こうなったら一人で……」
『待っててくれよ、シャオちゃ〜ん!』などと一人叫んで熱血ポーズを取る。
一人取り残されながらも、熱血を忘れないたかしであった。
一方その頃……
「おいシャオ……ほんとに良いのか」
「な、何がですか?」
「七梨も今頃困ってるぜ……」
七梨という単語に『ピクッ!』と激しい反応を示す。
一瞬下を向いてくら〜い顔をしたが、無理に顔を上げて笑顔を作ると
「だ、大丈夫ですよ、翔子さん。さ、行きましょ」
(ほんとに良いのかねぇ……)
翔子には良いわけがないのは分かっているのだが、シャオの様子がいつもとあまりに違うので、仕方なさそうに肩をすくめると、とりあえず後から付いていくことにした。
さて。
太助はとりあえず公園に来てみたものの、公園は鶴ヶ丘中学の生徒であふれかえっていた。
しかも、ペア参加という不思議な条件を有効に活用しているようである。
幸せそうな男女のペアの多さに、太助はだんだん自分がイヤになってきてしまったが、その時ちょうど
「七梨せんぱ〜い」
と、元気良く声をかけてきた女生徒がいた。
愛原が来たことで太助はひどく警戒したが、どうやらルーアンは一緒ではないようだ。
太助は少し安心したものの、一緒にいたい気分にはなれなかった。
憮然とした表情のまま、
「何だ愛原か……何か用か?」
「やっだ〜、七梨先輩ったら〜♪わかってるく・せ・に。」
太助は『これがシャオだったら……』などとは思わなかったが、もうかまわないでくれと言わんばかりの態度が、体中からにじみ出ていた。
しかしながら、愛原はそんなことは微塵も気にする様子は見せない。
あっけらかんとした表情で太助をパートナーにと誘った。
と、その時……
「ちょっと、そこっ!離れなさい!」
どこからともなくルーアンの声が聞こえた。
「またしても邪魔する気ね。先輩!さっさと行きましょ」
「そうはさせないわよ!陽天心召来!!」
声が響きわたると同時に、公園のカエデの木のうちの1本が動き出して、逃げ道をふさぐ。
そのすきにルーアンが姿を現した。
「ふっ、逃がさないわよ。たー様は私とペアを組むことになってるんだから……」
「絶対に渡さないんだから……」
陽天心カエデから根性で逃れると、公園から出ようとするが、結局ルーアンと真っ正面から向き合う結果となった。
「いい加減諦めたらどう?お嬢ちゃん」
「先生こそあきらめが悪いですよ」
またしても、見ている側の心臓に悪いようなにらみ合いが続く。
公園に集まっていた生徒達は、『またか……』といったあきらめムードで公園から出ていった。
太助もこの時とばかりに他の生徒に混じって逃げ出した。
途中……
「あ、太助君。ルーアン先生見なかった?」
乎一郎に出逢ったが、力無く公園を指さすと一刻も早くその場から逃れようと走り出した。
「ありがとう、太助君」
乎一郎は太助とは対照的に、公園へと向かって軽やかな足取りで向かった。
ついでに……
「出雲さ〜ん」
出雲を中心に、鶴ヶ丘中学の女生徒が大勢集まっていた。
「あ、あのっ。私はこれから行かなくてはならないところが……」
しかし、女生徒達は出雲を解放しようとはしなかった。
結局、宮内出雲はフェミニストであるが故に、身動きがとれずにいた……。
<つづく>