「ふぅ、何とか逃げ切ったな……」
2人から必死になって逃げるあまり、絵を描くことをすっかり忘れていた太助は、ぎりぎりで理性を取り戻した。
もはや時間もだいぶ過ぎてしまった。
(仕方ない……とりあえずどこでも良いから描こう)
太助は絵の描けそうな場所を探すと、腰を下ろした。
Hiro.A
「なぁ、シャオ。何でそんなに七梨を避けるんだ?」
「別に避けてなんて……」
シャオと翔子、そして離珠の3人はすでに絵を描き始めていた。
かなり学校から離れた位置に来ていたので、辺りに生徒の影は見えない。
3人の合作とも言うべき作品は、シャオの丁寧に描いた部分と、翔子の適当なタッチ、そして離珠の大胆な筆遣いによって明らかに共同作業による絵であることが見て取れる。
絵はほとんど出来上がっているのも関わらず、シャオも翔子にも笑顔はない。
「七梨のヤツが、他の女の子と一緒にいたらイヤなんだろ?だったらさぁ……」
「翔子さん!」
シャオにしては珍しく激しい口調である。
驚いた翔子と離珠は、思わず手を止めてシャオを見つめる。
「たしかに……あんまり、その……見たくはないですけど、でも……」
言っている途中で、本人も何と言えばよいのか分からなくなったらしい。
複雑な表情を見せた後、深くため息をついた。
「……翔子さん。私、すごくわがままなんです。自分が嫌いになるくらい……」
深く沈んでいくシャオに、翔子はどう声をかければいいのか分からなかった。
「守護月天失格ですね」
そう言うと、ひどく寂しそうに微笑んだ。
やっぱりほっとくわけにはいかないよなぁ〜、と思いつつもどうすればいいのか、までは翔子にも分からなかった。
とその時……
「「あっ!」」
ふたつの声が重なる。
翔子が声のした方を見ると、太助がいた。
太助は明らかに嬉しそうな表情だったが、シャオは何か声をかけようとしてためらい、
「翔子さん、すみません。私……」
そう言い残すと、太助から逃げていってしまった。
太助は呆然と取り残されてる。
「七梨!さっさと追え」
「山野辺……」
太助は迷っていたが、翔子の真剣な目を見ているうちに決心がついたようだ。
「よしっ!行くか。離珠、シャオがどこにいるか教えてくれ」
『まかせるデシ』と言わんばかりに胸を張る離珠を肩にのせると、シャオのいる方へと走り出した。
「やれやれ、世話のかかる連中だな……」
翔子の顔は、この日で一番嬉しそうだった。
一度走り出した太助は、もはやシャオ以外のことは考えていなかった。
試練を乗り越えてきた彼にとっては、どんな妨害であっても屈しないだけの力はすでに備わっている。
「見つけた!」
シャオに近づき腕を捕まえる。
真っ赤になって振りほどこうとするシャオを、全身で受け止める。
するとシャオの力が抜け、安心したような、それでいてひどく困ったような複雑な表情を浮かべる。
しばらくお互い、そのままでじっとしていたのだが、
「ごめんなさい、太助様」
複雑な表情が引っ込むと、今度は一転して泣き出してしまった。
今度は太助が困ったが、落ち着かせるように優しく抱きしめた。
「で、結局何で逃げてたんだ?」
数日後、シャオは翔子のうちに遊びに来ていた。
翔子には何となく分かってはいたが、シャオの口からハッキリと聞きたかった。
「翔子さん!」
恥ずかしそうにもじもじとした仕草を見せたが、翔子は面白そうに眺めているだけで前言を撤回する気は無さそうだった。
『もうっ!』とつぶやくと、拗ねたように話し出した。
「私、太助様があの時追いかけてくれて……すごく嬉しかったんです」
(こういう時の顔はシャオも一緒だな)
翔子は内心、嬉しくなる。
精霊といえど女の子だ、そんな気にさせる瞬間が翔子は好きだった。
「ずっと、待ってたのかもしれません……太助様が追いかけてくれるのを」
守護月天失格ですね、と嬉しそうに続けた。
本当に嬉しそうな顔で、そう笑った。
(シャオ……だんだん変わってきたな)
翔子も一緒になって笑った。
その日も、爽やかに晴れ渡る秋の空が広がっていた。
<おしまい>