「ええッ、大晦日に会えないだぁ!?」
年の瀬も押し迫った12月のある日。
大掃除も新年の用意もすませてすっかりお正月気分の咲也の元に一本の電話が掛かってきた。
手にした携帯電話を取り落としそうなほどの勢いで咲也は大声を上げていた。
その声にびっくりした母親が下の階から、どうしたの?と声をかけてきたことで我に返り、
落ち着いて電話の相手に問いかける。
「それってどーゆーことだよ?」
『どうもこうも、ちょっと仕事が出来てね。父親の頼みだから断ることが出来ないんだ』
「お前・・・」
どうするんだよと言いかけて、咲也は咲也が言葉を飲んだのは、珍しく神楽坂が殊勝な声を出したから。
『すまない、咲也。本当なら・・・・』
滅多に謝罪の言葉など口にしない神楽坂がこんな事を言うなんて。
普段はどんなことがあっても動じず、余裕たっぷりで不敵な微笑みを浮かべている癖に。
それに神楽坂のことだ、生徒会長に就任してからはどんなに忙しくても全ての仕事をこなしていたし、
誕生日やクリスマスなんかのイベントの時は必ず何かしらの用意をしてくれていた。
そんな神楽坂がそう言うなんて、今回は本当に外せない用事なのだろう。
「いいよ、仕方ないだろ?年明けてからでも遅くないって」
本当なら神楽坂と一緒に大晦日の夜から出かけ、そのまま初詣に行く予定だったのだ。
物わかりの言い返事を返してみたものの、どうも釈然としない咲也は、電話を切った後ベットにドサッと沈み込んだ。
「ちぇ・・・楽しみにしていたのにな」
冬休みに入ってから、年末の準備などで忙しくあまり合う機会もなく、ようやく取り付けた約束だったのだ。
仕方ない、と天井を向いて呟いてみたが、どうも納得がいかなくて枕に顔を埋める。
「神楽坂のバカ・・・・」
ボソッと呟く言葉は決して神楽坂に届くことは無い。
それでも、少しは気が紛れるだろうと咲也は手にした枕を叩いてみた。
「本当に、これでよいのですか?」
手にした携帯を見つめながら、神楽坂がぼそりと呟く。
その表情はいつもと同じ無表情だったが、今回ばかりは凍てつくような瞳をしていた。
「大丈夫、パパに任せなさいって」
「だから、余計に心配なのです」
ため息をつくと、ことさら陽気な声で返答を返すこの男が、我が父親ながらたまに海に沈めたいとまで思う。
「ひっどぉい、息子を思う親心なのに」
「あなたの場合は親心ではなく自分を満足させるためでしょう」
「ふふふ、怜司がなかなか咲ちゃんに合わせてくれないからね」
「当たり前です」
冗談じゃないと足蹴にしたいのだが、そうも出来ないのは自分の性格からか。
それに、いつまでたってもこのままという訳にもいかない。
いずれは紹介して、咲也にも自分の恋人だという自覚を持って貰わねば・・・・と思っていた神楽坂だったので、
今回ばかりは父親の誘いに乗ることにした。
それでも。
なんだかとっても警告アラームが鳴り響いているのはどうして。
無事に終わる訳がない、とため息をついた神楽坂は今更ながらこの計画を海より深く後悔し始めていた。
「お餅買っただろ〜、あとはぁ・・・」
大晦日当日。
咲也は母親に頼まれて買い物に出かけていた。
足りない分の食料とおせちの材料を買い込み、家路につく途中、前方から黒塗りの車が接近してきた。
明らかに高そうな高級車。
自分には関係のない世界の住人なのだろう、こんな時はそっとしておくのが一番だ。
だがしかし。
何故か自分の前で止まり、黒いフィルムが貼られた助手席のドアが開くと、中から紳士が一人降りてきた。
品の良さそうな立ち姿。
淡いブラウンのスーツを着た姿に、どこかで会ったような気がしたがそんなものは気のせいだろう。
もしかしたら、知っている人に似ているだけなのかも知れない。
そんなことを考えている咲也にその紳士は微笑むと声をかけた。
「もしもし、お嬢さん」
「お、お、お嬢さんだぁ?」
初対面の男に向かってお嬢さんとは何事か。
それとも上品そうなその紳士が住む世界で、声をかけるときはお嬢さんなんだろうかと咲也が頭を抱えていると、
その紳士は楽しそうに笑った。
「いやぁ、想像以上に可愛かったもので」
「なにを・・・・」
なに言ってやがる、と皆まで言えなかったのは、口元にハンカチを当てられたから。
しまった、と思う時にはもう遅く、薬品が仕込んであったらしいハンカチのおかげで意識は朦朧としてきた。
(変な人には注意って・・・・そりゃ小学生の話じゃねーか)
まさか、17歳にもなった男が誘拐に会おうとは。
冗談じゃないと叫びたくても、声にならないのが現状。
あっという間に咲也を乗せた車は、街の中へと姿を消した。
そんな様子を、一歩遅かったと言わんばかりに苦い顔をして見つめる神楽坂の姿があった。
「あの親父・・・・」
思わず、口調が乱れる。
普段なら、絶対に使わない言葉遣い。
それでも、こんな抜け駆けをしようとは我慢ならない。
本来なら周到に用意をすませた後、咲也を迎えに行く手はずだったのに。
「なにが『任せなさい』だ」
悪い予感ばかり的中する、と頭を痛めた神楽坂は急いで車を手配すると猛烈な勢いで父親の後を追った。
行き先はすでに予測済み。
こんなコトになるなら、やはり咲也を父親に会わせるべきではなかった。
と、いくら後悔してみても後の祭り。
これ以上何かされないうちに取り戻さねばならない。
これでは、計画も何も台無しになってしまう。
「頭いてぇ・・・・」
ぼんやりと辺りを見回した咲也は、自分が見知らぬ部屋のソファに寝かされていることに気づいた。
「お目覚めかい?」
その声にハッとして振り返ると、そこには先ほどの紳士が立っていた。
「あんた、誰?」
まだ少しふらつく意識で相手をじっと睨み付けると、紳士は困ったような表情になった。
「こんなことをしてすまないねぇ、でも怜司がなかなか君にあわせてくれないものだから」
「・・・・え?」
と、言うことは。
目の前のこの紳士は神楽坂の父親。
初対面の男に何のためらいもなく「お嬢さん」と言い放ち、
さらには軽く拉致してきたこの紳士が、神楽坂の父親ってこと?
―――親と子は似るものなのかも知れない。
そう素直な感想を頭に浮かべた咲也は、それでも「何の用ですか?」と聞き返すのを忘れなかった。
「そう、それなんだがねぇ。
咲也君、ここらで怜司から手を引いてくれんかね」
「なにを・・・・・」
「いやぁ、怜司も君も男じゃないか。
それをよりにもよって男同士で恋人ごっこも何もないだろう?
それに怜司もいい年だ。跡継ぎのことを考えていてねぇ」
それは、咲也が一番恐れていたこと。
もともと、してはならない恋なのだ。
いつ終わりが訪れても可笑しくはない。
それでも・・・・。
自分に向けられる想いが無くなるのは嫌だと思う。
触れられる優しさに、声に、指に、全てを預けていたい。
最初の頃は、どうして自分なんかが恋愛の対象になるのか解らなかった。
男を好きになるなんて、どうかしているとも思った。
けれど。
月日を重ねるごとに想いは深く、強く・・・甘く、咲也の心を満たしていった。
どんなことも、二人なら大丈夫だと思った。
だから・・・・
「いや・・・・です」
途切れそうな声で、しかししっかりと咲也はそう言った。
「勿論タダで、とは言わないよ。これでも一介の財閥だからね。
いくらでも出そう」
そう言って、咲也の目の前に見たこともないほどの札束が積まれる。
けれど、そんなもので人の心は動かせない。
「いやです。
確かに・・・・確かに、男同士で恋愛なんて間違っていると思います。
俺と神楽坂じゃ住む世界が全然違うんだってコトも解っています」
でも・・・・・。
「ならどうして?
そこまで解っていながら、どうしてだい?」
解っている、そんなことは。
何度も考えた。
眠れない夜もあった。
けれど・・・・。
「好きになるのに、住む世界とか、性別とか・・・・好きになるのに、理由なんて必要ですか?」
「・・・・・・・」
傍にいたい。
そう思う気持ちだけ。
必要とする人に、必要とされたい。
ただ、それだけなのだ。
そんな咲也の瞳を観て、神楽坂の父が何かを言おうとしたそのとき、いきなり扉が蹴破られた。
「そこまでです、お父様。いくらなんでも許しませんよ」
「かぐら・・・・・」
どうして、と言いかけたところをそっと制される。
「紙幣で人の気持ちが動かないこと、ご自分が一番よく知っておいでのはず。
それを承知で咲也を傷つけるなら、こちらもそれ相応のやり方がありますよ」
いつもとは明らかに違う、冷めた瞳。
そんな二人の様子を黙ってみていた神楽坂の父親は、ゆっくりと窓の方を向くと、
いきなりパーンとクラッカーを慣らした。
「合格だよ、二人とも」
「「は?」」
情けないことに、二人そろってハモってしまう。
そんな様子が可笑しいのか、ケラケラと笑いながら神楽坂の父親はこういい繋いだ。
「怜司ったら咲ちゃんがどんな子かまったく話してくれないからねぇ、ちょっと確かめたくなって」
つまり。
息子が男と付き合いだしたと聞いた親が、その気持ちを確かめるために咲也を拉致したってこと?
別れろと発破をかけて、どう反応するかで本気かどうか見定めていたということ?
そんなバカな話がどこにあるんだよぉぉぉッ!と思ってみても、
この場合なんでもやってしまう神楽坂の父親が相手なのだ。
人知を越えたことだってやってのけるに違いない。
「あなたという人は・・・・・・」
やられた、と頭を抱える神楽坂。
「ひどいことを言ってごめんね、咲也君。
君のような人が、息子の傍にいてくれるなら私は安心だ」
「え・・・でも、俺男だし・・・・」
付き合うなんてバカな話だと繋げようとしたところに、神楽坂がため息をついて首を横に振った。
「甘いよ咲也。この人は男だろうと女だろうと関係ない」
「そんなぁ・・・」
「大事なのは人間性だよ、咲也君。どんな女性と商売の駆け引きをするより、
一緒にいて息子のためになる人がいいだろう?しっかり確かめさせて貰った」
これでも、財閥の総帥なんだからと胸を張る。
そんな神楽坂の父親を尻目に、咲也はガックリとその場に膝をついてしまった。
「本当はお正月に引き合わせるつもりだったんだけれど・・・」
やはりあの人に会わせるべきではなかった、とため息をつく神楽坂に、そうか?と素直な疑問をぶつける。
「なんだかんだで認めてもらえたみたいだし・・・」
結局のところ。
神楽坂の父親は本当に咲也の顔を見たかっただけらしく、他に他意は無いという。
せっかくだから、と一緒に夕飯をごちそうになり、色々な話をして良い人だということも解った。
息子が男と付き合っていることに対しても別段驚く訳でもなく、否定する訳でもなく、
本人達が幸せならそれで万事OKと言ってしまうあたり、さすがは神楽坂の父親なのかも知れない。
「それにしても・・・散々な大晦日なんだけど」
「いいじゃないか、自宅の方には僕の家に行くと言ってあるし」
「お前、いつの間に?」
ほんと、油断ならないよなとしみじみ咲也が呟くと、すぐに神楽坂が怪訝な顔をした。
「油断と言えば・・・全く、知らない人について行っちゃ駄目だよ?」
「子供相手じゃないんだから!」
誰がそんなことをするか、と言いかけた唇を神楽坂が柔らかく塞いだ。
「・・・・・・ん」
「本当は・・・・別れ話に同意したらどうしようかと思ったんだ」
「あ・・・・そんな、こと・・・」
耳許で囁かれると、全身の力が抜けてゆく。
否定をしたいのに、甘い吐息が混じり言葉もままならない。
そんなことはないと囁くかわりに、身体をその腕の中に預ける。
たぶんこれからも、山あり谷ありなのだろう。
むしろ、何もないよりも少しは刺激が欲しいと思ってしまうあたり、自分も段々神楽坂に似てきたのかも知れない。
ケンカもして、すれ違いもして。
たまには傷ついたりもするだろう。
だけど、変わらぬ想いがここにあるのだと伝えたい。
どんなときも、 傍にいたい。
必要とする人に、必要とされたい。
そう想う人がここにいるのだと伝えたい。
神楽坂が少し嬉しそうな表情をするから、また好きになる。
自分でも単純だと思うが、そんな気持ちを大切にしていきたい。
そう言葉にするかわりに、咲也はギュッと神楽坂に抱きついてやった。
好きになるのに、理由なんて必要ですか?
*end*
ごーめーんーなーさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!!(無限大)
ごめんね、長くて。ごめんね、意味不明で!しかも絡みないし(笑)
一万HITリク、神楽坂×咲也です。久しぶりに書いたら、怜ちゃんパパも出てきて大騒動に。
しかも甘いんだかなんなんだか。
しかし、これだけの文を書けて私は満足です★
あなたを好きなワケ