ある晴れた日。







「ひゃー、絶好の稽古日和だぜ!」

久しぶりに稽古でもしようかと外に出た甘寧は、見事な晴れ具合にそう呟いた。

空は雲一つ無い快晴で、太陽がまぶしいくらいに輝きを放っている。

このところ、ずっと雨ばかりだったので鬱な気分になっていたが、こんなにカラリと晴れた日は、心も軽い。

愛剣を手にした甘寧は、訓練場所を探すべく、裏の小道へと足を進めた。

もちろん、訓練場を使用しても良いのだが、こんなに良い天気だと、緑の中で体を動かしたくなるというもの。

誰にもじゃまされずに自然とふれあえたら、どんなに気持ちが良いことだろう。

しばらく歩いたところで、甘寧は大きな木の傍に、日だまりができているのを見つけた。

「よっしゃ、ここでやるか」

そう思って茂みへと踏み込んだところ、どうも人の気配がする。

「ちッ、先客かよ」

ポリポリと頭を掻いた甘寧は、それでも日だまりの誘惑に耐えきれず、そっと足を踏み込んだ。

見ると、木の幹にもたれかかるようにして眠りこけている小さな姿がひとつ。

「軍師さん?」

訝しむように近づいた甘寧は、足下に転がるいくつもの書物に気がついた。

「なんでぇ、読んでるうちに寝ちまったのか」

まだ少年っぽさが残る陸遜の寝顔にため息をついて、傍に腰を下ろす。

甘寧が推測するところ、先にこの場所にきたのは陸遜で、書物を読み耽るうちに眠ってしまったらしかった。

「どうせ、また難しいのでも読んでたんだろうよ」

そう言うと足下に転がる書物のうち一つを手に取り目を通すと、甘寧は思わず絶句した。

「・・・・わかんねぇ」

文字が読めないと言うわけでは決してない。いかんせん、字の細かさと内容の複雑さに目眩がするのだ。

いったい、このあどけなく眠る少年の脳裏に、どれほどの策略が詰まっているのか。

敵じゃなくて良かった、と素直に思うものの、これだけの勉強をしなければならない陸遜の苦労をも思う。

「疲れて当然だよな・・・」

少年のように眠る陸遜は、全く起きる様子もない。

おそらく、連日に及ぶ会議や勉強で疲れ果てているのだろう。

トレードマークの帽子を体の脇に置き、大切そうに書物を抱えて眠る姿は、とても可愛らしい。

「・・・・・・・」

いつもは帽子に隠れている髪の毛も、今はさらさらと風に揺らめいて、

手で梳くと流れるように指の間をすり抜ける。

「やべ・・・」

人知れず口元を綻ばせていた甘寧は、かぁぁと顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。

「ん・・・・・」

かすかに身じろぎした陸遜が、甘寧の肩に頭を乗せるようにしてもたれ掛かってきた。

とはいえ、起きているわけではなく、無意識のうちのことらしい。

「おい、軍師さんよぉ、それじゃあ俺が動けねえ」

「・・・・・・・」

返事は、無い。

聞こえてくるのは、陸遜の規則正しい寝息と、優しくそよぐ風の音ばかりである。

「仕方ねえ、しばらく肩貸してやるから、好きなだけ寝ろや」

ふう、と、ため息をつき、空を見上げる。

どうやら、今日の稽古は中止になりそうだ。

ま、それもいいかと、傍らで寝息を立てる陸遜に呟く。

今はただ、この小さな体を休めてあげたい。

軍師としてではなく、ただの少年として、休息の時間を与えてやりたい。

「また戦になるんだよな・・・」

できるなら、計略など、戦など考えさせたくないと思う。

この小さな肩に背負うものは、あまりに大きすぎるのだ。

もしも、もう少しだけこの平穏が続くとしたら。

もしも、この戦乱の世に光が射すなら。

大切なひとに、明るいものであって欲しいと願う。

どこか寂しくなるほどに澄み切った空を見上げて、甘寧はため息をついた。

ともあれ、今は陸遜を寝かせてやることが先決。

そのためなら、、少しくらい肩がこるのも、甘んじて受けよう。

それに、もう少しだけ、この可愛らしい寝顔が見ていたいと言うのが本音のところ。

きっと、起きたら、自分が横にいることにびっくりするに違いない。

そんな陸遜の様子を想像して笑みをこぼした甘寧は、寝顔の鑑賞会を決め込むことにした。


どこか近くで、小鳥が楽しげにさえずっている。

もしも、乱世が終わりを告げるなら、こんな穏やかな日が良い・・・・。


〜END〜
      
*ぐはっ、むやみに長くて甘ッ!!この二人は、ほのぼのか陸遜のかかあ天下か
       どちらかになりそうなんですよね。今回は、おねむな陸遜です♪