どうも。
オレは趙雲子竜将軍にお仕えする一護衛兵だ。
名前は・・・・まあ気にするな。以後お見知りおきを。
何だかんだ裏話が聞きたいというのでこうして語っているが、俺が趙雲将軍の護衛兵になってから早数年。
コレでも結構ベテランって訳だ。
それでも、上司の趙雲将軍には、不明な点が多い。
というわけで俺は仕事をサボり
自主研究として趙雲将軍を観察することにした。

○月○日午前。
趙雲将軍は軍事会議のようだ。
俺たちは外で空き時間。
もともと五虎将軍で本当にお強いお方なので、俺たちが護衛する意味があるのかないのか不安なところだ。
それでもいつも趙雲将軍は俺たちに助かっていると礼を言う。
人間が出来たお方ってのは上司に持つと鼻が高い。
戦場に赴けばリスクも大きくなるが、それだけやりがいのあるしごとだと俺は自負している。
仕事の合間に同僚と世間話をしていると、そこへよく見知った人物がやってきた。
「すみません、趙雲殿を見かけませんでしたか?」
「あ、姜将軍。ただいま軍会議中では」
「それは先ほど終わりました。待っていて下さいとお願いしたのに、
 すぐどこかへ行ってしまうんですから」
「はあ・・・・」
ぷんぷんと頬を膨らませてお怒りになるのは姜維伯約将軍。
蜀の軍師・諸葛亮様の後継にあらせられるたいそうなお方だ。
その年、若干19歳。
(俺より若い・・・)
歳あるものは違うのか、と感傷にふけりそうになる俺だったがとりあえずにこやかに応対する。
「またいつものところなのではないでしょうか」
「そうかもしれません・・・ありがとうございます、すみませんね」
「いいえ、とんでもない。お声をかけて頂いて光栄でございます」
「では」
「はっ」
パタパタと駆けて行かれるお姿は、妙に愛らしくみえる。
あれでも、知勇兼武の武将だと思うとその意外さに驚いてしまうが・・・
もう一つ驚くことに思い当たって俺はため息をついた。
上司と姜将軍はデキている。
9割方間違いなく。
いや、100パーセント。
数多の縁談を断り続け、フリーを保っていたのにはこんな理由があったからなのか、
と当初驚きと納得が入り交じったものの、今じゃいたって普通の光景となっているから不思議だ。
それもこれも、自然に任せておくお二方の姿勢故かも知れない。
変に隠す方が怪しいしな。
そこは上司を尊敬する俺だ。
姜将軍の走って行かれた方を眺めていた俺は、急に背後からすすり泣く声が聞こえて振り返った。
「知ってましたかぁ〜、伯約様は趙雲将軍とデキてるんですよぉ〜」
「ああ」
るーるーるーと背中に哀愁を漂わせている。
俺が素っ気ない返事を返すと、驚いたようにすがりついてきた。
「知ってたんですか!?もうもう、何でですかねぇ」
まとまりのない話をするこいつは一体誰なのか。
気になった俺が問うと、そいつはにこやかに笑って答えてくれた。
「俺ですか?俺は姜維伯約様のところで護衛兵をしています」
「ほ〜ぉ」
「あ、でも新人なんですよ〜」
ニコニコと笑う彼の笑顔が眩しい。
おおー、若い若い。
俺の新人の頃は・・・・やさぐれてたか。
「で?姜将軍がウチの上司に取られたんで寂しいのか?」
「ち、違いますよ!」
「ほぉ〜?」
顎に手をかけて意地悪く笑うと、そいつはかぁぁと顔を真っ赤にして抗議してきた。
どうやら図星なのだろう。
面白いヤツだ。
「何ならお兄さんが相手になってやろうか」
「冗談は喋りだけにして下さいね」
言いやがるな、こいつ。
こんなところはどこか姜将軍に似ているかも知れない。
やはり上司に似るものなのか?
顎に手をかけて上向かせたままの俺VSにこやかに毒を吐くそいつ。
キツネとタヌキの化かし合いのような場面に、不意に思わぬ声が割って入った。
「お前たち・・・デキてたのか」
「「うわッ!!」」
おもわずダブって驚きの声が挙がる。
無理もない。
そこには趙雲将軍と姜将軍のお二方が連れ立って立っておられたのだから。
「は、伯約様・・・」
「心配しなくても誰にも言いませんよ」
「いえ!断じてそのような!」
「もう、早く言って下さればいいのに。ねえ趙雲殿」
「まあ・・・そうだな」
「は、伯約さまぁぁぁぁぁ〜〜〜」
滝のような涙を流す護衛兵に、にこやかな微笑みを返される姜将軍。
対する俺は何も言わず、ただボーっと突っ立っているだけだった。
「ちょっと、どうしてくれるんですか!?」
趙雲将軍と姜将軍がその場を去られた後、恐ろしいまでの形相でヤツが食ってかかってくる。
「まあ・・・どうしようもないが」
ポリポリと頭を掻いて俺がそう言うと、ヤツははああーとあからさまに大きなため息をついた。
「どうしてくれるんですかぁ〜。責任とって下さいよ・・・」
「ま、じゃあ責任を取るか」
そう言うと相手を持ち上げて踵を返す。
俵を担ぐような抱え方になるのはこの際目をつぶって貰おう。
「な!なにするんですか!!」
「や、だから責任とれって言っただろ?」
「そう言う意味ではありません!!」
バタバタと暴れるのをなんとか抱え込み、そのまま人気のないところへと向かう。
「いやぁぁぁーーーー!!!!」
「やっぱ責任は取らなきゃなぁ」
引っかかった獲物はいただく主義なのだ。
キャッチ・アンド・リリースなんてもったいないじゃないか。
思ったよりも上物が釣れたことに満足な俺は、早々に今日の観察を終了することにした。


蜀的事情〜趙雲編〜