確か、こんな季節だった。
たくさんの色があふれる季節。
たくさんの色の中に、貴方を見つけた。
一際明るく輝いて、力強かった。
世界にはたくさんの色や光があふれていたのに。
「もう・・・こんな季節ですか」
ポツリと呟いた姜維は、立ち止まって訓練場の方に目を向けた。
相変わらず世の中は戦ばかりで、兵も毎日のように訓練を行っている。
いつもと何らかわりのない日常なのだが、城という空間にいると、本当に状況が良くなっているのか、
自分の行っていることが正しいのか時々ふと見えなくなるときがある。
「私も・・・もっと強くなりたいんですけれどね」
計らずしもため息をついてしまうのはどうしてか。
別に弱くはないと多少の自負はあるが、武力で強さを現したいのではない。
心の強さが欲しいと思うのだ。
あの人は、とても強い人だから。
「迷いがあると、駄目だといいますね」
それは、よく丞相にいわれた言葉。
いつも、別に迷ってなんか!とムキになってしまうのだが、聡明な師匠には何でもお見通しな様子である。
「もうっ!」
憂さ晴らしでもしようと思い、訓練場に立てかけてある木槍を取って腕を振るう。
敵兵がそこにいるかのように思い描き、攻撃をよける。
上手く避けきったなら、次は反撃。
もっとも、現在姜維の脳裏に思い描かれている敵は、丞相なのだが。
「それでは、すぐにかわされてしまうぞ」
「あ・・・」
ムキになっていて、周囲が見えていなかったのだろうか、いつの間にか趙雲が自分の動きを見てクスクスと笑っていた。
「少し・・・腕が鈍ったか?」
「そんなことありません!」
ムッとしてそう答えると、趙雲は困ったように微笑んだ。
それから、軽くストレッチをして自分も傍に立てかけてある槍を取った。
そして、姜維に向き直る。
「では、お手並み拝見」
槍先を弾くと、スッと構えの姿勢に入る。
姜維もつられるようにして槍を構えた。
カツン・・・。
木を打つ軽い音がして槍が弾かれる。
急な衝撃に、槍を落としてしまいそうになるのを堪え、隙を見て反撃に姿勢を取る。
(この動き・・・・・・)
流水を思わせる槍裁き。
あのときに姜維が見たのも、この動きだった。
しなやかで、力強い。
そして、あのときもこんな季節・・・・。、
「あ・・・・」
そんなことを考えていたら、いつの間にか首筋に刃先を当てられていた。
少し眉を寄せた趙雲はスッと槍を降ろし、姜維の目をのぞき込んだ。
「何を考えている?」
「ええと・・・・」
そんな目で見られると、何もかも見透かされてしまいそう。
後ずさりながら苦笑いを浮かべると、ますます不思議そうな顔をした趙雲が近づいてくる・
「わ、私は、今日はこれで・・・・っ」
そう言うと、クルッと背を向けてその場から逃げ出した・・・筈だった。
「そう何度も逃げられてたまるか・・・」
「ぅうー」
少し走ったところで、素晴らしいスタートダッシュを見せた趙雲に捕まってしまった。
そのまま、逃げ出さないようにと抱きしめれる。
「えっと・・・・趙雲殿?」
「そう言えば・・・こんな季節だったな」
そう言って問いかけてくる趙雲の顔が、どこか切なそうなのが少し気に掛かる。
「え・・・・・・」
何かを思い出しているような、懐かしむようなそんな声色。
「こんな季節・・・世界には沢山の色があった。
毎日が流れるように変化して新しいことが起きるのに、俺の周りだけどこか色あせていて」
「・・・・」
趙雲が一人称を変えるとき、それは限りなく”自分”の存在が浮上しているときだと姜維は知っている。
いつもは、どんな時でも落ち着きと冷静な判断を失わない趙雲が、一人称を変えるとき。
冷静さの狭間から、隠れた孤独が顔を覗かせる。
趙雲子竜という名前に縛られる故の孤独。
誰にも知られまいとする姿が切なくて。
少しでも埋められたなら、と切に思う。
「けれど・・・お前の存在だけ、鮮やかな色を放っていた。
褪せることのない色を。」
「子竜・・・」
抱きしめることが全てではないけれど、その背中をぎゅっと抱きしめる。
言葉にすれば、どこか軽くなるような気がして、躊躇ってしまう。
そんな間を趙雲はどう捕らえたか解らないが、照れくさそうに言い繋いだ。
「おかしいな、誰かを大切に思うことなど、あまり無いのに」
いつも余裕たっぷりに構えている癖に、ここぞというところで人一倍不器用で。
だけど、何よりも伝わる気持ちを、姜維は知っている。
「殿の次くらいに、大切にして頂けていますか?」
「おいおい、それとこれとは・・・」
だから、ほんの少しだけイタズラ心を込めて返事を返す。
慌てて目を丸くする趙雲が可笑しくて、冗談だというとガックリと肩を落としていた。
「ビックリさせるなよ・・・・」
はぁ、とため息をつきながらもどこか楽しそうな顔を見ると、やはりあの頃を思い出す。
格好良くて、憧れていて。
そんな日を思い出す。
何が正しいのかとか、もしかしたら釣り合わないんじゃないかとか、諸々の不安は尽きないが、
それもこれも自分の心でゆっくり考えていこうと思う。
すぐ傍に、こんなにも眩しい人がいる。
手を伸ばせば、しっかりと握ってくれる存在が居る。
「子竜、私・・・・・・」
「どうした?」
不思議そうに問いかけてくる趙雲の顔にニッコリと微笑みかけると、思い切り息を吸い込んで言ってみる。
「なんでもないですよ」
(この季節が、大好きです)
貴方の居る、この季節が。
でも、口に出してしまうのは勿体ない。
秘密兵器は、最後まで取っておくもの。
どんなに尋ねられたって、教えてあげない。
そう、答えは胸の中にだけしまっておこう。
もうすぐ、夏、本番。
〜END〜
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