もし、貴方の心が見えたなら。

それは何色をしているのだろう。

この空のように澄んだ色?

あの若葉のように鮮やかな色?

それとも・・・・・・

(そんなの、解るはずがないか・・・)
そこまで考えて、姜維は書類を書く手をふと止めた。
集中していたものが、急にプツリと途切れる。
人の心なんて理解できるはずがないと思っていたのに、最近どうも落ち着かなくて集中力に欠けている。
窓の外に目をやると、ちょうど二階にある執務室の窓までのびた木の枝に二羽の小鳥が仲良く並んでさえずっていた。
おそらく二羽はつがいなのだろう。
「お前たちは互いの心が解るのか?」
そっと手を伸ばすと、小さな丸い瞳をした小鳥は怯えることもなく姜維の手にじゃれついてきた。
何がそんなに気になるのだろう?と問いかけてみても、小鳥は何も答えない。
ピピピと楽しそうに歌い、二羽で会話を楽しんでいるようだった。
「私は何をしているんだろう・・・」
あの人は“好きだ”と言ってくれたのに。
暖かい腕で抱きしめてくれたのに。
戦場に生きる自分が誰かを愛するなんて考えたこともなかった。
けれど、一度あふれ出た想いは尽きることなく、胸の中にトクトクと流れ続けている。
「何だかなぁ・・・・」
はあ・・・とため息をついた姜維の手元から、ふわりと羽を広げて二羽の小鳥が飛び立つ。
どこへ行くのだろうと眺めていたところ、窓の下をよく見知った姿が通りかかった。
「趙雲殿!」
「ああ、姜維か。どうかしたのか?」
「いえ・・・用があるわけではないのですけれど・・・」
何とはなしに呼んでみただけだ、とは言えるはずもなく口ごもってしまった姜維に、
趙雲は少し考えるような素振りを見せた後、おもむろに木に登り始めた。
「ちょ、趙雲殿!?」
「そっちにいくから、少しまってろ」
慌てる姜維を尻目に、趙雲は軽い身のこなしであっさりと二階まで木を上ってやってきた。
そのまま窓枠に手をかけると、トンッと室内へ飛び降りる。
眼をぱちくりさせている姜維の前まで来ると、机の上に散らかったままの書類を手に取った。
「次の作戦用のか?」
「ええ、でも相手の出方が今ひとつ読めなくて・・・」
軍師失格ですね、と苦笑いすると、趙雲は手にした書類をクルクル丸めて姜維の頭をポコンと叩いた。
「お前は、人の心が解るのか?」
「いいえ・・・でも、それを読みつつ作戦を立てるのが軍師のつとめですから」
「なら、俺の心が解るか?」
そう問われて、無言になる。
一番知りたいのに、解らない。
兵の行動なら予測もすぐつくのに。
黙り込んだ姜維に、趙雲は優しく微笑みかけると言葉を繋げた。
「人の心は・・・海のようだな」
「海・・・ですか?」
ぼんやりと答えを返すと、趙雲がそれに頷いて答えた。
「荒れているときもあれば穏やかなときもある。
青く澄んだところもあれば、深くくらい部分もある」
「・・・・・」
趙雲の言わんとするところが解らずに、不思議そうな顔で首をかしげていると、
趙雲は困ったように微笑んだ。
「海は、見ていると自然と波の様子がわかるようになるものだ。
大事なのは、それを見るお前の心だろう?」
そう言うと姜維を引き寄せて耳許で囁く。
「俺はお前の心が知りたいがな」
「っ・・・・」
かああっと頬を染めた姜維は、その答えを返す代わりに自分からゆっくり口づけた。
そっと顔を離すと、穏やかな趙雲の瞳に至近距離で見つめられる。
「俺はうぬぼれて良いのか?」
「・・・知りません、そんなこと!」
趙雲の首を引き寄せて肩口に顔を埋めると、モゴモゴと反論しておく。
こうでもしないと照れてどこかに消えてしまいたくなるのだ。
(心は、海のよう・・・・)
趙雲の言葉を反芻した姜維は、ぼんやりとその意味を理解し始めていた。
海のよう・・・その言葉に当てはまるのは、趙雲だと姜維は思う。
穏やかに微笑み、物事を受け止める。
大きくて暖かい存在だが、それだけではない。
槍を取って戦場をかける姿も、怒りに震える姿も、そのすべてが同じ趙雲であり
自分の心を捕らえて放さない人なのだ。
海は見ていると様子がわかるようになると言う。
人の心もまた同じなのだろう。
ゆっくり時間をかけて、分かり合えるようになればいい。
(そうですよね・・・・?)
問いかける代わりに抱きつく腕に少しだけ力を込めると、ゆっくりと趙雲の大きな手が頭を撫でた。
今なら良い作戦が書けそうだと机に散らばったままの書類を横目で見た姜維だったが、
暖かい腕の誘惑には勝てるはずもなく、そのまま抱き上げられることにも抵抗できないでいる。
ふわりと寝台に横たえられて少しだけ書類のことが気に掛かったが、多い被さってくる趙雲を抱き留めると、姜維はゆっくり瞳を閉じた。

その後、姜維が書類を提出するのは少し後になったという・・・・。

*END*


*ひゃ〜!!いきなり表で何をやってんのお二人さん!危ない危ない〜。
555HIT記念!すこんぶ様、おめでとうございます!幸せな趙雲×姜維・・・どの辺が幸せなのかは不明ですが。
心理学の講義中に思いついたので心がテーマ。
趙雲さんは一直線です。誤解されやすいタイプかも。趙雲さんのイメージは海。
姜維ちゃんは若葉なんですよねぇ・・・青春万歳(意味不明)

こころ

☆555HIT記念☆