静かな音。
先刻から補沿い雨が地面を静かに濡らしている。
雨音以外に音はなく、心地よい静けさが部屋中を包んでいた。
「・・・・?」
ふと窓の外へと目をやった劉備は、庭にうずくまる小さな白い影に目をとめた。
「みゃぁー」
上目遣いに劉備を見つめ、細く鳴く。
小さく肩を振るわせるその姿に、どこか胸の片隅が痛くなった劉備は仔猫を抱いて部屋へと戻った。
「みー・・・」
身体に突いた水分が気持ち悪いのか、ふるふると身震いして水気を吹き飛ばそうとする。
劉備が体を拭いてやろうと手を伸ばすと、仔猫は少しだけ身構えてにゃーっと唸った。
「そのように身構えずとも良いぞ」
そっと手を伸ばして体を拭いてやると、柔らかい布の感触が気に入ったのか、
仔猫は目を細めて劉備にじゃれついた。
「どうしてまたこんな雨の中にいたのだ?」
そっとそう呟いてみても仔猫はただ、にゃーと一つ鳴くだけであった。
「寒いだろう、何か暖かいものを持ってくるからな」
布の上にうずくまって上目がちに劉備を見上げてくる仔猫に微笑んで、
劉備は部屋の奥へと消えていった。
「ほら、待たせたな」
それからしばらく。
劉備が戻ってくると、そこにあるのは少し濡れた布と微かに開いた窓。
さっきまでうずくまっていた仔猫の姿はどこにもなく、床にしたたった水分が、
窓からの光をキラキラと反射していた。
「気まぐれな奴め・・・」
せっかくの湯が冷めるではないか、とため息をついて窓の方を見ると、
先ほどまで振っていた雨はいつの間にか止んでいて、雲の切れ間からうっすらと光がこぼれていた。
外の地面には小さな足跡が続いている。
おそらく、雨が上がったのを感じてまた外へ出て行ったのだろう。
「お前は誰かに似ている・・・」
気ままに振る舞い、好かれているのかいないのか掴みにくいところ。
甘えてきたかと思えば、そんな素振りも見せずにドライになってみたり。
でも、そこがきになるところなの、とは今はまだ言ってやらない。
気まぐれな猫だからこそ、次にどんな行動をするのか楽しみで仕方がないのだ。
何を考えているのか、自分にだけそっと教えて欲しい。
(猫と言うよりも、キツネの方が似合いそうなのだが・・・・)
クスクスと自然に笑みを浮かべた劉備は、扉を叩く音に気づいて振り返った。
こんな昼下がりに、しかも唐突に自分の部屋を訪れてくるのなんて一人しかいやしない。
案の定姿を現した人物に、劉備はにっこりと笑いかけた。
「どうかなされましたか?」
「いや、気まぐれな猫を飼い慣らしたいと思ってな」
少し濡れた布と湯を片付けながらそう言うと、孔明は一瞬首をかしげた。
しかし、劉備のその言葉をどう取ったのかは解らないが、
すぐに「どうでしょうねぇ」とにこやかに返答を返すと窓の外を眺めていた。
(そう簡単にはいきませんよ・・・)
地面に小さな足跡を見つけた孔明は、クスリと微笑みをこぼしてそう呟いた。
先ほどまで孔明の部屋にいた白い仔猫のことを劉備に話してみようか。
どうやら、この部屋にも訪れたようだから。
ふふふ、と白い扇をはためかせた孔明は、そっと窓を開くと劉備の片づけを手伝うべく振り返った。
そして、ふと劉備の言葉を思い返す。
『気まぐれな猫を飼い慣らしたいと思ってな』
(まだまだ、飼い慣らされるわけにはいきませんねぇ)
まだまだ本心を悟られるわけにはいかない。
ハラハラドキドキ、その方が目を離さないでしょう。
だって好きな子ほどちょっかいをかけたくなると言うもの。
仔猫のように気ままに振る舞いたいじゃない。
ニヤリと微笑む孔明の胸中を的確に表すとこんなトコロである。
あの白い仔猫は今頃どこを歩いているのだろう。
雨上がりの虹を見ながら、気ままに進んでいるのだろうか。
そんな自由をほんの少しだけ羨ましく思いながら、孔明は劉備に微笑んだ。
白い仔猫と雨上がりの虹。
仔猫の去った部屋の窓辺に、キツネの尻尾がふわふわ揺れる。
*END*
☆ああ・・・どうしましょう。孔明さんをキツネキツネって言ってると、ついにこんなお話が(笑)
久々に書いたのに〜(ぼーん)
仔猫と虹の空