「はあ・・・・」
趙雲が遠征に行って、早一ヶ月の月日が過ぎようとしていた。
趙雲、馬超、張飛、諸葛亮・・・・蜀の要とされる武将が数名陣を離れると、
妙に静かな空気が流れている。
姜維もついて行きたかったのだが、丞相府での内政や兵の士気の維持と、
やらなければならない仕事が山のようになっていたため、おとなしくお留守番である。
出発前夜、心配する姜維に趙雲は大丈夫だと言って笑った。
それから毎日伝令からの報告を聞いているが、
未だ怪我をしたとか戦死兵がでたなどの報告はない。
それでも毎日が不安で、ただ待っていることしかできない自分を悔しく思ったものだった。
「そろそろ帰る頃だろうか・・・」
願わくば、全員無事に戻ることを。
そわそわと外を眺めていた姜維は、伝令兵の登場に人一倍喜んだ。
「伝令!ただいま、凱旋との報告です!」
よかった・・・・。
ホッとして、気が抜ける。
窓に駆け寄ると、遠くで旗を振っている一団が見えた。
「おかえりなさい、趙雲殿」
「ただいま・・・」
にっこりと微笑んでそうは言うものの、どうも趙雲の様子がおかしい。
どこか遠くを見ているような、ボンヤリした瞳をしている。
「趙雲殿・・・・?」
ふら・・・と趙雲の身体が傾く。
慌てて受け止めると、姜維は異変に気づいた。
「どうしたんですか、趙雲殿!?」
趙雲の身体が熱い。
呼吸が浅く、汗をかいている。どうやら、熱を出しているようだ。
劉備様の前ではそんな様子はなかったのに・・・・。
凱旋報告の際も、いつもと同じような笑顔で報告をしていたのに。
「伯約・・・少し疲れた・・・」
「子竜ッ!!」
姜維の肩に顔を埋めると、趙雲はそのまま気を失っていた。
「ん・・・・」
頭が痛い。
薄暗い部屋の中を見渡すと、ここが姜維の部屋だと言うことが解った。
姜維の部屋に来た記憶はあるが、どうして寝台に寝かされているのかの記憶がない。
遠征の疲れで熱っぽかったことは覚えているのだが・・・。
(倒れたか・・・?)
ゆっくりと起きあがると、傍で小さな寝息がする。
見れば、姜維が床に座り寝台にもたれ掛かるようにして眠りこけていた。
枕元に持ってきた机の上には洗面器と濡れた布。
どうやら自分を看病していて、疲れて寝てしまったのだろう。
「こんなところで寝たら風邪を引くぞ」
眠る姜維の身体を抱えると、そのまま寝台の上に寝かせる。
うん・・・と寝返りを打った姜維は、それでもすやすやと眠っているようだった。
「ただいま、伯約」
寝顔に向かってそっと呟く。さっき言えなかった分の愛情を込めて。
姜維の髪の毛を優しく撫でると、そのまぶたがかすかに震え、うっすらと目を開いた。
「しりゅう・・・熱・・・」
起きているのか寝言なのか解らない口調でボソボソと呟く。
大丈夫だと姜維の頭を撫でると、姜維は起きあがり涙目になって抗議してきた。
「だいじょぉぶって・・・だいじょぉぶじゃありませんよぉ」
「・・・・・」
これは完全に寝ぼけている。その証拠に、
ボソボソと話してはいるが、姜維はまた眼を閉じてしまったのだ。
座ったまま寝てしまいそうなくらいにフラフラとしている。
「大丈夫だから、お前ももう寝ろ」
「ほんとぉぉに、だいじょぉぶですかぁ?」
目をこすりながら言う姜維のおでこに口づけて布団に横にならせる。
そのままあっさりと寝てしまうかと思ったが、次の姜維の行動は趙雲が予測しないものだった。
「心配したんですからぁ・・・なかなか遠征から帰ってこないしぃ、倒れちゃうしぃ・・・」
ぐしゅぐしゅと鼻をすすりながら、思いっきり抱きついてくる。
困り果てた趙雲は、優しく姜維のおでこにキスを繰り返すのだが、姜維の寝ぼけ度はすさまじいものだった。
「大丈夫だから。心配しないいで寝ろ」
「やですぅ・・・ずっとしてもらってないのにぃ」
困った。
いつぞや、姜維が酒によってしまった時も困ったが、寝ぼけた姜維の威力がこんなにすさまじいとは。
ストレートに攻撃を食らった趙雲にとどめを刺すかのように姜維が「欲求不満なんですよぉ・・・」
とおねだりを始める。
「・・・・」
趙雲、あえなく敗走。
ねむねむ姜維の瞳に見つめられた趙雲が言えた言葉は「望みのままに」だけだった。
「うん・・・・・わあああああああ!!!!」
朝一番。すがすがしい空気を思い切りぶちこわすかのように姜維は絶叫をあげた。
「な、なんで!?」
どうして自分は何も着ずに寝台に寝ているの。
確か昨日は倒れた趙雲の看病をしていたはず・・・・。
なのに、鎖骨から太股まで点々と続くこの赤い後は何。
自分の身体を確かめた姜維は、ハッと気づいて布団をめくった。
「や、やっぱり・・・・」
布団の中では、姜維の腰に手を回した趙雲が気持ちよさそうに寝息を立てている。
このようすだと、昨晩の熱は下がったようだ。
良かったような、そうでないような。
何とも複雑な気持ちに陥った姜維は、むぎゅっと趙雲の鼻をつまんだ。
「気持ちよさそうに寝て・・・・」
遠征に言っている間、どれほど心配したことか。
帰ってきたと思ったら、疲労で倒れたりなんかして。
心臓が止まるかと思ったんですよと文句とつけてからつまんでいた手を離す。
そうするとかすかに身じろぎした趙雲が、無意識のうちに姜維の腰を引き寄せる。
「もう・・・・」
仕方ない、もう少し寝ましょうかと独り言を呟いて趙雲の隣に潜り込む。
こんなに甘くなってしまうのは、遠征であえなかったからだと自分に言い訳をする。
「それにしても・・・なんで抱かれてしまったんでしょう?」
確かに、自分は床で趙雲の看病をしていたはずなのに。
問いつめねばなりませんね、と怒る姜維が、コトの真相を聞き真っ赤になって趙雲に抗議するのは、もう少し後のことだった・・・・。
:*どわー、甘〜。砂糖吐きまくり♪なんか、強そうに見える趙雲さんもやっぱ人の子なのねってかんじですな。
酔えば襲い受け、寝ぼけは超絶。そんな姜維ちゃんが可愛くって仕方ないです。
無題:non title