沙夢さん、遅くなってすいません(^^;)スペシャル
お題「嵐」「鍋」より「今、僕が出来る事V」
明日へ進むその前に
その日も甲児は恨めしげに空を眺めていた。収穫の終わったフリードの空は、底が抜けたような雲一つ無い青空である。だが、その青空の向こうには地上からは想像も付かない磁気嵐が吹き荒れていた。その磁気嵐のお陰で、甲児はもう1ヶ月近くフリードに足止めを食らっていた。思えばマリアに拉致されて、デュークの介護に連れて来られたのは、八ヶ岳に風花の舞う頃だった。今頃は本格的な雪になっている筈だ。
「一体いつになったら止むつもりだーっっ!!」
思わず空に向かって叫びたくなるのも当然であろう。因みに当事者がデュークで有れば「・・・青い空なんて嫌いだーっっ!」と続いたであろう。
「気象衛星もいるわねぇ。はぁ・・・物入りが続くってのに、船が出入り出来ないと税収落ちちゃうわぁ・・・。」
甲児の隣で算盤を片手にマリアが溜息をつく。
「・・・気象衛星っていくら位すんだ?」
「中古で2億くらいかしら・・・。」
「いっそ彼奴売るってのはどうだ?」
そう甲児が指差した青空の先に、グレンダイザーの機影がキラリと光った。
「駄目よ。まだ当分土木工事とかに使うもの。人手なんていっくらあっても足りないのよ。それに売ったって気象衛星1機分にもならないんじゃない?甲児なら買う?」
「・・・買わねぇーな。」
甲児とマリアの会話の示すものは、当然グレンダイザーではない。そうこうしている内にグレンダイザーの機影が二人の頭上を掠めて行く。
「さぁて・・・報告でも聞きに行きましょう。」
マリアに促され、甲児はもう一度恨めし気に青空を見上げると、グレンダイザーの向かった方向へ歩き始めた。
フリードの復興は、先ず農地耕作と鉱物資源開発の2本立てで進められていた。その為、整然と区分けされた農地とその中心に作られた集落や鉱山等の近隣に作られた関係者用施設に比べ、首都近郊の整備はかなり遅れていた。取り敢えず宙港だけは首都港の面目を保てるだけの物が作られているが、その他の施設にまでは、まだ手が回らずにいるのが実状だった。よって必然的に幸運にも被害の少なかった建造物が修復され、使い回されている。今、甲児とマリアが向かっているのもその一つ、宙港を眼下に見下ろす丘の上に建つかつての神殿であった。当時を忍ばせる白亜の柱の上に如何にも取って付けた黒っぽい合金の屋根が不釣り合いだが、贅沢は言えない。一応、ここが現フリードの政治の中心・王宮兼御前議事堂という事になっている。その王宮兼御前議事堂前に、何やら人だかりが出来ている。陳情やら公聴会やらで、人が集まるのは珍しい事ではなかったが、今日のそれは何やら趣が異なっていた。やけに女子供の姿が目立つ。その様子に先に気付いたのは、甲児だった。
「おい、マリアちゃん・・・なんか集ってるぜ。」
「あらま、どうしたのかしら?」
二人が急ぎ近づいてみると、その人だかりの中心には何故か野菜の入った篭を抱えたデュークが立っていた。そのデュークが二人に気付き、手を振った。
「甲児くん、マリア!」
「一体何の騒ぎよ、兄さん!」
マリアの言葉に、デュークの周りに集まっていた子供達が、次々に口を開く。
「しゅーかくのおまつりなの。」
「かみさまにおななえすの。」
「でもかみさまないの。」
「だからおおさまにもってきたの。」
「ちょっと待って一度に言わないでね・・・えーっと・・・。」
子供達の騒ぎに、訳が分からず慌てるマリアに、子供達の背後に居た年長の女性が助け船を出してくれた。
「これ、お前達、静かにおしっ!グレース・マリア、これは収穫祭の折りに、神殿に捧げる作物なのですが、今のフリードには本来の祭事を行う神殿がございません。それで私達、皆で話し合ってこれを王宮の皆様に召し上がって戴こうと思い、持参致しましたの。僅かではございますが、どうかお納め下さいまし。」
女の言葉に、マリアは一瞬目を見張った。
「・・・そんな・・・だってこれは、皆がこれから1年食べて行く為の大事な作物なのよ。配給だってそんなに・・・それに・・・。」
「ご心配なさいますな、グレース・マリア。これは私らの気持ちなんです。フリードを蘇らせる為に奔走下さっている陛下やグレース・マリア、臣下の方々に、私らが出来るせめてもの気持ちなんでございます。」
言葉を失うマリアの肩に、デュークの手が軽く掛けられた。
「マリア、大切な皆の気持ちだ。有り難く戴いておこう。」
デュークのその言葉に、マリアは目を潤ませながら、こくりと頷いた。
「・・・しかし、現実問題として、これをどうするか・・・だが・・・。」
農民達の去った後、野菜の篭に囲まれデュークは困ったように腕を組み、それを見つめた。確かにそれは、デュークとマリアの二人には多すぎる、臣下の者達に分け与えるには少なすぎる量であった。
「考えるこたねーよ、皆で食っちまえばいーんじゃねーの?」
何気ない甲児の言葉に、マリアがデュークの考えていた事と同じ事を口にした。
「皆で・・・食べる?」
「そ、分けるにゃ少ないけど・・・んーそうだな・・・俺、ちょっと厨房のおっさんと相談して来るから、政務の方が終わったら皆を集めといてくれよ。収穫祝いの祭り、やろうぜ。」
そう言って、王宮の中へ駆け込んでいった甲児を見送りながら、デュークは感慨深げにその言葉を繰り返した。
「収穫祝いの・・・祭り・・・か。」
「そうね、やりましょうよ。皆の慰労も兼ねてね。」
その日の夕暮れ、王宮兼御前議事堂前の広場は、ちょっとした宴会騒ぎになっていた。中央に置かれた巨大な鍋の中に、なんだか色々な物が放り込まれ、ぐつぐつと煮えている。
「こーゆーのを地球じゃ『鍋』って言うんだぜ。」
「は?この料理が『鍋』という名称なのですかな?」
「そ、色んな野菜や肉や魚を一緒に煮て食う、冬の代表的な料理さ。」
鍋に野菜を景気良く放り込みながら解説する甲児に、剛の者として知られたデュークの臣下の者達が、目を丸くして聞き入っている。
「ちょっと甲児、なんかこの出汁物足りなく無い?」
横から鍋の味見をしていたマリアが、口を挟む。
「あ?そうだなぁ、塩だけじゃ物足りないかもなぁ・・・なぁフリードにゃ味噌とか醤油みたいな調味料ってねぇの?」
甲児の問いに厨房係の男が、聞いた事も無いという風に首を振る。
「確か無い・・・と思うわ。うーん・・・やっぱり物足りない。」
「しかし、肉や野菜から結構な味が出ております。これだけでも、大変美味ではないかと思いますが。」
マリアの隣に居た老齢の家臣の言葉に、マリアと甲児は顔を見合わせた。確かに元々の『鍋』を知らない彼らには、これはこれでおいしく感じられるのかもしれない。
「ちょっと物足りないけど・・・よし、んじゃ、よそっちまおうぜ。」
鍋の周りに集まった家臣達に、鍋奉行よろしく甲児とマリアが次々と器に取り分け配って行く。その初めて味わう地球風料理を肴に、家臣達が談笑する様子をデュークは少し離れた所から楽しそうに眺めていた。最初は、デュークも甲児を手伝おうとしたのだが、何故か追い払われ、仕方なくここに鎮座し『鍋』パーティの様子を眺める事になっている。やがて、甲児が器を手にデュークの方へやって来た。
「上手く出来たかい?甲児くん。」
「はいよ、あんたの分。ま、食ってみろって。」
甲児のその言葉に、デュークはいろいろ盛られた内の根菜らしき野菜を口に運んだ。
「・・・懐かしい味がする。」
「ちょっと物足りないだろうけどな。」
「いいや、新たなフリードの実りと懐かしい地球の味だよ。」
感慨深げにそう呟いたデュークの横に腰を降ろし、甲児も又自分の分の器の中のいくつかを味見した。
「うん・・・まぁ新しいフリードの味だと思えば悪かないか。」
「はは・・・甲児くんには物足りないみたいだね。その内、味噌や醤油も輸入しておくよ。」
「いいよ、この次に来る時に俺が土産に持って来てやるよ。それより、マリアちゃんが気象衛星がいるって言ってたぜ。」
「え?気象衛星なら、飛んでるよ。」
穀物の粉で作った麺状の物を口に運びながら、デュークが不思議そうな顔をする。
「はぁ?だって・・・気象衛星がねーから、何時磁気嵐がやむか分からなくて、あんた調べに行ったりしてたんじゃねーのかよ?」
「ああ・・・あれね、昔打ち上げた気象衛星があるんだけど、それが当然破壊されていると思ったら、まだ生きててね・・・おまけに故障して変な磁気をまき散らしてるのを見つけて直して来たんだよ、今日。だから磁気嵐の件も無事解け・・・・つ・・・・・・。」
そこまで言って、デュークは甲児の形相が変わっている事に漸く気付いた。
「・・・・・・・なんだ・・・とぉ?」
「え?だから・・・磁気嵐・・・・の原因は・・・。」
「てめぇーっ!そういう大事な事を何故先に言わーんっっ!!」
甲児の鉄拳が飛ぶ寸前、デュークは器用に身を躱すと王宮の方へと駆け出していた。
「俺がどれだけここに足止めされたと思ってんだーっっ!!」
「鍋を作るって報告を聞かなかったのは君じゃないかーっっ!」
デュークが甲児に追い回されている頃、マリアは航宙管制室からの気象衛星復活・磁気嵐沈静の報告を受けていた。
「・・・なんだ、あれ直ったの。ま、いいわ。入港する船があるのは明日以降でしょうし・・・まずはこの鍋、食べちゃいましょう。甲児送って行くのも、明日でいいわよね。」
END