管理人自らカウンタ100踏みましたスペシャル


今、僕が出来る事



 秋の気配が漂い始めた初秋の夜空を甲児は、一人宇宙科学研究所のベランダから見上げていた。階下では、十五夜を楽しもうと団兵衛親子を交えた研究所の人々が集まり、ささやかな宴が催されている。だが、風流を楽しむ筈の宴は、酒肴が入るにつれ、宴会の様相を呈し始め、甲児は早々にその場を退散していた。にぎやかな宴会は、甲児にとっては十八番だが、ただ今夜は何か星に呼ばれるように宴会の席を離れてしまった。それは、もしかすると何時も彼の側に有り、何かと過ぎる事の多い彼の歯止め役でもあった親友とその妹が、永い戦いを終え、故郷の星へと帰って行った事が少なからず影響しているのかもしれなかった。彼らが旅立ったのは、春・・・。
「大介さん・・・フリード星でも、こんな見事な月が見えているかい?」
 見上げる星空の彼方にあるフリード星で、彼らは復興という名の新たな戦いを始めているのだろう。何時も何時の時も共に戦ってきた彼らを、今の自分はこうして遠くから祈るように、思いやるしか出来ないのが甲児には歯痒かった。だが、
「自分でフリード星へ行く事も出来ないんじゃ・・・しょーがねーよな・・・。今、俺に出来る事なんて・・・こうやって・・・・・・」
 もう一度、星空を見上げ呟きかけた甲児の表情が、次の瞬間凍り付いた。秋の夜空を見慣れた物体がやけにゆっくり通り過ぎる。それも、妙に目立つ明るい光を放ちながら・・・。


 いきなり派手な足音と共に二階から駆け下りて来た甲児に、丁度宴会場となった部屋から出てきた宇門所長が、驚いたように声を掛けた。
「どうしたね、甲児くん・・・。」
 が、その問いに返事は無く、甲児の姿はあっという間に格納庫の方向へ猛スピードで消えて行った。
「はて、この夜遅くに?」
 宇門所長の疑問は、続いて響いたダブルスペイザーの発進音に結論を得た。
「まぁ、若い内はそういう事もあるだろう。」
 何が「そういう事」なのかは知らないが、宇門所長の中では甲児の行動に納得の出来る結論が、出たようだった。


 数分後、ダブルスペイザー で謎の(笑)発光物体に接近した甲児は、それを追尾射程にロックオンすると、徐に機外スピーカのスィッチをオンにした。
「そこのチンドン屋!速やかに白樺牧場東側の丘に着陸せよ!・・・さもねーと、ぶっ放すぞ!!」
 甲児の怒声に、すぐにインカムを通じ返答が返った。
「こ・・・甲児くん、いきなりチンドン屋は無いだろう?」
 聞き慣れたその声に、甲児の声が怒りを孕んでぐっと低くなる。
「・・・そこへ降りろっつってん だろ?話は、降りてからゆっくり聞いてやる!」
 甲児をもって『チンドン屋』と言わしめる程に、機体中妙な形のネオンサインで彩られたグレンダイザーが、操縦者の心情を表すようによろよろと着陸態勢に入った。


「で?」
 甲児の低く短い問いかけに、返った応えはすっとぼけた物だった。
「で?って・・・な・・・何か怒ってるのか・・・い・・・?」
「・・・これぁ何だよ。」
 甲児が顎でしゃくって示した物は、当然ネオンサインに彩られたグレンダイザー、である。
「何って・・・宣伝用のネオンだけど・・・。」
「俺は、フリード星を復興している筈のあんたが、なんでグレンダイザーにネオン付けてふらふらしてるかを聞いてんだよ!」
 いきなり胸ぐらを掴まれた大介・デュークの腰が思わず引ける。
「わーっ!待て待てっっ!暴力はいけないっ!これはただのバイトなんだよーっっ!」
「一国の王がバイトだとぉ?」
 更に、低くなる甲児の声に怯えたように大介は、グレンダイザーを指さし叫んだ。
「ほ、本当だよっ!マリア・・・マリアに通信が繋がるから、聞いてくれっそ、そうすれば分かるからっっ!」
 大介の言葉に胡散臭気な表情を浮かべながら、甲児は大介に蹴りを入れながら、ダイザー の操縦席に向かった。


 グレンダイザーの通信回線は、何万光年の隔たりを感じさせない程鮮やかに、フリード星のマリアの姿を写し出していた。
「そう、バイトなのよ、ホントに。兄さんてば、そんなバイト位しか役に立たなくて、困ってんのよぉ。」
 マリアの言葉に、甲児はどっと操縦桿に突っ伏した。
「どこの世界にチンドン屋のバイトする王様が居んだよっっ!」
 思わず泣きたくなってくるのは、甲児ばかりではあるまい。
「仕方無いわよ。フリード星の復興費用すっごく掛かっちゃったんだもの。鉱山の開発権売った位じゃ追いつかなくて、返済の相談に行ったらそのバイト紹介してくれたの。飛び回った航行距離で払ってくれるから、結構グレンだといい時給になるのよ。」
 マリアのあっけらかんとした口調に、甲児の肩の力が抜けて行く。
「でも、お陰でフリードの復興進んでるのよ。来年には、もう食料自給の目処も立ってね。鉱山の開発権売ったから、鉱山開発にどんどん人が来るもんで、建物も建っちゃうし、商売始める人もいるし、道路の整備が追いついてないんで、こないだまでグレンも狩り出して幹線だけは整備し終わったとこなの。で、そっちが終わったら、兄さんに
させる事が無くてさぁ・・・。なら、いっそ借金返済になるような仕事を、と思った訳なのよ。」
 マリアの説明に、甲児は力無く頷くしかなかった。
「そ・・・そうか・・・復興って金がいるんだな・・・。」
「・・・そうなんだよ。フリード復興始めた途端に借金の山になってしまってね。」
 甲児の気が鎮まったと見て、背後から大介が口を挟んできた。
「一体いくら借りたんだよ・・・変な高利貸しから借りたんじゃねーだろなぁ・・・?」
 不意に、不安が頭をよぎり、甲児は心配気な顔で、大介を振り返った。
「大丈夫、大半は親交のあった星からの借款だし、企業誘致で入る税収から返して行く計画なんだ。ただ金額が金額なんで、返済が僕の代で終わりそうになくてね。」
 にこやかに笑う大介の笑顔に、甲児の不安が大きくなる。
「だから・・・いくら借りたんだよ!」
「えーと・・・鉱山開発権売って返した分もあるから、残りは日本円にして・・・・23兆位だったかな?」
 大介のその言葉に、一瞬甲児は目の前が真っ暗になるのを感じた。
「・・・分かった・・・大介さん・・・疑った俺が悪かった。」
「甲児くん・・・分かってくれたんだね。」
 甲児の言葉に、ほっと笑みを浮かべた次の瞬間、大介は操縦席に蹴り込まれていた。
「そんな大借金こさえて、何こんなとこふらふらしてやがんだっ!へらへらしてねぇで、さっさとバイトでもなんでも行きやがれーっっ!!」


「おや・・・月にグレンに良く似たネオンのようなものが・・・そんなに呑んだつもりはなかったが・・・私も年かねぇ。さて、寝るとするか。」
 宇門所長が、窓に背を向けた時、丸い満月にダブルスペイザー の威嚇射撃に追い回されるグレンダイザーの姿が照らし出されていた。

END


 ご感想などいただければ今後の励みに・・・でも、次のキリ番は踏みたくないなぁ。

by管理人・会員番号69こと大介

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