「…報告書一つ打つのに、何台ハードをダメにするつもりだ?」
オスカーは、わざとらしいぐらいのしかめ面を作り、朝から何回目かになる溜息をついた。

「んな事言ったって、壊れちまうもんは しょーがねぇだろ?」
意味の無い文字の羅列を映し出すパソコン画面を前に、事の張本人は開き直りに入ってしまった。

『あの調子で営業されると、何だか買ってあげたくなっちゃうのよ』という秘書課のレイチェルの言葉通り、
こんな子供じみた態度でありながらも営業成績は良いアリオスだが、パソコンとの相性は悪いようだ。


***


「よぉ、あの態度のデカイ新人、またパソコン壊したって? 」
「…ああ」

技術部のゼフェルは優秀だが、口が悪いのが玉にキズだ。
そのサバサバした性格はオスカーの好むところであったのだが…

「何台修理させる気だよ…なんとかしろよ オスカー」
「何で俺に言うんだよ」

「だって オメー、あいつの 【教育係】 だろ?」
「教育係って…」

オスカーは思わず苦笑する。
思い出すのは1ヶ月前の社長室


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「〜でね、今度入ってくる新人の指導をして欲しいのv」
アンジェリーク社長の語尾にハートマークが付いているのは気のせいか…

「…何で俺なんですか?」
営業成績は申し分ないが、まだ新人の部類の自分に新人教育を任せられるのは何故かと、
疑問を口にしたオスカーに返ってきた言葉は耳を疑うものだった。

「だって、二人が並ぶと格好良いんですもの」

ニッコリ笑いながらキッパリと言い放つアンジェリーク社長と、
その後ろで眉間のシワを深くするジュリアス部長とのコントラストは
オスカーの脳裏に鮮明に記憶されている。

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「何やってんだよ」
オスカーの背後から、気配も無くアリオスが現れる。

どうしてこの男は、何気にオスカーの居場所を察知する能力に長けているのだろうか?

「オメーの悪口 言ってるんだよ」
「へー。『男前だ』とか、『頼りになる』とかか?」
「…それのどこが悪口なんだよ」
ほぼ毎日のように技術部に現れるアリオスは、思いの外ゼフェルと仲が良いらしい。

アリオスが技術部を訪れる原因は、パソコンの修理や消えたデータの修復依頼だったりと、
致し方ない理由ではあるが、嫌なところには近付かないというアリオスの性格上、
苦手な機械だらけにも関わらず、技術部の居心地は良いと思っているらしい。
『その半分で良いから、営業部長室に顔を出してもらえないだろうか…』と
オスカーが思っていたとしても、アリオスには知ったこっちゃないのである。

アリオスがジュリアス部長の呼び出しをことごとく回避するお陰で、
オスカーの 【部長室呼出率】 は、うなぎのぼりだ。
ジュリアス部長に憧れている身としては、頻繁に話せるのは嬉しくもあるが、
会話のほとんどがアリオスに対する忠告だった日には、
ジュリアス部長の心労を思い、オスカーも頭を悩ませるのであった。



「アリオス、今日の報告書は作ったのか?」
放っておくと、とんでもない報告書を作り出すアリオスのお陰で、
アリオスの報告書をチェックするのがオスカーの日課になってしまった。

「ほら」
毎回自慢げに繰り出されるアリオスの報告書だが、
なぜか線が斜めだったり、文字が重なっていたりと、1回でOKが出たためしはない。


「………何で手書きなんだよ」
見たとたん脱力してしまった理由を突くと、一緒に報告書を覗き込んでいたゼフェルが叫ぶ。
「また壊しやがったのか?!」
「いや……ちょっと、起動しなくて…」
さすがに気まずいと思っているのか、伏し目がちに呟くアリオスは、可愛げがあるといえなくもない。

だが、このまま提出された時のジュリアス部長の反応を思うと、大目にみてやる訳にもいかないのだ。
オスカーは溜息をつきつつ、アリオスの目前に報告書を突き出す。

「パソコンで作り直し!」

案の定、しかめっ面になったアリオスに付け加える。

「見ててやるから」

その言葉で、パッと表情を変えるアリオスに思わず微笑んでしまう。

言葉は悪いが、『懐かれている』 というような感覚は、オスカーを嬉しくさせていた。
結局、どんなに手がかかっても、オスカーはアリオスを放ってはおけないのだ。


***


『生まれ持っての相性が悪いに違いない』
オスカーが確信せざるを得ない程に、アリオスの報告書作成は困難を極めた。

フリーズの嵐。突然動かなくなるマウス。
なぜかプリンターとのネットワークがうまく繋がらない。
出来上がったと思った瞬間、システムダウン…etc

ようやくOKが出せる報告書が出来あがった頃には、辺りは真っ暗になっていた。

「飲みにでも行かないか?」
そんな言葉が出たのは、オスカーも疲れていたからに違いない。


「俺の知ってる店で良いか?」
そういったアリオスが案内したのは小さな居酒屋だった。

『仕事で行くようなお上品な店では落ち着いて飲めねぇよ』
というアリオスの言葉通り、いかにも庶民的な居酒屋は、
騒がしいながらも居心地の良い雰囲気があり、
今までの酒の席で見せたことのないようなリラックスした様子のアリオスにオスカーも肩の力を抜く。


「そういえば、二人で飲む事ってなかったな」
アリオスの入社以来、ずっと一緒に居た割に、機会がなかったなぁ…とオスカーが言うと、

「いつも、あんたの隣で部長がこーんな顔してたからな」
と、アリオスは片眉を上げて、目を吊り上らせる。

「お前って、ジュリアス部長の事、ほんっと嫌いだよな」
「しょうがねぇだろう。人の顔を見るたびに小言を言うんだぜ」
そういうアリオスにオスカーは『言いたくなるような事をしているからでは?』と心の中で突っ込み、
ジュリアス部長の信頼回復(?)の為に一肌脱ぐ事にする。


「お前はそういうけど、ジュリアス部長は凄いんだぞ」
「どう凄いんだよ?」

「入社以来 あっという間に実績を上げ、最年少・最短で部長職に就任したんだ」
「他にすることなかったんじゃねぇの?」

「それに、部員の仕事も完璧に把握していて、的確にアドバイスしてくれるんだ」
「単に口うるさいだけだろ」
褒め言葉をことごとく打ち消していくアリオスに、オスカーは溜息をつく。

「何でそんなに嫌うんだよ。 ジュリアス部長は素晴らしい人だぞ」
「それが 気にいらねぇんだよ!」

だんだんと機嫌が悪くなっていたアリオスは、とうとう声を荒げだした。
「だいたいお前、何でも部長の言いなりじゃねぇか」

「………そ、そんなことはないぞ」
アリオスの指摘に強く言い切れないオスカーではあったが、とりあえず反論してみる。

「それに、いつも 部長・部長って、あいつの話ばかりだし」
「うっ」

そんなにジュリアス部長の話ばかりしていたのだろうか、
いや、でも、アリオスがそういうのなら、そうなのかもしれない…
そんな事をぐるぐる考えていたオスカーは、もうアリオスの言う事を聞いていなかった。


「〜〜〜!〜〜〜! …聞いてるのかよ?」
「…あ?」
何かを主張していたアリオスなのだが、対するオスカーが聞いていないのでは致し方ない。


…continues…


アリオス役立たず方面で…