僕はいつも空を見上げていた。
大きな空。何も、何も遮る物の無い青い空間。
遥か遠くまで何も無い、どこまで続いているのかもわからない世界。
僕はいつも空を見上げていた。
大きな空。何も、何も遮る物の無い青い空間。
遥か遠くまで何も無い、どこまで続いているのかもわからない世界。
僕はこの景色が好きだった。どこまでもずっと行けそうな、でもそこには全く踏み込むことの出来ない世界。僕はいつも空を見上げていた。
隔離されたこの空間の中で、唯一自由を感じられるところ。それがここだった。
周り中を木に囲まれて、誰も訪れず、誰も出て行く事のないこの狭い「村」の中で、僕がただ一つ与えられた自由は、この空間を定める為に仕切られた、ちっぽけな木の柵に凭れて木に囲まれた遠い、遠い大きな空間―空―を仰ぎ見ることだけ。
それでも僕はこの景色が好きだった。大きく青いその空間を眺め、想像の翼を大きくはばたかせてあの自由な空を、自由に舞う。それが僕の自由だった。
それはどれほど素敵な事だろう。僕はそうやって心の中で自由に空を舞うたびに、その歓喜に心を打ち震わせた。
―それでいいのか?―
僕ははっとして凭れていた柵から身を起こした。慌てて辺りを見回しても、周りには人影は無い。当たり前だ。僕は誰の目にもつかない場所としてここをやっとの事で見つけ出したんだから。誰の干渉も受けない、ほんの少しの、僅かな僅かな僕の自由。それがここなんだから。
僕は慌てて背中についた木屑を払ってそっと辺りを見回した。
大丈夫。誰もいない。誰も僕のこの場所を侵す事なんて無い。
だって、ここは僕の「自由」なんだから。
ほんの少しの、僅かな僅かな自由。
隔離された空間の、隔離された僕の、たった一つの残された自由。
僕はもう一度空を見上げると、家へ向かって歩き出した。
空は果てしなく青かった。
私はいつも空を見上げていた。
何時からだろう。ずっとずっと、自分の自由になる時間が与えられたらこうやって空を眺めていた。
大きな、大きな空。真っ青な、何一つ汚れのない澄み渡った世界。
私はこの景色が好きだった。どんなに辛い事があっても、どんなに自分が汚れてしまっても、そうやって空を眺めていると自分が癒されて、綺麗になっていくような気がした。
隔離されたこの空間の中で、唯一私を癒してくれるところ。それがあの澄んだ空だった。
狭い部屋に押し込められて、毎日沢山の人がやってきて、私を汚してまた去っていく。こんな大きな「街」の中で、私が一人で生きていく術は他には無かった。だから、こんな狭い部屋の中で、この空間を仕切る唯一の外との接点―窓―を通して、人がいなくなった暗い街並みの向こう、ずっと広がる星空を眺めるのが私の自由だった。
それでも、そんな小さな幸せでも、私はこの景色が好きだった。大きく暗いその空間を眺め、何をも汚さず何にも汚されない空に癒される。それが私の自由だった。
それはどれほど素敵な事だろう。私はそうやって心の中を空で満たす度に、その歓喜に心を打ち震わせた。
―それでいいのか?―
私ははっとして肘をついていた窓から身を離した。こんなところを見られたら、逃げ出そうとしたと思われるに決まっている。彼らは、私が逃げてもどうしようもない事を知っていて、それでいてそれを理由にまた私を責めるのだ。
でも、部屋にも街にも人影は無い。当たり前だ。私は誰の目にもつかない時間としてこの時をやっとの事で見つけ出したんだもの。誰の干渉も受けない、ほんの少しの、僅かな僅かな私の癒し。それが今なんだから。
私はゆっくりとため息をつくと街並みを見下ろした。
大丈夫。誰もいない。誰も私のこの時間を侵す事なんて無い。
だって、ここは私の「自由」なんだから。
ほんの少しの、僅かな僅かな自由。
隔離された空間の、隔離された私の、たった一つの残された自由。
私はもう一度空を見上げると、ゆっくりと窓を閉めてベッドに入った。
空は果てしなく澄んでいた。
そろそろ、潮時だな。
そろそろ刈り入れ時だ。
その為に準備をしよう。
その為に行動しよう。
次の朝、僕が目を覚ますと村の中が騒がしくなっていた。僕が慌てて家の外に出てみると、黒い服を着た背の高い人が、村の人と言い争っていた。
僕は初めてそんな人を見た。男のようにも、女のようにも見えた。綺麗な顔をして、でも何の表情も無い人だった。
ふと、その人が僕の方を見た。
―それでいいのか?―
僕ははっとしてその時に気づいた。この人だ。この人が僕を、僕を迎えに来た。
―私は迎えに来た―
僕はゆっくりと目を閉じた。そして、大きく腕を広げて自分が空に吸い込まれ、その中を自由に飛んでいる姿を思い描いた。
す、と体が軽くなった。
ゆっくりと僕は翼を羽ばたかせ、空へと吸い込まれた。
次の朝、私が目を覚ますと部屋の外が騒がしくなっていた。私が慌てて聞き耳を立ててみると、静かな声をした人が、女衒と言い争っていた。
私は初めてそんな声を聞いた。男のようにも、女のようにも聞こえた。透き通った声をして、でも何の表情も無い声だった。
ふと、その声が私に語りかけた。
―それでいいのか?―
私ははっとしてその時に気づいた。この人だ。この人が私を、私を迎えに来た。
―僕は迎えに来た―
私はゆっくりと目を閉じた。そして、大きく腕を広げて自分が空に吸い込まれ、その中で空と一つになって癒されてゆく夢を見た。
す、と体が軽くなった。
ゆっくりと私は空に吸い込まれ、癒された。
人には自由が必要だ。
人には癒しが必要だ。
人は誰しも世界に隔離され、そこからの脱出を望む。
人は誰しも世界に隔離され、他との合一を望む。
だから与えよう。望むものを。
それは自由だ。それは癒しだ。
他人から見て彼らが姿を失って世界から消えようとも、それは自由であり癒しだ。
だから与えよう。
君の望むものを。