●プライド●  
 

   
 「ふんっ、勝手にしなさいよ!」 
  折角人が、心配してあげてるのに!! 
  べーっ、とあかんべのおまけ迄付けて、カスミが憤然と去って行く。 
  ―――悪いな、カスミ 
  でも、俺は、自分で育てたポケモンで、タケシに勝ちたいんだ。 
  人の助けを借りて勝ったって、何にもならないからな。 
  胸の内だけで呟き、再びきっと前を見据える。 
  それは、プライドでも何でもない、目指すポケモンマスターになる為には、最低限必要な心構えだ。 
  カスミに借りたポケモンで勝っても、それは飽くまでカスミの力。 
  勿論、ポケモンマスターの能力には、ポケモンを育てる能力だけでなく、使う為の、所謂判断力も含まれるから、百歩譲って何分の一かは、自分の力だと見なされるのかもしれない。 
  けれど、だからと言って、そんな事ばかりしていては、何時迄経っても自分は成長出来はしない。 
  実力以上の名前を手にしても、何時かは手痛いしっぺ返しを食らう事になるのは解っている。 
  第一、そんな実の伴わぬ名声等に、自分が納得出来る筈もなかった。 
  第三者の評価を如何こう言う以前に、己が己を認められなければ何にもならない。 
  誰もが認めるトレーナー、との総称には、当然、自身の評価をも含まれるのだから。 
  若しかしたら、自分が欲しいのは、『世界一のトレーナー』等と言う、世間の評価ではないのかもしれない。 
  単に、自身が求めていた理想の像に近付く事が出来たのだと、己を納得させるだけの力が、その呼称をにはあっただけで。 
  ピ――カ――っ!! 
  水車の回転が速くなり、起こる電力が大きくなっていくに連れて、中から聞こえて来るピカチュウの悲鳴が次第次第に大きくなる。 
  『可愛い盛りだな、止めておけ』 
  あの時のタケシの言葉の意味が、今なら理解る。 
  強くなるには鍛えるしかない。 
  けれどそれは、大切に思っている者達に、少なからず、辛い思いをさせねばならないと言う事で。 
  ―――頑張ろうぜ、ピカチュウ 
  俺達、二人、一緒にな。 
  トレーナーを目指す者達が、先ず越えねばならないのは、恐らくこの壁なのだろう。 
  自分の目的を達する為に、ポケモン達を、無理に苦しめて良いのか、と。 
  それは、聞く者が聞けば、単なる詭弁にしか聞こえない疑問なのかもしれない。 
  サトシ自身、自由に生きているポケモン達を捕まえ、自分のペットとして、あるいは手足として使う事を生業とする、ポケモントレーナーの一人であるのだから。 
  けれど、この疑問が湧き出でる事こそが、トレーナーに最も必要な事の様にも思えて。 
  ―――俺も、頑張る。 
  だから、ピカチュウも頑張ってくれ。 
  お前にだけ、辛い思いをさせるなんて事、絶対にしないからな。 
  それは、ポケモンを使って生きている自分達の、自己満足でしかないのかもしれない。 
  それでも、彼らが好きで、一緒に生きていきたいと願うこの気持ちに、偽りはないから。 
  ―――一緒に頑張って、勝とうな、あいつに 
  許容量以上の電気を浴びて、悲鳴をあげるピカチュウの苦しそうな声を、噛み締めるかの様に一瞬だけ瞼を閉じる。 
  やがて、振り切る様にと貌を上げると、サトシは、踏み込む足に、更にぐっと力を込めていた。 

                                                                                                                    END