| トゥルルル、トゥルルル。 『はい、小早川&辻本です。二人は只今外出しております。ピーと鳴りましたら貴 方のお名前とメッセージを必ず入れておいて下さい』 コールが繰返されると、自動的にテープが起動し、明朗な声が流れ出す。 ブラインドを下ろし、明かりも点けぬ暗い室内の中、けれど、今は耳にする事の適わぬ明るい声を、エンドレスで回しながら、美幸は夏実のベッドに蹲り、自分の手の届かぬ場所に行ってしまった大切な人に、じっと想いを馳せていた。 『行くよ、私』 どんなに居心地が良くても、ずっと此の侭ではいられないよね。 きっぱりとした口調で言い切ったその瞳には、一年前、白バイ隊への推薦を受けた時の様な迷いは、欠片ほども見られない。 踵を返し、振り返りもせず鉄扉の向こうへ姿を消したその背中からは、決意の程が伺えて。 理解っていた。 何時か二度、こういう日がやって来る事が。 けれど、それはこんな唐突に、それも夏実自身の選択で訪れるとは思っても見なかった。 あの時、美幸は木下が現れた時に感じた漠然とした不安が、現実のものとなった事を感じたのだ。 それは、一年前、その身を以って味わったものと同様の。 ――――心がすーすーするよ、夏実… 自分の中の大切な部分が、ぽっかりと抜け落ちてしまったかの様な喪失感。 改めて思い知らされたのは、自分の中における、彼女の存在の大きさだ。 誰に言われる迄もなく、自覚している。 恐らく、何を持って来ても、誰を連れてきても、彼女以外、この穴を埋める事は出来ないのだろう。 けれど、夏実は…。 ふと思う。 夏実にとって、自分は如何言う存在なのだろう。 つい最近まで確かに理解っていた筈の答が、急に不安に思えてくる。 それは、あの時どうしても尋きたくて、けれど、どうしても口にする事の出来なかった言葉だった。 「夏実…」 小さく湿った呟きをよそに、夏実の明るい声だけが、闇に沈んだ室内の中、何時迄も響き続けていた。 「御免ね、今まで放っておいて」 仕事が引けて訪れたガレージで、静かに救いを待っていた愛車に、やさしげな声で囁き掛ける。 此処にやって来たのは本当に久し振りだ。 夏実の思い出が、何処よりも詰まったこの場所に足を踏み入れる事が怖くて、此れ迄敢えて避け続けてきたのだ。 けれど、あの時。 キン、とバットの芯にボールが当たったあの瞬間、美幸の中で何かが弾けた。 自分には出来ないと思い込んでいた事が、偶然であったとはいえ、出来てしまったあの時に。 此れ迄、夏実の範囲だと思い込んできた数多くの事柄の中に、自分がきちんと取り組んできたものがどれだけあったろう。 正反対の人間と、余りにも長い間一緒にいすぎた所為か、此処からこっちが自分の範囲、と何時の間にか自分の力を限定してしまっていた。 若しかしたら、そうして無意識の内に可能性を否定してしまったものの中にも、美幸の力を引き上げる事が出来るものが、あったかもしれないというのに。 そして、気付いたのだ。 だからこそ夏実は、自身と、そして美幸とを突き放したのかもしれないと。 己をもう一度見詰め直す為に。 そして、美幸にもまた見詰め直させる為に。 同性である以上、頼り合うばかりでは、何時か、その関係は崩れていく。 ずっと一緒に居たいのなら、互いに高め合える関係でなければならないと。 落ち込んでばかりいた自分が、酷く恥ずかしくなる。 『どんなに居心地が良くても、ずっとこの侭ではいられないよね』 確かに夏実は、そうメッセージを残してくれていた筈なのに。 あの瞬間の、少しばかり切なげな夏実の笑顔は、瞼の奥に焼き付いている。 ――――夏実… ゆっくりと瞼を開けると、先ずは被害の状況を確認する為に、クリップボードを片手にサイドに膝をついて。 傷やへこみ、破損した部品等、一点一点チェックしていく。 久し振りに本来の集中力を発揮した美幸は、だから、時間の経過を気に留めもしなかった。 そっと様子を見に来た人物に、意識を現実に引き戻されるまでは。 「美幸さん」 聞き慣れた声に名前を呼ばれ、肩越しに背後を振り返る。 お盆とポットを下げた葵が、半下ろしになった入口のシャッター近くに佇んでいて。 「葵ちゃん」 「少し休憩なさいませんか?」 夜食、御持ちしたんですけど。 「有り難う」 そういえば、御腹も空いたような気がする。 作業台の片隅に盆を置き、こぽこぽとお茶を煎れ始めた葵に大きく頷くと、埃と油で黒くなった軍手を外す。 はい、と手渡された熱いほうじ茶の香ばしい香りに、自然、頬が綻んだ。 「おいしい…」 素直な感想に煎れた葵が小さく微笑む。 勧められる侭、多少手が汚れていても大丈夫な様にと、個別にラップで包んであったおむすびを頬張りながら、二人は並んで見るともなしにTodayを見詰めていた。 穏やかな沈黙が二人を包む。 けれど、その帳を優しく引き開いたのは、葵の方だった。 「Today…」 「え?」 「直るんですね、Today…」 「うん…」 何を言おうとしているのかは、直に理解った。 彼女もまた、自分と中嶋の会話を聞いていた一人なのだろう。 『Todayは直せないわ』 直さないのか、と中嶋に問われ、感情的に言い放った自分。 無線での会話だったのだから、回線を開いている人間全てに聞かれている事は理解っていた。 それでもあの時は、誰に聞かれようとも構わずに、自分の胸の内を吐き出してしまいたかったのだ。 今にして思う。 あの時の自分は、本当に何も理解っていなかったのだと。 自分の為に突き放した夏実の心も、黙って自分を見守ってくれていた、周囲の人間達の気持ちも。 「余りに一緒に居るのが当り前で、互いの気持ちも理解り過ぎて、何時の間にか 私、夏実も自分の一部の様に思い込んでた」 まだ、私に必要なパーツがどれなのかは判らないけど…でも。 捜してみるわ、私だけのパーツを。 「良かった…」 にこりと艶やかに微笑まれて、思わずとくりと美幸の胸が跳ねる。 この人の、こんな表情を見ていると、異性だという事実の方が、まるで嘘の様に思えてしまって。 高鳴り続ける鼓動をどうにか誤魔化そうと、美幸は慌てて質問を返していた。 「よ、良かったって…何が?」 Todayの事か、それとも自分が立ち直れた事か、あるいはその両方か。 けれど、問には直接答えず、葵は息を一つ吐き出して。 「此処を去る時、言ってたんです、夏実さんが」 「夏実が?」 突然出された名前に戸惑って、小首を傾げる。 こくりと一つ頷いてみせると、葵はゆっくりと語り出した。 黙っていても、離れなければない時は何れ来る。 なのに、何故今態々、自らコンビを解消して、墨東署を出なければならないのか、と頼子が夏実に詰め寄った事を。 そして、それに対する夏実の回答を。 『離れたくないのは、私も同じだよ』 『だったら…』 『そういう訳にはいかないんだ』 だって、理解っちゃったんだもの。 この侭ずっと一緒に居ても、私は、私達はきっと今以上にはなれないって。 『夏実…』 『どんなに望んだって、一生此の侭ではいられない』 だったら前に進むしかないでしょ? それには多分、私達は一度離れて、自覚しなきゃならないんだ。 私達は、偶然型が巧く嵌まった…別個の存在だって事を。 御互い成長して、そして美幸が許してくれるなら…その時は、また、改めて美幸とコンビを組みたい。 「夏実が…そんな事を…」 全てを聴き終え、ぽつりと美幸が呟く。 それは、明らかな夏実の変化だ。 この一連の事件が、いや、木下の存在が眼の前に現れてから、ほんの短い間に起きた。 「夏実さんは、美幸さんには絶対に言うな、って念を押して行かれましたけどね」 葵の声を遠くに聞きながら、再び、今度は別種の不安が擡げてくる。 成長する為に、美幸の元を離れ、木下の元へと行ったという事。 それは、彼女の下でなら、自分は成長できるのだと夏実が確信したからなのだろう。 『君のパートナーは私が務める』 考えてみれば、初めて出会った時から、木下は夏実に好意的だった。 明るくて職場の人気者で、けれど、トラブルメーカーの夏実は、どちらかというと上司にとっては頭の痛い存在だ。 巧く使えば力強い味方だが、下手をすれば却って被害が拡大する。 此れ迄、一部の例外を除いては、地位の高い者ほど、夏実を嫌がる傾向が強かった。 それはそうだろう。 誰だって、リスクは極力背負いたくない。 けれど、木下は始めから違っていた。 何処か期待する瞳で、その力を確めたいとでも言うように、パートナーを買って出た。 文句を言い続ける夏実を宥めはしたものの、内心、美幸は不安でいっぱいだったのだ。 そして、その不安は、ついに現実のものとなってしまって…。 「あら、いけない」 私、仕事に戻りますね。 時計の示す時間に気付いた葵が、不意に椅子から立ち上がる。 「うん。どうもありがと、葵ちゃん」 空になった盆だけを抱え、慌てて戻っていく葵に礼を言って見送ると、ガラガラとシャッターを引き下ろす。 明るく、手まで振ってみせてた自分を、心の中で嘲笑して。 気付いてしまったその事実に、美幸は、暫しの間、Todayの拉げたボディを凝視しながら、身動ぎすら取れなくなっていた。 「なーに、うだうだやってんのよ!」 最初は、空耳かと思った。 何時でも連絡は取れたけれど、堂々と顔を合わせる事が出来るようになるまでは、と敢えて自分に許して来なかったそれ。 けれど、本当は聞きたくて聞きたくてどうしようもなかった事は、自分自身が一番良く知っている。 「夏実…」 事件半ばでパートナーを欠いた美幸の為に、本庁から一人寄越すとは聞かされた時、若しかしたら、と思いはした。 けれど、まさか本当にそれが実現するとは、思ってもみなくて。 「早く配置に就きなさい、作戦参謀さん」 にこりと笑って片目を瞑ってみせた夏実の、余りの変わらなさに、じわりと視界が涙に滲む。 何があったのか、総てを察した瞳で大きく頷くと、ぽんと肩に手を乗せて。 「Todayは?」 「ガレージ」 「そう、じゃ、急ぐよ」 葵と合流する為、地下駐車場へと走り去る頼子に、またね、と手を振ると、足早にガレージのある裏手へ回る。 ゆっくりと上がるシャッターの向こうに、徐々に白く光る車体が現れた。 「なーんだ、直ってるじゃない」 派手に壊したって聞いたけど。 「未だパーツは捜してる途中なんだけどね」 屈託のない夏実の声に、矢張り知っていたのかと苦笑する。 夏実が転属した後、敢えて美幸は連絡を取り合おうとはしなかった。 けれど、自分を案じてくれていた夏実の気持ちが、今は素直に嬉しくて。 「言っとくけど、私、パーツの穴埋めに来たんじゃないからね」 以前通りの他愛のない遣り取りの後、急に真面目な表情になって、真っ直ぐに夏実が視線を合わせてくる。 確めるように宣言した夏実に、中嶋との会話までが伝わっているらしい事に驚きながら、理解っていると大きく頷く。 もう、間違えない。 自分と夏実は別々の人間で、だから、自分達は、決して互いのパーツではありえないのだ。 そして恐らく、一生、自身のパーツを捜し続けるのであろう。 先ずは認める事。 それがスタートラインに立つ事を意味するのだ。 「行くよ、夏実」 「了解」 直したばかりのTodayにその身を滑り込ませ、シートベルトを確認する。 クラッチを踏み込み、キーを回すと、アクセルを踏んで回転数を上げて。 朝の日差しを跳ね返しながら、ゆっくりとガレージを出ると美幸は次第にスピードを上げ始めていた。 バラバラと、身体全体にプロペラの振動が響いてくる。 闇の中を、只管南西に向かって跳び続けるヘリコプターの中で、木下は、この追跡劇の取り敢えずの結果と、そして、決着を付けた二人の無謀とも言える行動について考え続けていた。 『私達は交通課の警察官です』 他の一般車輌を危険に晒してきた暴走車を、止めない訳には参りません。 『以上通信終り』 絶妙とも言えるタイミングで、ぷつりと音を立てて切れた無線。 あの瞬間、理解した。 冷静沈着なだけの人間ではないからこそ、夏実とあれだけ息が合っていられたのだと。 総てを計算し尽くし、冷静に物事を進めるタイプだと思っていた美幸は、唯それだけではなく、夏実と同様の烈しい一面を持っている。 そして、それは逆に熱くなり過ぎた夏実を冷静にさせて。 墨東署に派遣される事が決まった時、蟻塚に呼ばれて渡されたのは、主な面々の個人データと、彼等が関わってきた事件の詳細だ。 『先ずは此れを見て、策を練ってみてくれたまえ』 掛けられた言葉に無言で敬礼を返した木下は、その言葉通り、直ぐ様作戦を立案し、上司を通して提出した。 上司を一発で頷かせたそれに眼を通した蟻塚は、しかし、意味ありげな笑みを浮かべただけで。 『宜しい。先ずはやってみる事だ』 あの時の笑みの意味が、今なら何となく理解る。 データだけから計り切れぬ力、安全確実なもののみからは決して生まれない何かを、この事件を通して学んでこいといったのだ。 規律や形式を遵守させる事を主な仕事にしていた彼が、何時しか、規格外のものをも柔軟に認めるようになっていたのは気付いていた。 それを認めさせたのが、他ならぬ墨東署交通課の面々―――特にあの二人だったとは、その時は知りもしなかったけれど。 『君のパートナーは私が務める』 不満かな? あの二人に別々の任を与えたのは、データから弾き出した適性に夫々合わせたつもりだった。 美幸の参謀としての秀でた力は、此れ迄の事件からも明らかだった上、夏実にしても、その並桁外れた腕力や、いっそ呆れる位の思い切りのよさは、いざという時ほどより力を発揮すると理解っていたので。 そして、その作戦の正しさは、最初に犯人を追い詰めたあの時に、見事な位に証明されたのだけれど。 『危ない!』 あの時、突っ込んで来る車を、身を護るボディなど何もない二輪、それもモトコンポで止めようとしたあの瞬間。 思ったのだ。 自分にはない、そして、これからも決して得られぬだろうその力。 コンビを組めれば、どれだけ良い仕事が出来るだろうか、と。 勿論、中には、あんなトラブルメーカーを好き好んで手元に引き取るとは、何と物好きな、と眉を顰めるものもいたが、取り敢えず、短期の約束で自分の元にやってきた夏実の、思っていた以上の飲み込みのよさに感心し、自分の目に狂いはなかったと満足していた。 夏実と美幸、二人揃った時の、計算だけでは計り切れぬ、その力を目の当たりにするまでは。 今なら理解る。 引き出したと思った夏実の力は、恐らく、極々一部のものに過ぎなかったのだ。 美幸も、そして夏実も、一人でいる時と二人でいる時とでは、まるで別人の様に思える。 美幸の的確な判断力が夏実に方向性を示し、夏実の気性が美幸の秘められた激しさを引き摺り出す。 そして、その美幸の熱い気持ちが、更に夏実を刺激して。 ――――今の私では、役不足だな… あの夏実の力を120%引き出せるようになるには、まだまだ力が必要だ。 口許に小さく笑みを浮かべると、ほう、とひとつ息を吐く。 耳を劈く喧しいプロペラの音に、今だけは感謝して、木下はそっと瞼を閉じていた。 空が、高かった。 白み始めた空には、徐々に太陽が昇り、署まで戻って来て数時間経った今では、すっかりと陽が昇っている。 それでも、通常の生活を営む人間達にとっては、未だ早い時間なのだろう。 屋上から見える街並みからは、活動を開始する前特有の、心地良い慌ただしさが伝わって来て。 ――――良い天気… 雲一つない空に視線を移して、そっと呟く。 夏実とあの時眺めたこの光景を、こんなに晴れ晴れとした心地で眺める事が出来る日が来るなんて、思ってもみなかった。 数時間前。 『夏実』 『ん?』 警官に挟まれ、連れられていく犯人達の背中を見送りながら、意を決して傍らに立つ大切な人に視線を流した。 気付いた夏実のくるりとした大きな瞳に先を促され、美幸は躊躇いがちに唇を開いて。 『有り難う』 貴女と逢えて、本当に良かった。 普段なら照れ臭くてとても口に出来ない、それは、心からの美幸の気持ちだ。 彼女と巡り合わせてくれた、総てのものに感謝する。 これだけは判っているのだ。 夏実がいなければ、今の自分がこんなに輝いていられたか分からない。 そして、彼女との出会いがなければ、恐らく、今の自分はなかっただろうということも。 『こっちこそ』 どうもありがと。 『また一緒に…やれるよね』 晴れ晴れとした表情で、屈託なく返した夏実に、心からの願いを伝える。 何時かまた、貴女と、もう一度組みたい、と。 けれど、同意を示す代わりに、夏実は悪戯っ子めいた笑みを浮かべて。 『この事件が終ったら…また、当分、墨東署交通課って事で、話は決まってんの』 え?と首を傾げた美幸に、面映ゆげに夏実が微笑む。 それはつまり、最初からそういう約束で、夏実は向こうに行っていたという事で…。 ――――全く、夏実ったら 嵌められたという思いは、まるでなかった。 思い起して、くすくすと笑い続けていた美幸は、けれど、直ぐに背後の気配に気がついて、慌てて笑みを引っ込めて。 「遅くなって済まない」 「いいえ、こちらこそ、御呼び立てして申し訳ありませんでした」 「構わない。丁度私も、君と話したい事があった」 重い鉄扉を押し開けて、ゆったりとした足取りでやって来た木下が、傍ら迄来るのを待ってから、再度改めて謝罪する。 「何を謝る?」 「二度も命令を無視しましたから」 「君は、自分が誤った事をしたと思っているのか?」 尋ねられて、きっぱりと首を横に振る。 何度同じ選択を迫られても、自分は同じ道を選ぶだろう。 「いいえ。でも、違反は違反ですから」 結果が良くても、全てが許される訳ではありません。 真面目な口調が、反対におかしかったのだろうか。 くっくっと喉の奥で、木下に笑われて美幸は困ったように視線を彷徨わせていた。 「…その様子では、辻本から話を聞いたようだな」 やがて。 笑いを納めた木下にずばりと本題に切り込まれて、見抜かれている事に、頬を赤らめる。 けれど、話しのきっかけを与えれて、却ってほっとした美幸は、素直にその話題転換へと乗っていた。 「はい…でも、どうしてこんな短い期間にしたんですか?」 警部補は、本気で夏実を欲しがっていたようでしたのに。 「本気だったからよ」 「え?」 「本気だったから、私と組んでどの位の力を出すか知りたかった」 これ以上ないと評判の、君達のコンビを解消させてまで、引き抜くんだ。 私達の方が劣るのならば、その意味はあるまい。 自分と組んだ後、もう一度美幸と組ませたのは、その眼で二人の力を確めたかったからだ、と 淡々と告げる木下に、彼女が決して夏実を諦めた訳ではない事を悟る。 けれど、美幸の心配を悟ったのだろう木下は、心配ないと首を振って。 「出来れば次の移動の時期にでも、と思っていたのだがね」 残念ながら、今の私では力不足のようだ。 君とのコンビには、未だ敵いそうにない。 「……っ」 あからさまにほっとした様子の美幸に、少しばかり目を細める。 最も、一言付け加える事は忘れはしなかったけれど。 「だが、諦めた訳ではない」 何れ辻本は、私の部下に貰うつもりだ。 「夏実は渡しません」 今回の件を通して、夏実は私に教えてくれました。 互いに高めあえる関係にならなければ、何時か私達は駄目になると。 直には無理かも知れませんが…いずれ、必ずそうなってみせます。 全てを吹っ切ったかのような、きっぱりとした美幸の宣言に、木下がふっと口許に笑みを浮かべる。 「楽しみにしている」 それは、無謀とも言える美幸の挑戦を、真っ向から受けたという事で。 ――――約束するよ、夏実 何時か、離れなければならない時が来るのは判ってる。 それでも。 二度と貴女が、自ら終わりの幕を引かなければならなくても良い様に。 そろそろ本庁に戻らねばならないと、去って行く木下の背中を見送って、柵に寄り掛かりながら天を仰ぐ。 真青な空には、雲一つ存在していなかった。 END |