| Scene11
「問題は」 これから、如何行動するかだが。 尋いた方も尋かれた方も、けれど、言う程には選択肢がない事は、口にせずとも理解っていた。 正確には二つ。 即ち、この侭火の粉を振り払うに止めるか、もしくは火の元を消しに出るか。 トロワとしては、そんな事よりも何よりも、カトルを病院にでも押し込んでしまいたい所だったが、この状況では、そういう訳にもいかないだろう。 もう、時間が無いのだ。 ヌサール家にしても、バルク家にしても、恐らく手段は選ばない。 これからの富と地位とが掛かっているのだ、少々手荒な真似も辞さないだろう。 抹殺を目的とするバルク家は、危険は式の前に消しておきたい所だろうし、ヌサール家の方は、式の行われるコロニーにまで移動する時間を考慮する必要がある。 起こり得る騒ぎを考えて、多少の事では外には漏れないこのコロニーを選択したのではあろうが、L4の外れに位置する此処からでは、この二、三日じゅうに蹴りを付けなければ間に合わないのだ。 両家に違いがあるとすれば、万一タイムリミットを過ぎたとしても、バルク家の方は、万一を考慮して刺客を送り続けるだろう事だけで。 人間として扱われてこなかったとはいえ、カトルは、前当主の正当な血を受け継ぐ人間だ。 加えて、影としての責務をきちんと務められる様にと、ずっと跡取りである兄と同等の教育を受けている。 況して、カトルには当主としてやっていけるだけの、人を引き付ける力とそれに見合った能力が備わっていた。 ある意味で、バルク家当主ハーリッドは、長老団の中でも最もカトルの力を認めていたのかもしれない。 だが、それは、彼にとっては邪魔なものでしかないのだ。 例え下野したとしても、下手に生きていてもらっては、何時か困る時が来るかもしれない。 彼の存在そのものが、マスコミにでも知れればウィナーにとっては大きな打撃となる。 また、カトルを擁して後見人となり、権力を握ろうと考える者が出るかもしれない。 何より恐ろしいのが、アイーシャを始めとする姉妹達が、全員が全員、カトルを酷く評価しているという事だ。 彼女達全員が、カトルを当主に据えると本気で言い出せば、反対しきる事は難しい。 今回、アイーシャが跡を継ぐ事にはなっているが、何時、カトルに譲ると言い出すか知れない。 何れにしても、ハーリッドにとっては、面白くない未来に繋がる。 ならば、そうならない内に、殺してしまえば良い、と。 どちらにしてもそれらは、火元そのものを消してしまわねば、カトルは一生追われ続ける事を意味していて。 「……」 黙り込んでしまったカトルを、けれど、トロワは敢えて急かそうとはしなかった。 無理もない。 幾ら関わりを絶とうとしても、己の生ある限り、放っておいてはくれないだろう事が、はっきりとしてしまったのだ。 カトルにも、既に判ってはいるのだろう。 関係のない人間をこれ以上巻き込まぬようにする為には、そして、カトル自身が狙われぬ様にする為には、逃げ回るばかりでは駄目なのだという事が。 ただ、決心がつきかねているだけで。 「…トロワ」 「何だ」 永い永い沈黙の後。 漸くに唇を開いたカトルに、意識して優しく応へを返す。 ゆるりと上げたその表情には、何の感情も浮かんではいなかったが、張り詰めた声が、彼の決意を物語っていた。 「ヒイロが、ウィナーに潜入してるって言ってたよね」 「ああ」 「それはプリベンダーとして?それとも、個人的になのかな」 「当初は個人的なものだった」 だが、最下層居住区の件は二人ではどうしようもなかった。 皆までは言わないが、つまりは、その件が出た時点で、プリベンダーとして報告せざるを得なかったという事だ。 各コロニー同時多発の事件である以上、致し方のない事ではあったけれど。 「…そう」 聞いているのかいないのか、ふわりと声が空に舞う。 宙を見据えるその瞳が、実は、何をも映していない事が、彼が今、猛烈な勢いで何事かを考えている事を示している。 けれど、カトルが、そういった様子を見せていたのは、極く短い間だけで。 「トロワ、ヒイロに連絡をとってくれるかな」 どうしても、彼に、頼みたい事があるんだ。 「判った」 予想していた言葉に短く返すと、直ぐ様背後のコンピュータに取り付く。 けれど、次に出された要求は、些か意外に思われて、トロワは思わずその手を止めてしまっていた。 てっきりこの件は、身内のみで処理するつもりなかと思っていたので。 「それから、プリベンダーの責任者、レディ・アンの直通コードを教え て欲しい」 彼女にも協力を仰ぎたい。 「…一体、何をする気だ?」 出された当然の質問に、真っ直ぐに見返してくる地球色の瞳は、驚く程に澄んでいた。 「ウィナーから二つの家を、僕の存在と共に葬り去る」
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