瞬きの見える場所で
今でもあなたの夢を見る
愛している――
最後にその言葉を聞いたのは
いつだったろう
プロローグ―現在
書類に瞳を落としていたジュリアスは、机の上に流れる自分の金の髪が、微かに揺れるのを見つけた。
「風が出てきたな・・」
そう呟いて立ち上がると、中庭に向けて開けられていた窓を閉めようと、取っ手に手をかけた。
静かだ――鳥の声も人の声も何も聞こえない、聞こえるのは、微かな風に葉の触れ合う音だけ。
聖地の夜はこんなに静かだったのか、ジュリアスはそう思ってから、天を見上げた。漆黒の空には、昨日と変わらず、美しい光を放つ多くの星がある。
長い間、それを守るためだけに時を送ってきた、そしてたしかに守りきった星々のその多くの星を、そこに住む多くの者たちのことをジュリアスは知らない。ただ、その存在を守ることだけが、自分の使命だと思ってきたから。
守護聖として生きてきたことに悔いなどはない。けれど、こんな静かな夜は、宇宙の中でたったひとり、ここに立っているような気がして。指の隙間を零れ落ちていった、苦しくて、切ない、けれど優しいあの時間に、戻りたいと思ってしまう、もうひとりの自分を持て余してしまう。
幼い頃に作った中庭への抜け道、大人になってもそこを使ってここへ来た幼馴染。もう狭いのではないかと言うジュリアスに、「案内(あない)を乞わずに来れるから便利だ。」と言った。使われなくなったその抜け道は、そう時を置かず木々の枝に隠されてしまったけれど。
ここにいると、木々の間から、「何をしている・・」と声をかけられそうで、優しい声で名前を呼ばれそうで、ジュリアスは小さく息をついた。
聖地の夜がこんなに静か過ぎることを、出来るならば知らないままでいたかった。ひとりの夜が、こんなに長いことを出来るならば知らないままでいたかった。
「私も、ずいぶんと身勝手だな・・」
ジュリアスは、ふっと笑みを零して、中庭に降りた。
手に入らずとも想うことは許されるであろうか、こんなに近くにいても、こんなに離れてしまったあの者の、幸せを祈ることを、心の中で想い続けることを、名前も知らない神は許してくれるだろうか。