クラジュリミックス
前編

「遅〜いっ!ルヴァ、こっち、こっち」

聖地のカフェテラスで、ひときわ目を引く派手な羽毛のショール。手をひらひらとさせて、自分を呼ぶ声の主に、ルヴァはにっこりと微笑んだ。

「すみませんね〜オリヴィエ。お待たせしてしまって。」

ルヴァは目の前で長い脚を組んでいるオリヴィエの前の席に腰をおろした。

「待ちくたびれちゃったわよ、紅茶4杯目。おかげで、お腹たぷたぷよ。」

「本当に、すみませんね〜出掛けにこれがありまして〜」

ルヴァは大きなため息をつきながら、両の人差し指で×(バツ)を作った。

「また、ジュリアスとクラヴィス?ほんと相変わらずなんだから。・・で、例の物は持って来てくれた?」

「ええ、これですね〜ムーンストーン。」

ルヴァが小箱の中から乳白色の石を取り出して、オリヴィエの手のひらにそっとのせる。

「きゃあ〜これ、これよ。夢にまで見たムーンストーン。ん〜いい色!」

オリヴィエはその石に頬ずりをする。
「気に入って下さって良かったですよ。でもそれを手に入れるのは、苦労しました〜。」

大きなため息をつくルヴァをオリヴィエはじろりと睨んだ。

「あら?私だってこの間あげた古地図、あの星でどれだけ駆けずり回ったと思ってんのよ。」

「あ〜あれには感謝していますよ〜。オリヴィエの美貌のおかげです。」

慌てて美貌という言葉を強調するルヴァに、オリヴィエは途端に機嫌をよくする。

「まあ、分かってればいいのよ〜分かってれば。ん〜これ、何に加工しようかしらねえ、ピアス、でもカットするのもったいないかしら。リング?チョーカー?あ〜迷う。」

石を指にあてたり、首に当てたりしているオリヴィエをルヴァは微笑みながら見ていたが、オリヴィエの肩越しに水色と紅い髪を見つけて声をかけた。

「オスカー、リュミエール混ざりませんか〜?」

 

 

「にしても、今日のは一段と派手だったな。」

オスカーは、彼には珍しいため息をつきながら、そう言った。

「ええ、ジュリアス様もいったん言われると引かれませんから。」

リュミエールが困ったような微笑を見せた。

「それを言うなら、クラヴィス様だって、そうだろ?」

「ですが、今日はどう見てもジュリアス様が・・」

「違うな、あの方はいつも正当なことを言われてる。」

ジュリアスとクラヴィスが言い合うたびに、このふたりで行われる代理戦争に、オリヴィエは眉を寄せた。

「ちょっと〜あんた達が喧嘩することないでしょ。」

「本当に、もう少し歩み寄ってもらえると回りも助かるんですけどね〜」

ルヴァが大きなため息をこぼした。

「まあね、でも夫婦喧嘩は犬も食わないって、どこかの星のことわざにもあることだしね。それにしても、あのふたりが恋人同士の時にどんな顔をしてるのかっていう方が、私には興味あるけどっ。」

オリヴィエの言葉にその場の空気が止まる。言った当人はいたって涼しい顔をしていたが、あとの三人は、へっ!?

「へって、やだ、あんた達、もしかして知らないの?やだ、ほんとに?あのふたりって、恋人同士なのよ。」

「う、嘘だろ?」

「う、嘘でしょう?」

「し、信じられませんけどね〜」

「いやだ、ルヴァ、あんたも知らなかったの?あんた達も、あんな四六時中引っ付きまわしておいて、気づいてないの?聖地中、たぶん知らないのはあんた達3人だけよ。」

オリヴィエはムーンストーンを小箱にしまいながら、そう言った。

「ははっ、オリヴィエ、変な冗談は止めろよ。」

オスカーが乾いた笑い声をたてる。

「そうです、オリヴィエ。いくらなんでもそれは・・」

リュミエールも苦笑いである。

「冗談じゃあないってば、それならランデイやマルセルにでも聞いてごらんよ。ゼフェルだってもちろん知ってるはずよ。」

「はあ〜驚きですね。そうですか〜ゼフェルまで・・まあ、あのおふたりが仲良くしてくださるのは、喜ばしいことですからね〜私の苦労も減るというものですよ〜。」

自分の肩を叩いて大きなため息をつくルヴァ。

オスカーとリュミエールは信じられない、いや信じたくない思いにお互いの顔を見つめた。

絶対、嘘だ・・ジュリアス様に限って、そのような・・あの方はストイックなお方、だいたいよりによって、どうして、クラヴィス様なのだ?俺の前では、頼りになるのはオスカーだ、クラヴィスはいつも職務怠慢だとおっしゃっているくせに。

嘘です。あの方は恋とか愛とかには疎いお方、長い時間をかけてきっと私が・・と心に誓っていたのに。

ふたりが夢遊病者のようにふらふらと立ち上がって、自分の邸に戻っていく背中に、オリヴィエが追い討ちをかける。

「あんた達、邪魔すんじゃあないわよ。」

********************


「ランデイ、その、ジュリアス様とクラヴィス様のことなんだが・・」

剣の練習に来ていた風の守護聖に、オスカーはそう切り出した。

「あ!俺びっくりしましたよ。あのおふたりが恋人同士っていうんでしょう。お幸せになって頂きたいですよね。」

「・・あ?」

「一緒にお住みになるのかなあ・・引越しの時は俺にも声をかけて下さるようおっしゃって下さい。重い物は俺運ぶの得意ですから。」

「あ・・ああ。」

一緒に住むだと?
ジュリアス様、あなたはどんな顔であの人とご一緒に食事をして、どんなお話をするのですか?まさか、もう一緒に眠って、ああ、どんな顔をあの人にお見せになるのですか?

許せん――と、オスカーは拳を握り締めた。

 
その頃、リュミエールも花を持ってきたマルセルに、おそるおそる話を切り出していた。

「あの、マルセル・・最近クラヴィス様とジュリアス様のことで何か聞きましたか?」

「僕、驚いてしまいました。クラヴィス様とジュリアス様があの・・」

マルセルは真っ赤になって俯いてしまう。

「でも、お似合いですよね?おふたりはとても素敵ですし・・」

続いたマルセルの言葉にリュミエールは目の前が真っ白になる。

「あのリュミエール様?どうかされたのですか?」

リュミエールは、気が遠くなっていくのを感じた。

 

次の日――土の曜日。朝早く、オスカーとリュミエールは連れ立って、オリヴィエの邸に乗り込んでいた。

「それでっ、朝っぱらから私のブランチの邪魔をして、そんなこと話に来たわけ?」

オリヴィエは紅茶のカップをソーサーに戻しながら、乾ききらない髪を鬱陶しげにかきあげた。

「そうだ・・きっとそうだ!クラヴィス様がサクリアをかたにとって、付き合わねば、闇のサクリアを送らぬとか何とか脅迫なさったに違いない。」

「いいえ!ジュリアス様のほうこそ、付き合ってくれねば、生きるの死ぬの、髪をおろす(仏門にはいる)などとおっしゃったのです。それで、クラヴィス様は仕方なく・・」

「馬鹿な・・ジュリアス様はそんなお方ではないぜ。」

「クラヴィス様も、そのような女々しい方ではありません。」

「うるさいわね〜ちょっと〜あんた達、何馬鹿言ってんのよ。だいたい、ジュリアスもクラヴィスもそんな理由でやっちゃうたまじゃあないでしょ?」

 朝の心地よいひと時を邪魔されたオリヴィエはすこぶる機嫌が悪い。

「オリヴィエ・・やるって、おまえあからさまに・・」

「あら?ちょっと下品だったかしら。」
やけっぱちのオリヴィエである。

「ああ、見ろ!リュミエールが、泣いてるぞ!」
目をやれば、リュミエールがテーブルに突っ伏して泣いている。

「ああ、ごめんねリュミちゃん、泣かないで・・」
慌てるオリヴィエに、オスカーが頬杖をつく。

「俺も泣きたいぜ。」

「それは、ジュリアス様はお美しいし、幼馴染でいらっしゃるし、でもあのご気性、とてもクラヴィス様には・クラヴィス様が・ひどい目にあっていらっしゃるのではないかと思うと夜も眠れず・・」
よよと伏せてしまったリュミエールの肩に、オスカーはそっと手をおいた。

「リュミエール・・たしかに、ジュリアス様が、おとなしくクラヴィス様とその・・なんだ、オリヴィエ流に言うと、やるだが、そうされるとは思わない。俺も・・昨夜は一睡もしていない。」

「あ〜うっとうしいわね、それで、あんた達どうしたいのよ?」

「こうなったら力ずくでも・・」

とオスカーが拳を振り上げた時、リュミエールががばと起き上がり、大きくはっきりと言った。

「ぶんどるに決まっています!」

「はあ〜?」
オリヴィエは、大きく口を開けた。

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