招き星
☆☆☆
幸せを
何でもないことのように
手放すような
あなたの生き方が
とても――こわかった
☆☆☆
女王を戴くこの宇宙の辺境に、ひときわ美しい星がある。
招き星――聖地の人々はそう呼んだ。
「γ星系シュール星の人口増加は、大変深刻なものになっています。シュール星の人口密度は宇宙平均の約 10倍。このままいけば、そう遠くない将来に、この星の民達は住む場所を失ってしまうでしょう。」
「招き星・・ですか?」
思わず呟いたルヴァに、女王補佐官ロザリアは、哀しげな笑顔を見せて頷いた。
γ星系シュール星、この星にはこの星固有の生命誕生の歴史がなく、そう遠くない過去に(と言っても何千年前という単位だが)、γ星系にあったある星が滅亡し、その時脱出した人間が、その際に植物やその他の生物を一緒に無人の星であったシュール星に持ち込んだものといわれる。よって人種もそして生物の種類も圧倒的に他の星より少ない。しかし、この星の民は勤勉で、独自の文明を生み出し、文化的にも経済的にも主星に劣らぬ発展を遂げている。
何よりもその深い青の星色が、漆黒の闇にぽつりと浮かぶその姿の美しさとその星の成り立ちから、いつしか「招き星」と呼ばれるようになった。
「皆様、ご存知のようにγ星系には、もはや、シュール星以外に人間の住める惑星がありません。彼らを他の星に移住させることは不可能だと言っていいでしょう。」
「それで、王立研究院の調査はどうなのだ?」
ジュリアスの言葉に、ロザリアは首を振った。
「人口増加のために、生態系に重要な役割を果たす熱帯林は、年々大幅に減少し、すでに陸地の4分の1が砂漠化しております。もはや通常のサクリア供給では追いつかない勢いです。その結果、住む場所、食糧を失った民が辿る道は・・もうお分かりでしょう。」
「飢え、暴動、略奪、戦争・・そして滅亡・・か。」
それまで黙って聞いていたクラヴィスがまるで呪文のように呟くのを聞きながら、ジュリアスが眉をわずかに寄せて、ロザリアに問う。
「陛下のお考えは?」
「これほどの急激な人口増加の裏にはきっと何かあるはずだとおっしゃっています。ジュリアス、クラヴィス、おふたりにシュール星に赴いて頂き、それを調査して頂きたいのです。明日の朝、次元回廊を開きます。尚、この調査はシュール星の上層部には知らせておりません。あくまでもおふたりのご判断に委ねたいとの陛下のお言葉です。」
★★★
「気乗りがせぬようだな。」
とジュリアスはクラヴィスの髪を梳きながら言った。
「あの星は・・どうも好きになれぬ。」
クラヴィスはソファにもたれたまま、櫛を持つジュリアスの手首を掴んで、その櫛を取り上げてテーブルに置いた。
「珍しいな・・そなたが星の好き嫌いを口にするなど」
ジュリアスは、小さく言いながら、流れるようなクラヴィスの髪をその白い指ですくった。クラヴィスの髪の香りはいつもと変わらぬ微かな白檀の香り。でも決定的にいつもと違うところがあった。
明日から、ふたりが訪れるシュール星の人民の多くが銀の髪を持つというので、正体を隠して調査に訪れるジュリアスとクラヴィスは髪の色を銀色に染めたのである。
「このようななりまでして、ご苦労なことだ・・」
クラヴィスは、そう言って自分の肩にかかるジュリアスの銀の髪を軽く引っ張って、顔を近づけた。
「しかたあるまい、これも職務のうちだ。」
そう言った銀色の髪のジュリアスは、美しいがどこかいつもより寂しげにクラヴィスには映る。
やはり、おまえには日の光を集めたような金の髪がふさわしい。
「そなたの銀の髪もなかなか似合うぞ。」
とジュリアスが小さく笑ってその吐息がクラヴィスの頬をくすぐる。どちらからともなく唇が重ねられて、ふたりの銀の髪がからまっていく。ジュリアスの体がクラヴィスに重なる、薄い衣の上から感じるほどに、互いの体が熱い。
ソファがふたりの重みに沈んでいく頃、聖地を照らす月はゆっくりと深い漆黒の闇に呑み込まれていった。