メタモルフォーゼ

 

愛している・・

そのひとことのために

私達は幾度夜を過ごせばいいのだろう

おまえと重ねるこんな夜は

喜びであり

それは

とても 悲しいこと

 

☆☆☆

白い頬にかかる金色の髪をそっとすくって、口づけた。私の金色の恋人は、今、私のかたわらで深い眠りにおちている。先ほどまで甘い吐息を紡いだ唇は結ばれ、快感に濡れていた蒼い瞳は固く閉じられて、今は見えない。寄せられた眉がせつない情事を思い出させて、私は言いようのない寂寥感を覚えてしまう。

「そんなにも辛いのか・・私に抱かれることは。」

人差し指でおまえの唇の形を確かめながら私はそっと呟く。

こんな風に共に過ごす幾度目かの夜。たわいのない話をして、酒を飲み、私からくちづけをして、おまえのつくため息を合図に体を重ねていく。

求め合うあの時間は真実だけれど、その後のこの空しさの理由は・・

分かっている。私だけがこんなにも愛している、その現実を突きつけられてしまうから。

きっとおまえは私の思いに戸惑いながら、受け入れることもできず、さりとてはねのける勇気もなく、私と共にいるのだろう。所詮同じ境遇を慰めあう仲でしかないのだろうか?

おまえは自分が思うよりずっと優しい人間だからと、口にすればおまえが怒るような言葉を私は心の中で呟く。

おまえは決して哀れな私の腕を振り払うことはしない・・私はそれに気づいていながら、おまえを抱く手を緩めない。いつかおまえがそれを同情だと気づいて、私から離れていくのが、今の私には何よりも怖いことだから。快楽の海におまえを沈めて一生気づかせずにしてしまおうか・・私は邪な思いに苦笑いしてしまう。

眠れない夜がゆっくりと明けて、おまえの頬を白い光がそっと照らし始める頃、私は身支度を整える。おまえの肌の感触が未だ残る掌。思わず握り締め、爪の立つ小さな痛みに私は思う。

おまえは私と共にいることでどれほどの痛みを得ているのだろう・・

「帰るのか?」

ジュリアスがそっとその半身を起こす。私の愛しい恋人は髪をそっとかきあげて、潤んだ蒼い瞳を私に向ける。その蒼ざめた頬に私はそっと手を伸ばす。

「夜が明ける・・」

そう言った私の声に、ジュリアスは頷き、やがてぽつんと言った。

「私達は、いつもどうして、こんな気持ちのままで・・別れてしまえるのだろう・・」

ジュリアス・・立ちあがりかけていた私は再び寝台に腰を下ろした。今こそ、私の物思いを吐露してしまおう、そう思った。

「私といるのが辛いなら、もう会わずとも良い。」

本心とは裏腹なそんな冷たい言葉を投げる。ジュリアスの顔が上がり、蒼いまなざしが翳る。

「もう、私はいらぬと・・?」

思いもかけないおまえの気弱な言葉に、慌てて私は首を振る。

「違う、おまえがいつも辛い顔をするから。」

「おまえに抱かれるのは嫌いではない。ただ・・」

らしくない歯切れの悪い言葉、ただ、何なのだ?私は眉を顰めてジュリアスを見つめる。

「ただ、このような気持ちになるのは初めてで、正直、戸惑っている。」

幼い頃から大好きだった。私の大切な友だった。あの頃のあどけなさはもう消えてしまったけれど、その見返りにおまえは誰の目にも美しくなっていった。その美しさと共に、おまえが身につけていった守護聖としての威厳や能力。時に眩しく、時に妬ましかった。いつしかそれは執着に変わり、私はおまえが欲しくて堪らなくなった。

「このままでいると、いつかもっと悲しむことになるかも知れぬ。」

私はそう口にする。どちらが悲しむことになるのかそれはわからないけれど・・。

私のそんな言葉にジュリアスが「それでもよい。」と小さく言った。

ふたりの間に小さな沈黙があり、やがてジュリアスは、瞳をふせて自分に言い聞かせるように呟いた。

「いつでもそなたを、想っているから・・」

昼間のおまえを知っている者なら、今、目の前にいるおまえのその思いつめた表情で、それがおまえにとってどんなに思いきった言葉なのかわかるはずだ。

不器用で、だけど私にとっては、最高の愛の言葉、それだけで今は充分だと思う。いつの日か、おまえが守護聖という枷から解き放たれた時に私を選んでくれればそれでいい。

「今日は日が昇るまで側にいても良いか?」

私は問う。おまえがこくりと頷く。

ふたりの恋は口には出せないから、おまえはきっと一緒にいる所を見られても偶然会ったと言うのだろう。それでも構わない、おまえの心の片隅に、私が存在して、おまえの願いを少しでも、私が叶えられているのなら嬉しい。

メタモルフォーゼ――――

私達の心の中で何かが変わっていく―――――

おまえのためになら私はどんな嘘をついても構わないと思っている

Fin