天沼夕景

                                       by 睦月

 

 せめて一時通い合う。

 そっと笑顔を交わし合う。

 

 

 筆頭二人は偶然にも同じ帰路に立っていた。お互いを認めるとどちらからともなく歩み寄

 って、やがて並んで歩き出す。

 執務中にはほとんど顔を合わせない二人だったし、約束をわざわざ取り付けるという事も

 しない二人だったから、こんな風に帰りが一緒になるというのはごく稀だった。
 西日が傾
く天空に、円を丁度半分にしたような蒼白い月が控えているのが見える。

 「今宵の月の表面の半分は光が射していて、もう半分はこの主星の影を映している」

 独り言でも言うように突然口を開いたジュリアスに、クラヴィスは相槌を打とうとしたが、

 暫し躊躇った末その横貌を見た。

 「…そなたと、私だ」

 横貌のまま言う。

 陽が地平の際のところで名残り惜しいように揺らぐ。薄紫に染めあげた布を広げたような

 空間が降りて来る。

 「見事だな…」

 「ああ」

 この宇宙がどのような方向へ進んでいるのかを二人は知っている。それでも今日の夕日は

 二人の影を作り、今宵の月は銀の光を零すだろう。

 「この時間帯は不思議だな。引力と重力の間のようなものがあるとしたら、それに相当す

 るかも知れぬ」

 「夜が明ける寸前も同じようなものだ。薄暗く、仄明るい」

 ほぼ同じ線上にある蒼と紫の眸が交わされる。黄金色と漆黒、光と闇。似ているところな

 ど外見的には何処にもない。けれども内包しているものの資質はほぼ同じだったと言って

 もいい。月がそうであったように。

 「そなたと、私だな」

  もう一度ジュリアスが言う。お互いの裡を照らし、隠し、晒し、守る。その意味を。

 「お前と、私だ」

 クラヴィスが答える。敢えて言葉にしない誓い。

 

 (この地の、この世の果てまでも共に行こう。この世の果てが聖地なのだと気付きながら、

 気付かぬ振りをするお前と共に)

 

 「ジュリアス」

 「…何だ?」

 「私達を分かつものがあるとすれば、それはお互いの裡を大切に思う余りに起こる筈だ」

 夜の帳がジュリアスの貌を白く浮かび上がらせ始めた。

 「そなたを大切に思うのはいけない事か?」

 聡いのに何故このような事がわからないのかとクラヴィスは思う。

 「一人を大切に思う余りに、二人で居る事をおざなりにするから…だ」

 はっとジュリアスが貌を上げる。藍を映し取った瞳が揺れる。唇が何かを言おうとして震

 える。

 

 「今日見た夕景を忘れるな」

 クラヴィスの裡から響いてくるような声が、合わせた胸からジュリアスに伝わる。

 「ああ…」

 お互いを緩く拘束する。

 「忘れぬ」

 

 

 (お前の在る聖地はこんなにも美しい。)

FIN