紅星

ガーデイアンの衛星に到着するまで光速で1日、守護聖3人と数人の研究員を乗せた銀色の宇宙船は暗黒の海を滑るように飛んでいく。

「見えてまいりました。ガーデイアンです。」

操縦席の研究員の声と共に、徐々に速度を落とし始めた宇宙船の広い窓から、闇の中に浮かぶ紅い星が見える。暗黒の海の中にまるで血の色を湛えたその星は、何故かひどく美しいもののように感じられる。

「オスカー、これは・・」

水色の瞳に心細げな色を浮かべたリュミエールが、かたわらに立っている炎の守護聖の瞳を覗きこんだ。

「ああ、ここにいても感じる恐ろしいほどの量の炎のサクリアだ。」

ガーデイアンから目を逸らさないまま、そう言ったオスカーの眉をひそめた顔が、事態が思ったよりもずっと厳しいことを物語っている。

リュミエールは消え入るような細い声で聞いた。

「・・大丈夫でしょうか?」

「やらねばならないんだ。あの星を救うために・・」

ちらりとリュミエールを見たオスカーは、きっと鋭い瞳で、もう一度その紅い星を見据えた。常々、男には命を賭ける時があると言っていたオスカー、もしかすると今がその時なのかもしれないとリュミエールは思う。

精悍な横顔が侵し難いほどの戦士の顔になっている。いいでしょう・・私もそれに殉じる覚悟で望みましょう、それが対極にある力を司る私のさだめならば・・リュミエールは、オスカーの横顔をもう一度見つめた。

「フッ・・そのように、気負うと持たぬぞ。」

ふたりの守護聖のやりとりを少し離れた所で眺めていたクラヴィスが口の端で笑う。聖地を出発してから、クラヴィスが初めて口にした言葉だった。振り向いたオスカーが、クラヴィスの態度にあからさまに嫌な顔をする。何か口を開きかけたオスカーに、リュミエールが慌てて他の話をふった。

「そろそろ聖地と交信出来る頃ではないでしょうか?」

光速で飛んでいる間は交信はできないので、約1日ぶりの聖地との交信となる。

きっと聖地の皆が心配していることだろう。とりわけジュリアスの心中を思うとオスカーは胸が痛む。初めてジュリアスの意に従わぬことをしてしまった自分、最後まで反対し続けたジュリアス、それでも聖地を出る時に「待っている。」と見送ってくれた人。

必ず成功させねばあの人に合わせる顔がないとオスカーは思う。

「あ、ああ、ジュリアス様にご報告せねば・・。通信!出来るか?」

「はい。まもなく・・繋がりました!ジュリアス様です!」

その声に、オスカーが通信パネルに駆け寄り、交信マイクに向かう。聖地からの応答は宇宙船内の誰もに聞こえるようにしてある。

「オスカーか?ガーデイアンは見えるか?」

ジュリアスの良く通る声が船内に響く。

「はい、先程から・・」

「どんな様子だ?詳しく報告してくれ。」

「はい、星の色は赤黒く、これは急激に炎のサクリアを吸収した結果だと思われますが、おそらく・・惑星の30%が炎のサクリアの影響を受けていると考えられます。」

「・・30!?」

ジュリアスの驚く声が届く。

「・・無理だ!」

ジュリアスが拳で何かを叩く音が聞こえた。船内の研究員達もオスカーさえもこのような激高したジュリアスの声を聞いたことがない。聖地にも船内にも数秒間の沈黙が流れた。

やがて、いつものジュリアスの声が戻ってくる。

「オスカー、それ程の量のサクリアを引き上げるのは危険だ。そなたの命に関わる。」

聖地から離れすぎているこの辺境のα星系に映像は届かない、けれどジュリアスの秀麗な顔に眉が寄せられるのが目に浮かぶ。それでも引き帰せないオスカーがいる。

「危険なのは、最初からわかっていたことです。今更止めることは出来ません。」

「オスカー!」

「俺はやりますから・・」

オスカーが妙に落ちついた声で言う。

短い沈黙の後に、諦めたようなため息が小さく聞こえ、ジュリアスの冷たい声が届く。

「クラヴィスに代わってくれ。」

「ジュリアス様!?」

オスカーの怪訝そうな言葉に、苛立つジュリアスの言葉が返ってくる。

「クラヴィス!!」

「そのように大きな声を出さずとも聞こえている・・」

いつから側に立っていたのか、オスカーから交信マイクを奪ったクラヴィスは、薄い笑みを浮かべてそう言った。

「クラヴィス、おまえはどう見る?」

「オスカーの見立て通りであろう・・。ただ、この星の命運はまだ尽きてはいない。この者の好きなようにやらせてみるのもよいではないか・・消滅させるのはその後でもいいだろう・・」

そう言って、隣りで燃えるような瞳で自分を見つめているオスカーを横顔で笑うと、クラヴィスは窓の外に先程よりずっと大きくなった紅い星に目をやった。

オスカーは奥歯を噛み締めた、やはり、ジュリアス様は私よりこの方を信頼されているのだと。今まで何度かそう感じたことはあったのだ。守護聖の使命などに見向きもしないこの筆頭守護聖、対の光の守護聖は時にその態度を怠惰だとか怠慢だとか罵ったけれど、彼が仕事上でミスを犯したという話は一度も聞いたことがない。

いや、それどころか重要な案件にはいつも名前を列ねるクラヴィス。筆頭守護聖ということを差し引いても、彼の持つ能力は計り知れない、空恐ろしいものに感じられる。オスカーがクラヴィスに抱く思いはそれだけではない。ジュリアスとの関係である。守護聖に就任して以来、ジュリアスの右腕と自他ともに認めるオスカーにさえ、ジュリアスは守護聖という仮面を外さない。いやジュリアスは素顔の時でさえ守護聖なのではないかと哀れに思ったほどだった。自分では決して埋められないジュリアスの心の破片を持っているのは、クラヴィスなのではないかと、ジュリアスが守護聖の仕事に邁進できるのは彼がいるからなのではないかとオスカーは感じていた。クラヴィスが身を呈してジュリアスを守ったあの日、小さく生まれた疑念は、今回のこの旅で確信に変わった。

オスカーは拳を握り締める。

俺では役不足ですか・・と心の中で呟いて、これではまるで嫉妬するどこかの女のようだと苦笑いした。

「オスカー?」

自分の名前を呼んだジュリアスの声に我にかえったオスカーが、マイクを自分の方に向けた。

「よいか、クラヴィスが止めるところでサクリアの引き上げを終えるのだ。その後すぐにリュミエールが水のサクリアを注ぐ。星の色が黄色に変わり、炎のサクリアの受容量を10%にまで落としたところで完了する。オスカー、これでもそなたの体力はかなり消耗するはずだ。これ以上は絶対に許さぬ。必ず、クラヴィスの止めに従うのだ、よいな、あれの言は私の言だと思え。リュミエール、そなたもよいな。」

否を言わせぬ強い口調。この声に逆らえる者は広い宇宙のどこにもいないだろう。ジュリアスは続ける。

「乗務員に告ぐ、聞くところによると衛星は既に惑星の影響を受け、地温が高い上、戦場になっている危険性もある。くれぐれも注意をするように。」

「みなさ〜ん、ルヴァです。頑張って下さい、オスカー、どうか気をつけて。」

ルヴァの穏やかな言葉が聞こえ、ジュリアスの小さく呟くような声が割って入る。

「・・命を粗末にするな。」

ジュリアスの声が聞こえ、そこで交信は切れた。

銀色の宇宙船は、ガーデイアンの惑星圏内に入っていった。

 

「そろそろ、衛星に着く頃ですね〜」

ルヴァが懐中時計を取り出して呟く。

「私は今でも悔やんでいる、何としてでも止めるべきだったのだ。」

「大丈夫ですよ〜クラヴィスがついていますから・・」

ジュリアスは、それが心配なのだとルヴァに小さく言った。

しかし、ルヴァと目が合うと、またいつもの顔に戻って研究員達に指示を飛ばす。

「ガーデイアンの地表温度の変化をグラフにして、パネルに写してくれ。それと、彼らが怪我などして帰ることを考えて、医療チームは万全の対策をしておいてくれ。」

今回の件に関しては、聖地からできることは何ひとつないのだ。

私達にできることはただ祈り、彼らの帰りを待つだけ。ルヴァはそんな思いでジュリアスの背中を見つめる。ジュリアスにさえそれは分かり過ぎるほど分かっているはずだった。しかし、ジュリアスはあらゆる状況を考えて、出来うる限りの対処をして彼らの帰りを待つ。そんな気持ちが手に取るようにわかるルヴァは、ジュリアスに見えない所で小さなため息をつく。

「大丈夫です。大丈夫でなければならないのです。」

ジュリアスの哀しむ姿など想像も出来ないし、見たくもない。それは辺境のかの地にいるクラヴィス達もきっと同じ気持ちだとルヴァは思った。 

 ★★★ 

降り立った衛星の荒野はやけに静かだった。、いたる所にある乗り捨てられた宇宙船の残骸が、ここであった戦いの激しさを現しているが、誰一人として人間は見えない。戦い疲れた人々は最期の時を察し、人間同志の戦いの愚かさを感じて、故郷の惑星に戻ったのだろうか。惑星最期の晩餐を愛する人と迎えようとしているのだろうか。クラヴィスは、思った。

「人間もそう愚かではない・・か・・」

彼には珍しい笑みがこぼれた。

「この辺りでいいだろう。」

オスカーの声が宇宙に木霊する。

帯剣を天に向かって捧げ持ち、瞳を閉じたオスカーの体が一瞬光に包まれたかと思うと、一筋の閃光がガーデイアンから、剣を介してオスカーの体に流れこむ。それはまるで堰きをきった流れのように、恐ろしいほどの速さでオスカーを襲った。惑星ガーデイアンに過剰に増えてしまった炎のサクリアが、今それを司る戦士の瞳をした守護聖のもとに還ろうとしている。体が仰け反るほどの炎の勢いと灼けるほどの熱。少し離れた所に立っていたリュミエールにも感じるほどの恐怖。

必死に耐えるオスカーの姿から誰も目を逸らすことができない。時折リュミエールが心配そうな瞳をクラヴィスに向けたけれど、それに気づかないのかクラヴィスはオスカーの姿を見据えていた。やがて銀色に輝く大剣の刃が燃え始め、その柄を握り締めるオスカーの太い腕が微かに震えた。

「オスカー!!そこまでだ・・」

オスカーの後に立ったクラヴィスがオスカーを止める。

「……」

瞳を閉じ、歯をくいしばり、その熱に必死に耐えようとするオスカー。

「オスカー!」

リュミエールが悲痛な叫び声をした。

「もう・・少し・・」

そう言って、オスカーが薄く瞳を開けたとき、ひときわ勢いを増した炎が、突然刃を伝って、オスカーの体を包みこもうとした。微かに肉の焼ける匂いがする。

「やめろ!!」

クラヴィスのその声と共に、背後から突風が吹き、目の前の空気が揺らめいて、オスカーは膝をついた。手から剣が滑り落ちて乾いた大地に転がった。

「オスカー!!」

駆け寄ろうとしたリュミエールをクラヴィスが瞳で制した。

「クラヴィス様・・?」

「すぐにガーデイアンに水のサクリアを!」

「は、はい・・」

リュミエールは両手を広げ、何か呟くと瞳を閉じた。水のサクリアの流れがガーデイアンに注ぎ込む。焼け爛れ、怒り狂ったその大地は、砂漠で迷った旅人のようだった。やっと見つけたオアシスで貪り飲む水のように、その水のサクリアを渇望している。

星の色が血の色から、黄色い大地の色に変わっていく。リュミエールは息を小さくつくと、クラヴィスの方を振り向いた。クラヴィスの腕の中のオスカーは意識を失っているのか、ピクリとも動いていない。

「クラヴィス様・・?オスカーは?」

クラヴィスはオスカーの上半身をリュミエールに委ねながら言った。

「闇のサクリアを与えて眠らせてある。早い手当てが必要だが、命に大事はない。」

その言葉にリュミエールがほっとため息をつく。

「これで、上手くいったのでしょうか?」

クラヴィスは目の前に浮かぶ星を見つめ、やがてゆらりと立ち上がった。

「リュミエール、私はガーデイアンに降りて、闇のサクリアを与えてくる。おまえはオスカーを連れてすぐに聖地へ戻れ。」

「クラヴィス様?」

信じられないものを見たような顔をするリュミエールに、クラヴィスは続けた。

「オスカーのおかげでこの星は、なんとか命運を保ったようだ・・しかし、今回の件では多くの者達が傷つき斃れた。私は、私の持つ力で、あの星を救いたいと思う。」

リュミエールは驚きの表情を隠せない。その闇のサクリアを持つ力を厭わしく思っていたこの人が、自らの意志のもとで、自らしか持たぬ力で星を救おうとしている。

心のどこかでそれを祝福する自分にも気づいたリュミエールではあったが、クラヴィスひとりをこの宇宙の片隅に残して行くなど出来るわけがない。

「いけません、クラヴィス様おひとりをお残しするなんて。」

リュミエールは、腕の中にオスカーを抱いたまま、首を振った。

「・・ガーデイアンは、それで救えよう・・」

「それなら、私も残ります。」

リュミエールは、縋るような瞳でクラヴィスに食い下がった。その様子にクラヴィスは、後ろに控えていた研究員たちを呼んだ。

「ふたりを連れてすぐに聖地へ戻るのだ。早く!」

闇の守護聖の言葉に、驚く顔を見せる研究員達に否を言わせぬ威厳で繰り返す。

「早く!」

「は、はい・・」

意識を失ったままのオスカーと水の守護聖は研究員達に引き摺られるように、宇宙船に乗せられた。ハッチが閉まる寸前、クラヴィスはリュミエールに小さく言った。

「・・ジュリアスに、ガーデイアンは大丈夫だと伝えてくれ・・」

「クラヴィス様!!」

リュミエールの声は宇宙船の舞い立つ轟音にかき消されっていった。

衛星の荒地にたつクラヴィスの姿が、小さくなる。

リュミエールは、冷たい船内の床に泣き崩れていった。

 ★★★

ガーデイアンの炎のサクリア引き上げ成功の報に、聖地では歓声と拍手があがった。

しかし、それも一時のことで、帰還の宇宙船の中に闇の守護聖がいないことを知った彼らは、騒然とした。

そんな中、ただひとり光の守護聖だけは、それをまるで予想していたかたのように振る舞っていた。それを冷淡だと噂する者もいることさえ気づきもしないで。

「オリヴィエ、オスカーの様子は?」

「うん、さすがオスカーとでも言うのかな。人並みはずれた体力で、明日には目を覚ませそうだって。火傷の方もたいしたことないって。」

オリヴィエの言葉に頷く白皙の横顔は、瞳に安堵の色を見せた。

「そうか・・。リュミエールの方は?」

「こっちはね、体の方は大丈夫なんだけど、精神的に相当まいっちゃってる。うわごとのようにクラヴィスを残してきたことばかり言ってる。」

ジュリアスは小さくため息をついた。

「そっちは、どんな様子なわけ?クラヴィスを迎えに行くんでしょ?」

「ああ、今用意させている。」

「全く・・無茶よねえ。緊急の脱出ボートで惑星に下りたんだって?クラヴィスってば、そんなもの操縦できたんだ・・。」

オリヴィエが感心したように言うのを、ジュリアスが苦笑いを浮かべて見つめる。

「ふたりを頼む・・」

そう言って踵を返そうとしたジュリアスの腕を思わずオリヴィエが掴んだ。

「無茶と言えば・・ジュリアス!あんた睡眠どころか、食事もろくに取ってないんでしょ?まったく、あんたまで今倒れてどうすんのよ。」

「私は大丈夫だ。」

居丈高にもとれる態度で言うジュリアスに、何が大丈夫よ、そんな生気のない顔色をしてとはオリヴィエは口にしない。なんと言ってやろうかとふと掴んだ手首に目を落として見つけた紫の痕。

「ちょっと、ジュリアス!」

思わず声を上げたオリヴィエに、ジュリアスがそっと左手でその部分を隠した。皮肉にもその様子でオリヴィエは思い出す。クラヴィスが帰らないという報を聞いて、ジュリアスが思わず自分で掴んでいた様子。その力がジュリアスの言えない思いの深さを語っていた。

ふう〜と、オリヴィエは小さな息をついて、そっと、その腕を離した。

慰めの言葉や労わりの言葉が今のこの人には何も救いにはならないことを知っている。この人は冷静な首座の顔の下で、何度傷つき、涙を流してきたのだろうか。オリヴィエは、この時初めてジュリアスの痛みを知ったような気がした。

そんなオリヴィエの気持ちを見透かしたように、ジュリアスは小さく微笑んだ、「私は大丈夫だからと。」言うように。その優しい笑顔は、首座として冷徹に任務を遂行するこの人には珍しく似つかわしくないものに思えて、ひどく哀しかった。

彼の去って行く後姿を見つめながらオリヴィエは苦笑いした。

「ジュリアス、あんたのあんな顔、見たくないよ・・」

 

 

「・・クラヴィスは、帰らないのではないだろうか・・」

ルヴァの部屋に短い沈黙が流れて、ジュリアスの蒼い眼差しが翳る。

「何言ってるんですか〜、クラヴィスは私が首に縄をかけても連れて帰ってきますよ。」

ルヴァの明るい声にジュリアスの瞳がふっと笑った。

「あの者は守護聖も聖地も嫌いだからな・・特に私は昔から嫌われている・・」

ジュリアスは自嘲ぎみに呟くと、無理に笑みを作る。

ルヴァにはそれが泣き顔のようにも見えた。ジュリアスは、自分にとって何が一番大切なのか、失いかけて初めて気づいたのだとルヴァは思う。まだきっと、ジュリアスはそれに気づききってはいないけれど。

ルヴァは賭けてみようと思う、今回の件はジュリアスとクラヴィスにとって不幸ではあるけれど、また新しい関係を築くきっかけになるかもしれない。

ルヴァは何か思いついたように机の引き出しの中から、1冊の本を取り出し、ジュリアスに手渡した。

「これは?」

怪訝な顔を見せるジュリアスに、ルヴァが穏やかな笑みを見せる。

「読んでください、クラヴィスの聖地嫌いのわけが分かると思いますよ。そしてあなたへの気持ちも・・」

「クラヴィスの・・?」

頁を開こうとしたジュリアスの手をルヴァは慌てて止めた。

「後で、ひとりで読んで下さい。」

いいですねと強い口調で念を押されたジュリアスは頷いた。

コンコン・・ノックの音が執務室に響き渡った。ひょいと顔を覗けたのはマルセル。

「ルヴァ様〜ジュリアス様はこちらですか?あの、宇宙船の準備が出来ましたって。」

「そうか。では、ルヴァ、世話をかける。」

首座の顔に戻ったジュリアスにルヴァは笑顔で答えた。

「はい、はい。こちらも準備OKですよ。」

言いながら、先に扉を出ようとしたルヴァがふいにジュリアスに振り向いて言った。

「クラヴィスは必ず帰ってきますよ。あなたの所にね。」

 

ルヴァを乗せた宇宙船の影が見えなくなっても、ジュリアスは遠い空を見つめていた。降り出した雨が頬を濡らすことにさえ気付きもしないで。