『N98 星空までは何マイル?』は、(株)遊演体の著作物です。
 掲載したリアクションは、(株)遊演体に著作権があります。
(株)遊演体の定めた規則により、二次使用を固く禁じます。

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■No.05150「石の上の2羽の小鳥」
GM:星空めてお 担当マスター:相楽鈴希

 このリアクションは選択肢150を選んだ人の
内、一部の方に送られています。
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≪前回までのあらすじ≫
 アメリカ合衆国第59代太統領にして宇宙開発機
構軍総司令デーモン・ラウルは、フェデレーション
代表アントニオ・ピアンキの身柄を会談中途で拘束
した。そしてそれと同時に表明したのは宇宙開発機
構軍のフェデレーションに対する宣戦布告である。
 その彼の苛烈なまでの演説に人々は異様に熱狂し
た。地球に残された、今だ宇宙が遠い世界のままで
ある人々にとって、彼の言葉はまさに自らの不満を
代弁しているかの様に聞こえたのだ。
 ビアンキ代表はヒューストンコロニー内に監禁さ
れた。
 そしてラウルは、密かに準備を進めていた数々の
極秘任務をここで一気に加速させるのであった。

「グワイヒアが?」
 と、宇宙開発機構軍総司令デーモン・ラウルは問
うた。
 場所は、ヒューストンコロニー。フエデレーショ
ン代表アントニオ・ビアンキとの交渉の舞台となっ
た建物の別の一室、ラウルが仮の執務室として使っ
ている部屋である。
「はい。グワイヒアは一旦ゲートを強制排除しコロ
ニー外へと脱出しましたがその後、再度当ヒュース
トンコロニーへ進入致しました」
 答えるのは女性秘書。彼女の瞳をラウルは鋭く射
貫く様に見た。彼女は反射的にぞっとする。そして
ラウルは、実に唐突にこう言った。
「遅い」
 ぱき
 乾いた音がして、秘書は些か驚きその音の出所を
探った。出所は事の他近くだった。
「そんな情報は、何よりも早急に伝えられるべき事
項である筈だ。遅過ぎる」
 言うと、ラウルは半分に割られたメモリーカード
を執務机の上に叩き付ける様に放った。
 放られたカードの欠片の片方が、跳ね返って秘書
の足下へと落ちた。

 粗末ではないが豪奢でもない、狭くもなけれぱ広
くもないその部屋で、フエデレーション代表アント
ニオ・ピアンキはかすかに嘆息した。
「しかし」
 軽く腕を組む。この部屋に放り込まれてから……
数時間は経過しているか。部屋には時間を知る術は
なくまたピアンキ本人の時計も取り上げられてい
た。いわゆる、時間感覚を狂わせて心理的に不安定
にさせる手法のひとつである。まあ些か陳腐な方法
でもあるのだが、それか今だに廃れていないという
事はそれがまだ有効な手段であるからだろう。
「ザイードの奴も無茶するなぁ」
 椅子の、あまり効かない背もたれに背を預けてビ
アンキは眩く。その横顔には僅かな焦燥感。
 ドア越しに、何もエングうムを使わすともにわか
に外が騒がしくなって来ている事が分かっていた。
 ザイードが、旧知の親友が自分をここから助け出
そうとグワイヒアのメンバーと共にこのコロニーに
襲撃をかけているのだ。そう、自分と、自分と共に
会談に赴いていた使節団のメンバー4人を救出する
ために。人命は、常に重んじられなけれぱならない。
そこからすれぱザイードの行動は至極もっともであ
ろう。
 だがしかし。
 ピアンキは今度こそ大きく嘆息した。
     @     @     @
 着床したグワイヒアからはすぐに内火艇が射出さ
れた。恐らくヒューストン上陸班を乗せているのだ
ろう。しかしそれをみすみす眺めている程、機構軍
も愚かではない。
 ラウルの指示により、グワイヒアメンバーに対す
る機構軍の作戦行動は主に官公庁区域に展開する事
となった。これは無駄な人死を(皮肉にも)フェデ
レーションと同しく避けようという機構軍側の配慮
からだった。この時間帯ならばこの区域はゴースト
タウンもいいところだ。

「こちら、コロニー管制室。このコロニーの管理は
こちらが全て押さえました」
 ヒューストンコロニー管制室勤務、織田めぐみが
そう通信を入れる。通信先は勿論、機構軍情報部。
『了解。進入者撃退のため、セキュリティを固めろ。
ピアンキの居場所への進入は許すな』
 間髪入れす、一筋の迷いもなくめぐみは答えた。
「セキュリティレベルを調整します。非常事態につ
き警報を入れます」
『了承した。……今現在入った情報によると、コロ
ニーシリンダー内の無重力地帯にてフェデレーショ
ン籍の内火艇を数機確認。視界改善のためミラーの
解放を請う、と』
「ミラーを、ですか?」
 唐突な指示にめぐみは念のため再確認する。
 このコロニーでは太陽光の調整のために大量の鏡
を使っている。その鏡を開閉する事によって、本来
時計の針の上以外では存在しえない昼と夜を造り出
しているのだ。つまり情報部は、今現在夜であるコ
ロニーを強制的に昼にせよ、と言っているのであ
る。
『0Gで待機中の迎撃部隊が視界を取れないらしい』
「……了解しました」
 めぐみはひとり頷くと、コンソールパネルに手慣
れた雰囲気で指を滑らせた。
     @     @     @
 コロニー全体に非常警報が鳴り響いている。
 すっかり明るくなったヒューストンコロニーを一
望出来るその部屋で、ラウルはただ状況を見守るに
過ぎなかった。宇宙開発機構本部ではないここで
は、局面において的確な命令を出した後はその結果
を待つしかないのだ。
「フェデレーション代表代理、エリザベス・マクレー
ンがフェデレーション側の今回の事態についての公
式見解を示しました」
「代理自身が見解を示したのか」
「いえ。あくまで代理です。エングラム網を通して
伝えられた言葉としてマクレーン女史が発表したに
過ぎません」
 ラウルは黙ったまま女性秘書に続きを促した。
「内容ですが……フェデレーションは代表を拘束し
た所でその活動を方針を変化させる事はない。フェ
デレーションは全人類規による宇宙開拓の推進を望
んでいる、と」
 秘書はそこで一旦言葉を切った。ラウルは吐き捨
てる様に眩いた。
「下らんな。美しいものしか見たがらない理想家の
言いそうな事だ」
「フェデレーションは、価値観の違いを否定する事
はない。ともに生きるための手段を共有する用意が
ある。未来を、共に見つめたいだけである。この言
葉の意昧について閣下に今一度耳を傾けて戴きたい
との事です」
 ラウルは酷くすさんだ笑みを浮かぺた。
「中々気色悪い事を言う。まあいい。放っておけ」
「しかし、こちらから何か見解を示すべきなのでは」
「お前の意見など訊いていない」
 ぴしゃり、とラウルは秘書の言葉を遮った。
「その見解は嘘だ。ビアンキがそんな言葉を火星に
まで伝えられる筈はない。いくらエングラム網を通
じたと言えどもな。ネイバー相手でも不可能な話
だ。大方誰かがその女に入れ知恵して喋らせただけ
だろう。戯言に律儀に付き合う礼儀正しさは、少な
くともこちらには必要ないたしなみだ」
 そしてこの話題については完全に処理を済ませ
た、といった口調でラウルは言った。
「他はどうなっている」
 暫しの沈黙。
「……管制塔からの連絡によると、0G区域では何
隻かのフェデレーション籍の小型艇と当軍の小型艇
が交戦状態に入ったとの事です」
「状況は」
「こちらが優勢です」
 秘書は、もうただ淡々と訊かれた事のみを答え
る。ラウルは彼女にそれ以上を望んではいない。彼
にとって、自分より下にある者は全て自分の言った
事のみを完璧にこなしていれさえいればいいのであ
る。
「コロニー管制室にやはり数名のフェデレーション
メンバーが襲撃を仕掛けていましたが、それは既に
撃退しています」
 ラウルはカップにわずかに口をつけた。そして再
び口を開いた。
「グワイヒアからの降下部隊はどうなっている」
「それが……」
 秘書が言葉を濁した。とその時である。
『こちらコロニー管制室! 至急応答願います!』
 緊急通信が入った。秘書がそれを受ける。
「一体何事……何ですって?!」
 突然悲鳴じみた声を上げる秘書をラウルはやはり
氷の様な目で眺めていた。
「何事だ」
 通信を切った彼女にラウルは問うた。暫しの躊躇
の後、彼女はこう答えた。
「ビアンキ代表が、何者かに連れ出された模様です。
セキュリティシステムをハッキングされて解除され
たらしいのですが……」
 彼女はその言葉を最後まで続ける事が出来なかっ
た。ラウルの拳が執務机に埋め込まれたコンソール
バネルを力任せに叩き割ったのだ。
 そしてその苛烈な行動とは裏腹な、恐ろしく冷え
切った声音でラウルが訪ねた。
「……何処の野良犬の仕業だ?」
 秘書は、今度こそ自らの身体の震えを隠す事が出
来なかった。

 ホビットをぱたんと閉してセレス・フリーズは肩
を疎めて見せた。
「フッ、コロニー管制室が聞いて呆れますね。こん
なに簡単に進入されているようじゃ、先が思いやら
れますよ」
「セレス、じゃあ後は頼んだよ」
「ああ」
 アルバ・フォルクがそう言って走り出す。その背
中を見送ったアキ・セイタンが眩く。
「さてと。私達はビアンキさんをここから連れ出す
んでしたよね、早くしないと」
「そうですね」
 セレスとアキがいる通路には全部で10の部屋が
あった。この内の何処にビアンキがいるのかは分か
らない。しかしエングラムに少し気を傾ければ。
「……ん、ここですね。ここと向こう側に人がいま
す。でも向こうは4人いるからこっちは使節団の人
達でしょう」
 アキの言葉に、素早くセレスが動いた。アキが指
し示したドアをさっと開ける。
「ビアンキ代表ですね」
 部屋の中には男がひとりいた。フェデレーション
の礼服を着ている。椅子に座っていた彼は変に静か
な色をした瞳をセレスに向けた。
「君達は?」
「代表、ここから移動を願いたいのですが」
「移動?」
 ビアンキは柔らかく答えなからも、決してその様
子に隙を見せなかった。
「どうやら君達はグワイヒアから来た訳でもなさそ
うだね。大統領の命令かい?」
セレスが答える。
「……いいえ。ともかく、今はお話している暇はあ
りません。速やかなご判断を願います。ただ、私達
に従って戴かなけれぱこちらとしても考えはあるの
ですが」
 ビアンキは立ち上がった。
「つまり……ああ、そういう事か。しかしまあ、ラ
ウル君も大変なんだな、色々と」
 そしてぶたりの方が驚く位、呆気なくビアンキは
こちらに近づいて来た。チャンス、とアキは当て身
をくらわせようとしたがビアンキは実にさりげなく
それを避けて見せた。
「いや、私だって大の大人だからね。君達に担がれ
て移動するのは少し気恥すかしいよ」
 セレスはアキに目配せした。ここは下手に気絶さ
せてしまえばそれだけふたりに移動の負担がかか
る。ぎりぎりまでビアンキには自力で歩いて貰った
方がいいだろう。
ルーファー・アディスンは首を傾げた。
「何だ? セキュリティが解除されてるぞ?」
 彼はハワード・アルミオンと共にグワイヒア側に
向けてさっきから偽の情報を流し続けていた。いわ
く、ビアンキの居場所のダミーであるとか、ビアン
キは既に死亡した旨などである。その途中で彼らは
事実関係の確認をしていた。嘘をつくためにはそれ
以上に真実を知っていなければならないのだ。
「セキユリティが? グワイヒアのメンバーが解除
したんじゃないですか?」
「いや……違うな。どうやらこっちの連中の仕業ら
しいぜ、情報部が大騒ぎしてる。敵さんがやって来
てやったってぇならそりやあ当然なんだけどな」
 ハワードはルーファーの言葉に思わず嘆息した。
「まさか身内からそんな事されようとは。しかし誰
とは知りませんがビアンキさんを連れ出して何処に
連れて行くんでしょうね?」
「んな事知るか」
 しかし嘆いている暇はない。ふたりは再ぴ事態の
把握に取りかかった。

「……ここと……よし、ここなら大丈夫だ。間違い
ねぇ」
 イカロス・イーザーが頷いた。彼のホビットの
ディスプレイには官公庁区域のマップが写し出され
ていた。あちこちのポイントに何か警告が出てい
る。どうやらそれは警戒区域を示している様だっ
た。
「エイミー、間違いねえんだよな?」
 彼のカスタム・フェイドラ、エイミーは頷いた。
「このルートの安全率は96.755パーセントで
す。他候補37ルートの内、該当ルートが最高の数
字です」
「だそうだ」
 イカロスの言葉に橘桔梗が頷く。彼女もまた、ホ
ビットを開いていた。桔梗は手早くグワイヒアの管
制にアクセスし、イカロスとエイミーの調ぺたルー
トをそちらに流した。
『こちらグワイヒア管制室』
「救出班に伝えて。こちらで調査した安全ルートよ」
『了解。協力感謝する』
 通信は手早く終わった。あまり長く繋いでいると
探知される危険性があるのだ。敵地のど真ん中であ
るここで探知されるという事はそれすなわち死を意
味する。
「しかしこの状況下で向こうのみんな、信じてくれ
るのかなぁ」
 通信を横から覗いていたトリム・ライトがそうひ
とりごちた。彼の懸念はもっともである。先程から
偽情報が敵味方問わす飛び交っているのだ。正直、
イカロスにも桔梗にもグワイヒア側が自分達の流し
た情報を信用してくれるのかどうかまでは分からな
かった。
 しかし、今彼らかビアンキ代表とフェデレーショ
ンのために出来る事はこれ位なのだ。まあもっとも
探せば色々と手段はあるのだろうが。

 使節団は全員で4人いた。彼らは皆1室に入れら
れ軟禁されていたのだが……。
「おい、ドアが開いたぞ!」
 ライラック・レジニアがドアノブを掴んで声を上
げた。グレモリー・ランツが信じがたい、といった
口調で聞き返す。
「何だよそいつあ」
「わたしにだって分からない。だがほら、見ろよ」
 男っぽい口振りでライラックはドアを軽く押して
見せる。横にゆっくりとドアはスライドし開いた。
「セキュリティ自体が切られたみたいですねぇ」
 おっとりとしながらも的確に事態を推測する柴田
久住。彼女がドアの脇にあるセキュリティコンソー
ルをかちかちといじるが何も反応はない。
「誰か! 誰かいますかあ!?」
 4人がドアを開け外に出ようとするとそんな声が
聞こえた。廊下の向こう側からフェデレーションの
制服を着た女性が3人出て来た所だった。
「安心しろ。助けに来た」
「グワイヒアのメンバーか?」
 浅石喜四朗が問う。3人はそれぞれに頷いた。黒
髪のきれいな女性が言った。
「大丈夫だよ。脱出ルートはここに潜伏していた仲
間から教えて貰ったから」
 ライラックは頷いた。間違いないだろう。他のふ
たりも頷く。そうふたりは頷いたのだが。
「浅石さんは?」
「ここに残る」
「何ですって?」
 ライラックが思わす声を荒げる。
「何言ってんだ! ここにいたら何されるか分から
ないぞ?!」
「いいんだ。ただ逃げ出すのは気にくわん」
「でもぉ」
 久住がおろおろとするが、ライラックは吐き捨て
る様に言った。
「分かった。好きにすればいいさ。ただ命を粗末に
だけはしないでくれよ」
「んな事ぁ分かってるさ」
 喜四朗はかすかに笑った。と。
 銃声。
「グレモリー!」
 ライラックか気づいた時にはグレモリーがまるで
紙人形の様に力なく倒れる所だった。一瞬、何か起
きたか分からずに久住が笛の音の様な声を上げた。
馬鹿馬鹿しい。銃声が聞こえて人が倒れたのならば
起きた出来事はひとつだけなのに。
 倒れたグレモリーには苦悶の表情などなかった。
むしろ助かった、という安堵感が残っていた。そう。
助けが来た、これでフェデレーションに戻る事が出
来るという、死の直前まで彼を満たしていた安堵
が。
「誰!? ……向こうからね!」
 きつめの美人が銃を構えた。彼女の言う通り、通
路の向こう側に人の気配。
「……くそ! 走るぞ!」
 ライラックが叫んだ。銃の類はとっくに取り上げ
られている。逃げるしかない。速やかに。迷ってい
る時間はもう多分、ない。
「ぴいっ!」
 もう一度、銃声と悲鳴。笛の音の様な。
「久住!!」
 今度は喜四朗が悲鳴を上げた。使節団最年少の久
住の華奢な身体は、見事なまでに銃弾に貫かれてい
た。壁に飛び散る血痕。緋色の人の命の証。丸めて
捨てられた紙屑の様に転がる彼女の体躯。
喜四朗が絶叫する。
「早く!早く逃げろ!! 全員殺すつもりだぞ奴ら
はっ!!」
「ライラックさんだけでも、早く!」
 ライラックは死体を見、そして走り出した。
     @     @     @
 アルバは港まで走るための車を探していたのだ
が、いかんせんこの時間である。ほぼ無人であるこ
の官公庁区域では中々それも叶わなかった。
『アルバさん!』
 聞き慣れた声がした。コムニーからだ。
「……どうした。ビアンキ代表はどうなった?」
『まずいですよ。ラウルさん、どうやら怒ってるみ
たいなんです』
「何だって?」
 アルバは己が耳を疑った。彼が把握したデーモ
ン・ラウルという人間は、結果を求めるタイプであ
りその過程になど興味はないというタイプであっ
た。
『スタンドプレーは認められないらしいです。所詮
私達は犬ですからね。勝手に鎖を千切って外に出て
獲物を狩って来たところで、ラウルさんは千切られ
た鎖の方が腹立たしいって……っ!』
 と、そこで不意にアキが息を呑むのが通信越しに
分かった。アルバは本能的に何かを察知した。
「どうした?! おいっ! 返事位……」
 コムニーの通信が、向こうから切れた。
 ちいんっ
 月詠きじきの放った銃弾は、アキが持っていたコ
ムニーに当たって甲高い金属音をたてた。コムニー
はアキの足下に転がった。
「おやおや、誰かと思えばビアンキさんではないで
すか。一体どちらへ?」
「それは私の方が訊きたいな。一体私は何処に連れ
て行かれるんだい?」
 きじきが問いかけるとビアンキはそう問い返し
た。そんなビアンキの両脇を固めているのはセレス
とアキだ。
「はんっ! 抜け駆けこいたってぇのはてめえらか。
悪い事ぁ言わねえ、とっととそのすかしたおっさん
元に戻してくるんだな!」
 指をばきばきならしながらブライアン・マイク
シャープ。羅真山(ロー・チェンシャン)も頷く。
「そうだな。貴様らが何企んでるのか知らないが、こ
こで下手にそいつを外にさらしておけばそれだけ向
こうに奪還される危険性があるって事だ」
「こちらとて、みすみす奪われるつもりなどありま
せんよ」
「どうでしょうねぇ」
 きじきが奇妙な程に穏やかに笑った。セレスは不
意に気配を感して当たりに目を素早く走らせた。ビ
アンキが眩いた。
「おふた方、どうやら囲まれたみたいだが」
 3人の回りを、何時の間にか機構軍のメンバーが
取り囲んでいた。
 真っ先に動いたのはブライアンだった。
「観念しやがれっ!」
 それが合図となり、官公庁区域の一角はほぼ乱戦
状態へと突入した。
「ビアンキは殺すな! 閣下の命だぞ!」
 真山が鋭く叫ぶ。体勢を崩したセレスとアキの隙
をついて、ピアンキが逃げ出すのが視界に入った。
「……しかし逃がしてしまっては元も子もない」
 真山はビアンキを追いかける。ビアンキは路地へ
と入り込み−−−どうやらグワイヒアのある港へと
向かっているらしかった。

 ビアンキは手近な路地に入り込み、一息つくとエ
ングラムグローブを引き下ろした。
(誰でもいい。返事してくれないか……)
 彼のエングラムが白い光を放つ。
(誰か……)

「え?」
 誰かに、呼ばれた様な気がしてコオ・フレデリッ
クは立ち止まった。グワイヒアの救護班所属である
彼女は怪我人の救助に走り回っていた。
「誰か、いるの?」
 エングラムだ。誰かが、エングラムで呼びかけを
発している。具体的には分からないが、何となくそ
んな気がした。誰かが深手を負って動けずにエング
ラムで助けを求めているのかもしれない。
(何処?)
 コオもまた、エングラムでその軌跡をたどろうと
する。トレースして行くとそこは昼間の明るさに支
配されている今でも薄暗い路地裏だった。その薄い
闇の中に確かにエングラムの光。
「どうしたの!?」
 コオの問いかけに返って来たのは静諡な、しかし
優しい声だった。
「ああ、君は……グワイヒアのメンバーだね?」
 コオは暫しその声の出所を凝視していた。暗さに
いまひとつ目が慣れない。
 少々の間をおいて、声の主を視界に確認したコオ
は思わす声を上げずにはいられなかった。
「ビアンキ代表?!」
 確かにそこにはフェデレーション代表、アントニ
オ・ビアンキがいた。彼はグロープをさっと引き上
げるとしっ、と指を唇にあてて見せた。
「静かに。すぐに追手が来る。君、グワイヒアまで
のルートは知っているね?」
「え、は、は、はいっ! さっき安全なルートが伝
えられました。えっと、そのグワイヒアまでの」
「それはラツキーだ」
 ビアンキは微笑むとコオの元にやって来た。コオ
の身体が反射的に硬直する。無理もない。他の誰で
もない、フェデレーションの若き代表が自分のすぐ
側に来ているのである。ビアンキはくす、と笑いを
漏らすと頷いた。
「グワイヒアに案内してくれるね?」
 コオは壊れた機械人形の様にがくがくと頷いた。
「こ、こ、こちらです」
 そして自分が入って来た方の路地の出ロヘと走り
出した。ビアンキも小走りにそれを追う。
 ふたりは逆の通りに出た。コオがきよろきよろと
する。
「ええと……確か……」
「ちよっと待ちな」
 唐突に冷たい声がした。見ればふたりの背後にや
はり唐突に男がひとり、ピース・クリイターを構え
て立っていた。
「ビアンキ代表。貴様に今ここで逃げられる訳には
いかない」
 男−−−真山はそう言うとトリガーにかけた指に
微妙にカを入れた。ビアンキの顔つきが変わる。コ
オは震える事も出来すにただ呆然と立ち尽くしてい
る。
 ビアンキはコオを促し、両手を上げた。暫し戸
惑った後、コオも手を上げる。
「それでいい。妙な事を考えるなよ」
[ひとつだけ頼みがあるんだが」
 ビアンキはコオを見た。そして次に真山を見た。
「彼女は何も罪はない。君達が欲しいのは彼女の命
ではなく私自身の身柄だろう? 彼女は逃がして
やって欲しいんだ」
 一瞬の迷いもなく真山は答えた。
「そうはいかない」
 ビアンキの顔つきがさらに厳しくなった。しかし
その横顔が次の瞬間唐突に惚けた様な、驚いた様な
ものへと変貌した。コオもそれに気づいてはっとす
る。呼びかける。すぐ脇で立ち尽くしている彼に。
「代表?」
「……ディア……?」
 ビアンキの口からそんな言葉がこぽれた。それき
り彼は動かない。時を止められたかの様に。
「甘い!」
 真山の銃が火を噴いた。コオ目掛けて銃弾がその
隙をついて放たれたのだ。コオは目を見開いた。死
ぬ。そう思った。銃で撃たれれば死ぬ。死なない事
もあるが目の前の機構軍の男は自分もビアンキも殺
そうとしている。だから死ぬ。そう思った。
しかし。
「……ぐっ!」
 次の瞬間に来る、とコオが思っていた激痛は来な
かった。激痛を通り越して恐らくは恍惚ですらあろ
うそれはコオの身体には起きなかった。代わりに五
感を刺激したのは声。刺激された五感は聴覚。同時
に触覚が酷く限定的に働く。不意に誰かが自分に抱
きついて来た様な気がした。抱きつき何かから自分
を引き剥がそうとしている様な、そんな感覚がし
た。
 どさ
 重い音がした。コオはふらと自分の足元を見た。
ベージュ色の、自分と同じ色のフェデレーションの
制服を着た背中が見えた。その一部が、みるみる内
に緋色に染まって行く。赤い色。自分を抱き止めて
いた腕が、ずるずると力を失って落ちたのも見え
た。
 コオの五感が一気に回復した。
「≪嫌あああっ!!≫」
 叫んだ。と同時にグローブの下で彼女のエングラ
ムも激しく明滅していた。コオは泣き叫びながら倒
れたビアンキの上半身を抱え起こした。ビアンキの
反応はなかった。コオの悲鳴を聴覚で、そしてエン
グラムで聞いたグワイヒアメンバーが駆けつける気
配がした。真山はそれを確認するとそこを素早く離
れた。あれは間違いなく致命傷だ。ならぱここにい
ても後は自分が不利になるだけだ。
「代表! 代表っ!!」
 そんな事など全く目に入らないコオは、尚も叫ぴ
ながらビアンキを揺すった。わすかに呻いて、ビア
ンキはごぼ、と血を吐いた。右の肺を撃ち抜かれた
らしかった。心臓なら即死だったが、肺でも充分に
危険だ。血液か肺に溜まれぱ窒息する。
 そして今更、事態を把握する。
 彼は自分を庇って撃たれたのだ。
「しっかりなさって下さいっ!!」
 止血をしなけれぱならない。救護班メンバーなら
当たり前に分かっている事なのに、もう頭の中がぐ
じゃぐじゃになってしまって、他のメンバーが集
まって来るまでコオは泣き叫ぶ事しか出来ずにい
た。
     @     @     @
フェデレーション代表、アントニオ・ビアンキの
身柄はグワイヒアメンバーにより奪還された。生死
は不明。致命傷を与えたという情報だけはこちらに
入ってはいたが。

 ラウルは秘書の報告に、思ったより落ち着いた反
応を示した。
「生死は分からない、そういう事だな」
「はい。ただ今全力をあげて調査中ですが」
 わずかな沈黙の後、ラウルが誰とはなしに呟くの
が聞こえた。
「……まあいいだろう。他に手段はある」
「手段、ですか」
 秘書は問いかけたつもりだったのだが当然の事の
様にラウルはそれ以上答えようとはしなかった。そ
して突如立ち上がるとこう言った。
「数日中に、火星からロス・アラモスに荷物か届く。
それか届き次第そちらに移動する」
「はい」
「お前は来なくていい」
「は?」
「来るな、と言っているのだ。何度言わせる?」
まさに晴天の霹靂であるその言葉に秘書はただ
きょとんとした。ラウルはえぐる様に彼女を見た。
「お前にはもう用はない。……度重なる失態に、限
界まで譲歩してやった結果だ。感謝しろ」
 そして本当に用はないといった様子で、ラウルは
部屋を靴音高く出て行った。

 結局、ビアンキ代表をフェデレーションに奪還さ
れた事によりラウルの専属秘書官を初め、コロニー
管制室、情報室などその他防衛セクション関係者が
多数、総司令官デーモン・ラウルの名の元に即日解
雇された。
 またそれと時を同じくして、フェデレーション代
表アントニオ・ビアンキの生存が確認された。
     @     @     @
 数日後、無人と見られる小型宇宙船が一隻、ロス・
アラモスに入港した。開発機構軍の敵味方識別信号
を発しながら。しかし、船は機構軍には存在しない
種別だった。
 反物質船。フェデレーションが実用化し、彼らの
みが保有する『アタランテ改』級だ。
「積み荷は?」
『分かりません』
 アメリア・カッシーニは新たに機構軍情報室に採
用された通信オペレーターだった。彼女はロス・ア
ラモス管制塔からの通信に首を傾げた。
「分かりませんって……一体どういう事ですの?」
 向こうの管制官はアメリアの詰問の様な言葉に暫
し答えに窮している様だった。
「まあよろしいですわ。とにかく、気をつけて扱っ
てちょうだい」
『了解しました。確認し次第連絡します』
 通信を一旦切る。同しく新たに採用されたオペ
レーターである吉沢はるひがアメリアに声をかけ
る。
「一体何だったのお?」
「いえ、ロス・アラモス港に何か予定にない船か着
いた様なんです。中身は今、向こうの皆さんか確認
している所ですわ」
 はるひは新調したサーモンピンクのスーツのボ
ケットからキャンディを出して口に放り込んだ。も
うひとつはアメリアに手渡す。
「あ。ありがとうございます」
「ううん、いいのよぉ別に☆ でもロス・アラモスっ
て言えばもうすぐそっちに引っ越すんじゃなかっ
たっけ私達も?」
 キャンディをもぐもぐとやりなからはるひ。アメ
リアは頷く。
「ええ。数日中にはという話ですが……」
『情報室、応答願います』
 と、その時何か酷く焦った様な口調で通信が飛ぴ
込んで来た。
「何? そんなに慌てて」
 はるひが返答する。
『いえ、その反物質船−−−船名『ジェイムズ・フッ
ク』−−−の中身が判明しました』
「何だったの?」
『女の子です』
「はぁ?」
 はるひは勿論、アメリアも唖然とした。情報室の
メンバーも何事かと集まり始める。
「女の子って、どういう事?」
『それはこちらが訊きたい位ですよ。兎に角、女の
子がひとり拘束された状態で入っていました。白人
で年齢は11・2歳。外傷その他身体的異常は見受
けられません』
 はるひはアメリアと一瞬視線を合わせたが、すぐ
にモニターに向かって指示を出した。
「分かりました。とりあえずそちらで彼女の身柄は
預かってておいて。こちらは総司令に指示を仰ぎま
す。次の指示を待っていてちょうだい」
『了解しました』

 積み荷の名は、ディアナ・モリソン。
フェデレーション代表、アントニオ・ビアンキの
ネイバーの少女であった。

 ラウルはその本拠をヒューストンコロニーから同
L4コロニーのひとつ、ロス・アラモスヘと移した。
このコロニーは、一般住居区域の多かったヒュース
トンコロニーと比ぺるとかなり無機質な香りのする
空間だった。別名は『ロス・アラモス国立科学研究
所』。つまり学術研究施設が殆どを占拠しているコ
ロニーである。

 ラウルの新しい執務室に、ディアナ−−−ディア
は通された。ラウルは人払いをかけると執務机に
座ったまま、こちらを見据えている少女を見た。
「私の名前は知っているな?」
 ディアは頷いた。
「でもお母さんはいつも名前を自分で言わない人の
言う事聞いちや駄目って言ってました」
 可愛げがない、という訳では決してなかった。毅
然とした態度。心細さを悟られまいとする気概すら
相手は見抜いているというのにそれにすら気づかな
い、無垢さがディアにはあった。
 ラウルはかすかに笑った。誰にも見せない表情。
「随分と気が強いな。ふふ、まあいい、それ位がちょ
うど良い」
 それは普段のすさんだ笑みでもなければ造りもの
じみたアルカイック・スマイルでもない。
 ただの、微笑。ごく自然な。
「お前は地球生まれか?」
 ディアは首を横に振る。
「火星です。火星で、お母さんと一緒に住んでまし
た」
「母親か」
 ほんの一瞬ラウルは何処か遠くを見た。そしてす
ぐにディアを見た。
「残念ながらすぐに母親の元に帰してやる訳にもい
かないが、その間悪くはしない。部屋とメイドをふ
たりつけてやる。不満があれば何でもそのふたりに
言え」
 ディアが突然自発的に言葉を発した。
「太統領は」
 ラウルは顔をわずかにしかめた。
「ラウルでいい」
「……ラウルさんは、おじ……代表に酷い事をしま
したね」
「撃った事か」
「そうです。何でそんな酷い事をしたんですか?
おじさんは、凄く苦しそうで痛そうで悲しそうにし
てました」
 まるで自分の事の様に辛そうに言うディアに、ラ
ウルは眉を少し動かした。
「撃たれた瞬間を共有したみたいな言い草だな。さ
すがはネイバー、といった事か」
「どうしてですか?」
 尚もディアは間う。ラウルは少しの沈黙の後、答
えた。
「……自分で学ぴ取れ」

「芹香、アーネスト、入れ」
「はい」
 名を呼ばれてぶたりのメイドはラウルの執務室へ
入る。芹香・ウィルフレッドとアーネスト・W・V
である。
「お前達にはこのディアナの専属になって貰う」
「かしこまりました」
 アーネストが頭を下ける。彼女はディアとほぼ同
年代だ。芹香の方が年上になる。
それではディアナさん、お部屋に参りましょう。こ
のお部屋のお隣ですので。……失礼致します」
 芹香とアーネストはディアを連れてラウルの執務
室を出た。
 ドアが閉まると同時に、ディアがぽつりと呟い
た。
「……ラウルさんって」
「え?」
 アーネストか聞き返した。と、ディアは微笑むと
首を横に振った。
「ううん、何でもないです」
     @     @     @
 数日後、太陽系をかけ巡ったニュースがあった。
 太陽超新星化。
 太陽系未曾有(みぞう)の危機の一報である。

 ラウルはその報を聞き、しばらく沈黙した。
 重苦しい、息苦しいまでの沈黙。
 そして再び口火を切ったのはやはりラウルだっ
た。
「間違い、ないんだな」
「……はい」
 秘書達が一旦集められていた。その秘書達もさす
がに皆不安げだった。
「Xデーは9月17日の前後4日間。フェデレー
ションの発表によれば、イーディス・スクアズビー
助教授の計算です」
「知らん名だ」
「ウルトラ・スーパー・スペシャル・グレート・デ
ラックス・カミオカンデ・EXの観測と再計算の結
果、否定する要素は見あたらないそうです」
 ラウルは指を顎に当てた。
 太陽の超新星爆発。太陽系全てがその爆発に巻き
込まれるのは必至だ。それはすなわち、人類の最後
を示している。
 全てが滅ぶ事など、意外と呆気ないものなのだ。
 実際こうして、実に唐突に滅ぴの知らせか届いて
いる。
「カミオカンデか。……間違いあるまいな」
 ラウルは全てを確信した様だった。

「親愛なる地球の民よ、今、我々は太いなる危機に
瀕している。地球全体がである!」
 ほんのひと月前の再現を見ている様だった。
 眩い光に照らされた演壇。あの日あの時と同じ様
にして、ラウルはそこにいた。

       《デーモン・ラウル》

 ロス・アラモスコロニーには、大勢の人々が集
まっていた。ラウルがフェデレーションに宣戦布告
をした時よりも更に大勢の人々がそこにはいた。そ
ら恐ろしいまでの熱気。焦燥。期待。
 それら全てを一身に受けて、ラウルは言葉を紡
ぐ。
「昨日のニュースは聞いただろうか。あるいはフェ
デレーションが我々を混乱さぜるために流した情報
と諸君は考えたかもしれない。彼らの使いそうな卑
劣な手ではある。
 しかし、我々のカミオカンデによる調査の結果は
太陽の異変を発見していた。諸君、危機はすでに
我々のすぐ側に来ているのである!」
 人々の間に改めて恐怖が駆け抜けた。ラウルの言
葉により人々は恐怖を新たにしているかに見えた。
悲鳴とすすり泣きの声か漏れる。神に祈りを捧げる
者。ラウルに祈りを捧げる様な仕種をする者。人々
の、恐怖が徐々に実体化しつつある様だった。
「諸君! 我々は、確かに地球を愛している。
 我々は、我々自身の生命を育んだ青い星の事を愛
してやまない。これは揺るがしがたい事実である。
 しかしそれは地球と共に滅びの、破滅への道をも
その大地と共にすぺきであるという事を示している
のであろうか?」
 静かに、諭す様にラウルは言う。しかしそれは激
しい反論の火を抱え込んだ静けさだった。人々の恐
怖は、最高潮に達していた。
 ラウルはそれを断ち切る様に、一喝した。苛烈に。
語調を爆発させた。
「否、断して否である!
 我々が自らの境遇に酔いしれ、何も知らぬままに
滅びの運命を共にする。そんな事をこの母なる星は
望んでいるのだろうか? いや、決して望んではい
ない。
 むしろ自らが生み出した尊い光である我々を、こ
こで無意味に散らせてしまう事は、母なる星は許し
難い悲劇として、耐え難い屈辱として捕える事であ
ろう!
 増え過ぎたレミング達は、いすれ自ら海に飛び込
み自らの命を断つという。
 しかしそのレミング達を諸君は勇敢だと思うだろ
うか?
 我々はレミングではない。何も考えず自ら事態を
改善しようともせず、ただ惰性のみで生きる獣では
ない!
 我々は、知性持つ人類なのである!」
 歓声が沸き起こった。人々の発する独特な熱気。
人々の憤りと不安感と焦燥感が、ラウルの言葉に誘
爆したかの様に次々と爆発した。
 そうだ自分達は人間だ。
 地球で生まれた人類だ。
 死にたくない。死にたくない。死にたくない。
 人々の主義主張思考感情の全てが、そこへと集結
した。人間が誰しも持つ生存本能が彼の言葉とその
場の空気に酷く刺激されている。
「それを自ら再認し、そして輝かしい末来のために、
我々はこの危機的状況から脱しなけれぱならないの
である!
 自らを、自らの尊い命をまさに今、救わなければ
ならないのである!
 諸君、立ち上がる時はまさに今なのだ!」
 うねる様に、生き物の様に歓声が巻き起こった。
 ラウルは手を差し上げその歓声を一旦静める。
 そして、低く続けた。
「ならぱ、我々を救うのはフェデレーションか?」
 問いかける。ラウルは絶望的に首を振る。
「否、断じて否である。彼らに我々を救う意志はな
い」
 人々の間に憤りが瞬時ににじみ出た。
「彼らに我々を救える力はない!」
 人々の間に失望と軽蔑が湧き出した。
「我々を救いうるのは、我々自身しかないのだ!」
 人々の間に再び歓喜と異様な昂揚感が満ちた。
「我々は、この危機を回避する力を自らの手で切り
拓かなけれぱならないのだ!
 どうするか?
 その術は彼らが独占している。思い上がったフェ
デレーションがだ! 彼らが無責任に逃げていくの
を見逃すわけにはいかない。
 我々に残された道は、フェデレーションを打倒
し、彼らの持つ技術を当然あるべき我々の手に取り
戻して、新たな星を目指すしかないのだ!」
 ラウルはき、と中空を睨む。そこにフェデレー
ションそのものを見ているかの様に、憎々しげに睨
んだ。
 そして拳を振り上げ、喉も切れんばかりに絶叫し
た。
「これはこの地球に生きとし生けるもの全てに平等
に与えられた、生きるための当然の権利である!
 人類の叡智は、決して選ばれた一部の人間のもの
ではない。叡智の結晶である技術は、人類全てのた
めに行使されてこそ、真の叡智足りえるのだ!!
 地球の民よ、我々は座して死を待つわけにはいか
ない。専制者に末来を委ねるわけにはいかない。
 戦おう。地球の民よ!
 勝利と未来をこの手で掴み取るために!」
 人々は口々にデーモン・ラウルの名を叫び続け
た。いつまでもいつまでも、その祈りの様な歓呼の
潤は止む事はなかった。

 芹香とアーネストに連れられて、ディアはラウル
の演説の場に立ち会っていた。
「芹香さん、アーネストさん」
 ディアが問う。ふたりは問い返す。
「ラウルさんはどうしてこんなにおじ……代表や
フェデレーションの皆さんの事を嫌うの? フェデ
レーションの人達はみんないい人ばかりなのに。エ
リーさんとか、マリエさんとか、あおばちゃんとか
……」
「ディアナさん」
 アーネストは黙って俯いてしまう。芹香はそっと
ディアの手を   エングラムのある右の手を握り
締めた。

 この演説により、再び地球諸国は国連へと集結し
その結束を確実なものとした。残る国々は永世中立
国であるスイスを初めとするヨーロッバの一部、先
の開戦時に国連を脱退、フェデレーション寄りの姿
勢を崩していないプレステル公国のみとなった。
 そして態度を明確にしていなかったL4コロニー
の一部、そして月面地球サイド都市の一部もまた、
宇宙開発機構軍への協力を表明した。
 今まさに80億の人々は、一丸となってフェデ
レーション打倒へと動き始めたのである。

≪お知らせ≫
●デーモン・ラウル総司令官が現在指示している対
フェデレーションの作戦行動は以下の6つです。こ
の内1から4の作戦に参加を希望する方はそれぞれ
の作戦の責任者に連絡をとり次回行動の確認をして
下さい。5と6に関しては次回リブライの冒頭に作
戦に参加の旨を明記しておいて下さい。
1.プレステル公国王子、グローリアス・ヴィクト
リアヌス2世の誘拐若しくは抹殺。
(責任者:九条雅也)
2.月面フェデレーションサイド都市の軍事制圧。
(責任者:佐渡島・フォン・犯衛門)
3.小惑星帯におけるフェデレーションスペース
ガード戦術担当(ストラテゴ)、主席および次席の
抹殺。私略船団の援助。
(責任者:キヤプテン・キャット)
4.火星、シミズ・シティのシステム面からの内部
制圧。
(責任者:ミュラー・フォルケン)
5.護衛部隊の設立。次回以降は主にディアナ・モ
リソンの奪還を目論むフェデレーションメンバーの
迎撃を行なう。
(尚、この部隊の責任者はラウルの秘書のひとり、
フェイス・シャトナーですが、実際の権限はラウル
が握っているものとします。この部隊は少数精鋭と
します。上限は10名で、希望者多数の場合は技能
と行動を見た上でラウルか採否を判断する事になり
ます)
6.研究所での各種兵器群の開発行動。主にクロー
ン兵器やエングラム兵器など。
(提案された案について、ラウルからその兵器の利
点などについて説明を求められる場合があります)
7.本星スペースアカデミーの元学長、サミュエル・
ゼーゼマンへの支援。
(ゼーゼマンは木星上の無人プラントプレーンにて
活動中です)
●ラウルの方針に従って、今回役職、肩書きを望ん
だPCには「常識で考えて機構軍内に存在しうる役
職」が与えられています。システムでは発行してい
ませんが、リプライをかける際の判断基準として下
さい。
●リプライ用紙に不備かある方が今回かなりの数見
受けられました。次回よりシステムによる出力にな
りますが、捕足用紙等を使用する際には今一度ご確
認下さい。尚、リプライはお手数でもペンでご記入
下さい。鉛筆書きのリプライは作業中に掠れて判別
出来なくなる可能性があります。ご注意下さい。