未来へのギャンブル・・サンベルン・ローク・・

賭けてみようか。自由の色をした眩しいルージュに。
俺の命をすべてチップにして…。

サンベルン・ローク、と言えば若いなりにそれなり、名の知れたギャンブラーとして
有名だった。探偵でもあるが、そちらの方はまあ、まだ若いこともありそれなりだ。
だが、ギャンブルの世界は違う。カンと運。それだけがすべての世界において彼は
かなりの実力者と呼ばれるものだったのである。
彼は努力によって何かが報われる、そんなことは幻想だと思っていた。
情熱があれば、何かがかなえられる、そんなのは夢だと、彼は思っていた。
世の中はいつも不条理が支配する。
努力や情熱によって何かかなえられたためしは無い。家族も、自分自身も。
そんな世界が嫌いで、そう思えてしまう自分が嫌いで、彼はギャンブルに打ち込んだ。
努力や情熱ではどうすることもできない世界に身を置いて勝ち続ければ、本当の強さが
手に入る気がしたのだ。

だが、いくら勝ち続けても、負けて何かを失っても、彼の心は空虚なものが支配する。
まるで自分自身がギャンブルのように不確かな存在に感じられるからだ。
カード、コイン、ルーレット、サイコロ。誰かに操られ姿を変える運命そのもののように。
だから、空を見上げるのが好きだった。キレイな空気を吸うのが好きだった。
空は、誰にも支配されない自由な世界に思えたから。
地上と違って束縛されない、自由な世界に…。

いつの頃からだろうか、その空に大きな神殿がそびえ立つようになったのは。
神帝軍の侵略、いや支配と統治が始まってロークの心にささやかな反抗が生まれた。
まるで、自由の空さえも支配されるような不快感。
それは、指先に刺さった小さな棘のようなもの。
気にならないわけではなかったが、気にするほどのことでもない。
そう思っていた。そう、あの時までは…。

カタン!ロークの足元に何かが落ちた。
だが、そんなことは気にならなかった。彼の心を支配したのはたった一つのこと。
「なぜ!!」
彼の目の前に広がるのは一面の焼け野原だった。
ここは、ごく普通の住宅地だったはず。
そして、ごく普通に俺の家族が住んでいたはずだった。
「なぜ??」
その答えはほどなく提示された。
神帝軍の支配。その力を表す為の見せしめにほんの小さな「神の火」が落ちたのだと言う。
「空」から
ほんの小さな「火」。
だが、その「神の火」は懸命に生きる人々の未来を永遠に奪っていったのである。
「どうして…。」
その答えに答えるものは、だれも居なかった。風すらも答えてはくれなかった。

やがて、彼はその答えを得られぬまま神帝軍に刃向かうようになる。
それは、あからさまなものでは無かったが、彼が初めて持ったギャンブル以外への積極的な
意思だったかもしれない。
ギャンブラー時代に得た人脈や情報で、神帝軍の邪魔をしようとしたのだ。
だが、それはギャンブルのように思った成果を得ることはできなかった。
むしろ、彼は日に日に感じるようになっていったのだ。
(この勝負。負ける!)
あれほど、不思議な活気を持っていた闇世界さえ、神帝軍の支配以降、日々平穏な空気を
漂わせていく。与えられた安寧が彼らの「欲」さえも奪っていくのだ。
ついに彼らは捉えられることとなる。
「神への反逆者」「魔皇の素質を持つもの」として。
その中にロークもいた。
その日を最後に、「闇世界」と呼ばれた世界のダークサイドは、すべて消えうせた。

神帝軍に捕らえられてから、死刑判決まではおそらく2日となかったろう。
明日の夜明けには死ぬ。そう思ってロークは逆らうことを止めた。
(俺は賭けに負けたんだ。)
最期の夜、最後のタバコに火をつけたそのとき、彼女が現れたのである。
「キミが、僕の魔皇?」
逢魔と名乗ったその女性は、自分が魔皇。神に反逆するものだと告げる。
赤い瞳を持つ小柄な彼女は、助けに来た、一緒に戦おう、と言う。
だが、ロークはその誘いに背を向けた。
「俺は、賭けに負けたんだ。人生と言う賭けにな。これから生きても無様に負けるだけ。
なら、素直にここで幕を引いてやるさ。」
だから、お前はとっとと帰れ。彼はそう言って彼女に、背を向け牢の床に寝そべった。
その言葉に、彼女が何を思ったのか、ロークは背を向けていたから解らない。
数瞬後、異様な音にロークが振り向いたとき、牢の扉は飴のように曲げられていた。
何が起きたのか、ロークには解らなかった。
バシン!
頬を彼女に思いっきり打たれるまでは…。
「この大バカ!賭けに負けたのなら、何度でも挑めば良いことだろう。あんたにはまだ
命と未来がまだ残っているんだから!」
あんたには、わかっている筈だ!彼女はその真っ赤な瞳で真っ直ぐ自分を見つめた。
燃える炎のような熱い目は、ロークの心の中に、小さな火をつけた。
それは、すべてを燃やし尽くす残酷な火ではない。
自分の中に消えていたと思っていた、いや、必要ないと自分で思って消していた情熱の火。
(俺には、まだ何かができるのか。俺を誰かが必要としてくれるのか…。)
「俺は、変われるのか…。」
小さく問い掛けたロークの言葉に彼女の顔は輝く。
「あんたが望めば!あんたは無限の力持つ魔皇なんだから。」
「お前は、俺について来てくれるのか…?」
彼女は頷く。
「あんたが望めば。ボクはあんた、いやあなたの為の逢魔なんだから!」
ロークは目を閉じた。このまま運命に流されたまま終わってしまった方が楽かもしれない。
でも、この一世一代の大勝負。逃げたらギャンブラーでも、男でもない。
今、もう自分には何も無いのだから。これから失うものは何も無いはずだ。
何かが得られたら、大もうけじゃないか。
「よしっ!」
ロークは目を見開いた。彼の黒い瞳が真っ直ぐに、目の前の彼女の赤い瞳を見つめた。
「お前に賭けてやる。その二つのルージュに、俺の命、すべてチップにして。」
彼女は初めてのロークの前を向いた言葉を受け止めた。
「ウン!」

黒銀の光に包まれたとき、ロークは感じていた。
不思議な炎に焼かれ、冷たいような熱いようなものが身体の中から生まれてくる。
(変わる。自分自身が、心が、何かが…変わる!)
ドクン!
心臓の奥が大きく鼓動したとき、
気がつかないふりをしてしまいこんでいた自分の力が、心が今、目覚めた。

彼が目を開いたとき。輝く赤い瞳が彼を出迎える。
俺が賭けた、希望のルージュ…。
彼女は笑う。
「ようこそ、ローク。新しい世界へ。」

「それにしてもさ、ロークって相変わらず無愛想だよね。こんな賑やかなところにいるのにさ。」
蒼月の間の結界の中で、逢魔セイレーンはロークの横でその肩を突付いた。
皆で夕食を食べ、デザートをそんな話をしている中、一人壁に背を向けて佇むロークに
声をかけに来たのだ。手にはアイスのカップが握られている。
「そうか?俺としてはこの上なく変わったつもりなんだがな。」
ふっと唇を上げて微笑むロークにセイレーンも、くすっと小さな笑みを浮かべた。
「そうだね。ちょっとは変わったかな?
前のロークだったらお皿並べるなんて、絶対にしなかったもんね!」
「コラ!!」
腕を振り上げて怒る真似をするロークの口に素早くスプーンが差し込まれる。
「うぐっ。」
「一口あげるよ。」
にっこりと笑うセイレーンに誰かの呼びかけが届く。
「セイレーン、クレープ食べる〜?ロークさんもいかが〜?」
「今行く〜。ロークは?」
スプーンをタバコのようにくわえたまま、いらん、と手を振るロークに、セイレーンはもう一度
笑いかけると仲間たちの下へかけていった。
スプーンを外したとき、彼の口の中には、今まで感じたことのない、不思議なやわらかい甘さが
残り、消えていった。
ロークは思う。
自分は変わった。力を得て最初にここに来たのは、今まで自分の人生とは
かかわりの無かった言葉「守る」にどこか惹かれたからだった。
そして自分1人ではこの戦争に戦いきることは出来ないと痛感していたからでもある。
これほどまでに執着している自分が馬鹿に思えた。
だがそれでもいい気がした。
自分に何ができるか解らなかったし、人類なんてどうなってもいいと思っていた。
そんな自分をこの部屋の皆は受け入れてくれた。自分を信じると。
未来は変えられる、自分達は守れると、絶望の中で彼らは笑う。
いつしか、自分も何人もの仲間を受け入れ、何時の間にか変わっていたことに気付く。
守りたいと思う。人間を、仲間達を、彼らといるこの時を
そして、何よりも自分に笑いかけてくれる、あの笑顔を、瞳を守りたいと今、自分は
思っているのだ。
自分の意思で。
俺は、あの時、命を賭けたギャンブルで、探していたものを手に入れたのかもしれない。
自由と、仲間と、強さ。そして何よりもたいせつなものを・・・。

セイレーンは思う。
ロークに教えてあげたいと。
「だって、この世界はこんなに素敵なんだもん。」
花はキレイだし、動物達は面白い。空はキレイだし、空気は気持ちいいし、食べ物は美味しい!
でも、あの時出合ったロークは、そんなものからすべて背を向けていた。
黒い瞳は何も手に入りはしないと諦め、人生を捨てているように思えたのだ。
だから、教えてあげたかったのだ。楽しいと思う心を。
いろんな素敵なものを共に分かち合いたかったのだ。
正直言えば、戦いなんて痛いし、めんどくさいし、嫌だと思う。
でも、ロークと共に未来を分かち合うためなら頑張ろう、そう決心した。
「今はまだロークに頼ってばかりだけど、いつかロークを守れるようになりたいな。」

同じ未来に賭けるノワールとルージュ。

戦いという運命の中に生きる彼らのオッズは、まだ決まっていない。






オリジナルノベル、サンベルン・ロークさんバージョンです。

ギャンブラーというのをメインに書かせて頂きました。
人生の総てに絶望しながらも、空に自由を求めていた。
そんな彼が手に入れたものを、少しでも書ければいいのですが・・・。

人生は、素敵だと私は思います。
それを、みんなに伝えていきたいですね。

ありがとうございました。

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