心の形・・・タカセ・ミユキ・・・

心の形ってなんだろう。
私は、探したい。
何にも負けない強い心の形を…。

「ミユキ、また父さんに怒られたのか?」
「兄さん…。」
縁側で一人佇むミユキに、兄が声をかけた。
「ちょっと部活で遅れただけだよ。それなのにさ…」
ぷう、と頬を膨らませるミユキに兄は優しく笑いかけた。
「おまえは歌を歌うの好きだもんな。稽古は嫌いなのか?」
その言葉にミユキはぶんぶんと頭を振る。
「ううん、稽古も好きだよ。でも歌も好きなの。それっていけないことなのかなあ?」
「別にいけなくはないさ、歌で気持ちを表すのはいいことだと思う。
俺は、戦ったり、守ることでしか気持ちを表せないからな。
でも、それが俺の誇りだから…」
兄は強い目で笑う。そんな兄がミユキは大好きだった。
「ねえ、兄さんが守りたいって思う人はどんな人なの。」
高瀬家はボディーガードを生業とする一族。家族といえガード対象のことは
滅多なことでは口にはしない。でも、その日兄は答えてくれた。
「そうだな、強い心の形を持つ人ってところかな。」
「強い、心の形?」
「そうさ、あの人と同じ考えを持っていて同じことをしようとする人は
他にもいるかもしれない。でも、あの人ほど強い心の形を持ってそれに取り組む
人はいない。だから、俺はあの人を守りたい。命をかけて。」
尊敬する兄が、それだけ守りたい人。ミユキは少し羨ましかった。
その人も、そう思える人を持つ兄も。ちょっとつまらなそうに膝を抱える。
「ふーん。あたしにはまだよく分かんないな。いつかあたしも会えるかな。そんな風に
守りたい人に。」
「出会えるさ。いつか必ず、必ず会えるよミユキなら。」
二人の背に大きな声がかかる。同時に振り返ってその影を見た。
「父さん!」(×2)
道着姿の父の大きな影がそこにあった。
「高瀬の家は守る家系。世界を動かす強い心の持ち主を守るために命をかけてきた。
その人物は必ずどこかでお前を待っているのだ。」
父は自分を優しく見つめた。
「稽古や鍛錬は自分のためだけではない。その人と出会うため、出会って守るために
するんだ。歌を止めろなどとは言わん。でも稽古を怠るようなことはするなよ。」
父は、ミユキの頭をくしゃくしゃ、となでる。それを見て兄は楽しげに笑った。
「たくっ、父さんはミユキには甘いんだよな。いつも・・ふふ」
ハハハ。
夕暮れの静かな庭に明るい笑い声が響く。それは、もう取り戻せない遠い思い出…。

テレビのニュースが事件を報じる。
「嘘!嘘でしょ!?」
一人きりの部屋に電話の受話器を握るミユキの悲鳴にも似た声がこだまする。
「SP名門の家にテロリスト、SP一家全滅か?火災により死者数10名。」
ニュースはSP一家を目障りに思うテロリスト集団が犯行声明を出した。
ロケットランチャーなどによる奇襲で、集会のために集まっていた一族は誰も
逃げられなかったと、淡々と告げる。
「こんなの嘘だよ!父さんも、母さん、兄さんも。叔父様だって、みんなみんな
とっても強かったのに!!テロリストになんて負けるはずがないわ…。」
「でも、本当・・なのです。お嬢さま、落ち着いて下さい…。」
電話の声は、ミユキにはとても遠く聞こえた。
誰が信じられるだろうか。風邪で寝込んでいた自分以外の家族すべてが死んだなんて。

「風邪なんてたるんどるぞ。一族の集会に!」
父さん…。
「ゆっくり休んで身体を治しなさい…。」
母さん…
「お土産買ってきてやるからな。」
兄さん…

危険だ、という周囲の声を押し切ってミユキは家族の葬儀を行った。
葬式もしないで父たちを見送るなんて絶対に嫌!
そういうミユキを誰も止められない。
葬儀は大きな斎場でしめやかに行われ式場は花輪であふれかえった。
しかし、参列者の姿はほとんど見られない静かな式。
高瀬家に守られた者たちは、テロの危険を恐れてか、ほとんど姿を現さなかった。
代理のものすら来なかった。
(命をかけて守ってきたって結局こんなものだなんて!私たちのしてきたことって
一体なに!?)
やり場のない怒りを抱えたまま喪主席に座るミユキ。
その時、突然、式場に若い青年が息をきらせて走ってきたのだ。
驚きの表情をしたミユキの前で、彼は衣服を手で軽く整えると
失礼します。と頭を下げた。
彼はゆっくりと兄の遺影の前に立ち、深くお辞儀をし、静かに手を合わせる。
「あの、失礼ですがあなたは?」
「僕は、高瀬君に、命を救われたものです。いや、守ってもらっていたと言ってもいい。
彼は、ずっと僕を守ってくれた。大切な友でした・・・」
俯いた彼は頬を涙でぬらす。その時、ミユキには彼が兄の「守りたかった人」だと
分かったのだ。
「彼には僕と一緒にずっといてほしかった。夢を叶えるのを見てほしかった。」
強い心の形を持つ人。兄が言った言葉をミユキは思い出していた。
危険かもしれない葬儀会場に、自分のために死んだのではないボディーガードのために
彼は来たのだ。おそらく反対を押し切り、無理を冒して…。
兄は必要とされていたのだ。これほどまでに。
「彼に言えなかった分、言わせてください。本当にありがとうございました。」
「いいえ、こちらこそ本当にありがとうございました。兄もきっと喜んでいると思います。」
それは、社交辞令の言葉ではない、ミユキの本心。そして心からの感謝だった。

その後、ミユキは彼とは会っていない。どこの誰かも分からない。
だが、彼のことは深くミユキの心の中に残ることになる。

あれから3年。ミユキは引き取られた家を飛び出していた。
武道の稽古を続けるミユキにかけられたある言葉がきっかけだった。
「誰かが、誰かを守るなんて時代遅れ。」
「神帝さまがすべてを守ってくれる。」
その言葉にミユキは頭にきた。
父や母や兄、みんなの生き方を否定されたような気がして許せなかったのだ。
外に出て、神帝軍について知るうちに時々彼らが「魔皇狩り」と称して普通の人たちを
捕らえていくことを知る。そして捕まった人は二度と戻ってはこない。
「やっぱり、神帝はすべてを守ってなんかくれない。」
神帝への不信がミユキの中に育っていく。
以降、ミユキはホテルなどを転々とし、神帝軍にはむかう生き方をするようになった。
ミユキは魔皇狩りに出くわすたび、時には調べてその場所を探して、彼らの邪魔をして
回った。何人かは助けることができたと思う。
だが、やがてミユキ自身も「魔皇狩り」のターゲットとなる。
魔皇狩りを邪魔する危険人物ミユキ。
完全にマークされた状態での戦いで、聖鍵戦士の不思議な力の前で、彼女はその力を
発揮することはできなかったのだ。

神殿の中、薄ぼんやりした意識でミユキは思う。
聖鍵戦士がいない今、本気出せば逃げられるかなあ。
でも、もう面倒くさくなっちゃった。
導天使の甘い歌の残り香がミユキの思考を闇に沈ませる。
(ミユキ!何している!!目を覚ませ!!)
遠い闇の中で誰かが自分を呼ぶ声がする。
(そのまますべてを捨てていいのか!それでも高瀬の娘か!!)
(あなたを必要としている人が、あなたを待っていますよ。)
父さん?母さん?
(前を向け、耳をすませろ!強い心の形を見つけるんだ!!)
に・いさん?
(起きろ!ミユキ!!)
はっ!ミユキが目を開いたとき、不思議に妙に明るい声が耳に届いた。
「あっ!いたいた。あたしの魔皇。」
「え?」
顔を上げると神殿の上の方、窓のへりのところに腰をかける少女がいた。
自分を引きたてる兵士たちの足も止まる。
「誰だ!お前は!!」
「あたしはマオ。困るなあ。あたしの大事な魔皇を連れて行かれちゃあ。」
少女はひらりと自分の前に舞い降りる。少女はよく見れば人間ではなかった。
虎の尻尾と耳を持つ、いわゆる獣人だ。マオと名乗った彼女は飛び掛ってくる
兵士の攻撃をひらりとかわすとミユキの前に立って顔を合わせた。
「あたしと行こう!こんなところから抜け出してさ。」
(あたしを呼んでくれる、必要としてくれるの?)
ミユキの心の中で何かが熱く燃え上がった。熱い激情の赤。
「危ない!!」
マオの頭の向こうから、銃の狙いが付けられている。
そう感じたとき。ミユキは自分の手を捕らえていた兵士の手を強引に振り払い、
その反動で、兵士を投げ飛ばした。
マオは頭を下げ、兵士の一人が銃を持っていた兵士へとぶつかる。
結果、マオを狙っていた銃も狙いを外し空へと光を放った。
「サンキュ!」
ウインクしたマオの元にミユキは、駆け寄り、背中合わせに立つ。
「私はミユキ、高瀬・・ううんタカセ・ミユキ!
ねえ、あなたあたしと一緒にいてくれる?あたしの夢についてきてくれる?」
ミユキの言葉にマオはにっこりと笑って頷いた。
「もちろん!あたしはミユキの逢魔だもの!!」
マオの言葉にミユキも嬉しそうに笑って頷く。
この笑顔を守りたい、共にありたい。ミユキは心からそう思った。
(兄さんも、こんな感じだったのかな。あの人と出会った時。)
近寄ってくる兵士を蹴り飛ばし、背中越しにミユキはマオに告げた。
「じゃあ、一緒に行こう!あたしがあんたを守ってあげるから!」
マオの唇が小さくとがって不満を訴える。
「え〜?ずるいよ。あたしがミユキを守るの!!」
「いいの。もう決めたんだから!!」
ミユキは前を見た。ほのぼの漫才している間に兵士達は体制を立てなおしつつあるようだ。
「あ、ヤバイよ。ミユキが遊んでるから〜。」
「あたしのせいにするの〜?」
顔を見合わせるとクスっと笑って敵を見回す。抜けられないほどの数ではない。
「後でゆっくり事情は聞くから、とりあえず、今はここから抜け出すよ!」
「OK!行こう!ミユキ。」
二人は敵に向かって躊躇わず、飛び出して行った。

空中神殿を抜け出した二人はある時、あるところにやってきていた。
そこは、静かなる墓地。赤く濡れるような夕暮れ。
一つの墓石の前に彼女達はいた。
「ここが、ミユキの家族の眠っているところ?」
マオがミユキの後ろからそっと顔を覗かせる。マオも場所をわきまえて少し静かだ。
「うん。そうだよ。父さんと母さんと…兄さん。」
静かに頷くとミユキは墓石に手を合わせた。
助けてくれてありがとう。そうお礼を言う。
そしてマオの手を軽く引くと自分の横に引き寄せた。
「みんな。私も見つけたよ。守りたい人。父さんたちとは少し違うかもしれないけど
私を必要としてくれる、大事な、守りたいコなんだ。」
「ミユキ…。」
その言葉に目を潤ませるマオを横に、ミユキは軽く目をつぶって、もう一度目を開いた。
「私、魔皇っていうのになったの。神に逆らうものなんだって。偉そうだよね。でも
やってみようと思うんだ。だって人が人を守りたいって思うのが可笑しいなんていう世界は
間違っていると思うから…。」
父さんたちはどう思うかな。驚くだろうな。でもきっと怒らない。そう確信していた。
「私、さがしてみる。強い心の形。ううん、もっと強い、悪に負けない心の形を。
それを持っている人を見つけたら守るし、いつか、自分自身でも見つけて見せる!
そしたら、きっと私もみんなみたいな、ホントに強い人になれると思うから…。」
横に立っていたマオもぴょん!と墓石の前に立ち、小さく頭を下げる。
「私も、ミユキをも守るよ。絶対に!約束するからね!!」
くすっ。ミユキは小さく笑った。
「アリガト。マオ。」
深呼吸してミユキはもう一度墓石に向かい合った。
「もう、行くね。必ず帰ってくるから。私のこと見てて!」
ふわり、風がミユキの髪をかきあげる。
「あっ。」
ふと、懐かしい影が心を過ぎる。昔、頭を撫でてくれた父の暖かい手。

「しっかりやれよ!」
「身体はおいといなさい。」
「こっちには当分来てはならんぞ!来たら叩き帰すからな。」

「ありがとう…。」
「えっ?なに?」
?マークを浮かべて首をかしげるマオにミユキは首を振って笑いかける。
「なんでもない!行くよ!マオ。」
「ウン!ミユキ!!」
彼女達は、墓石に背を向け歩き出した。
未来に向かって…。
そんな二人を見守るように、抱きしめるように、夕日が暖かく輝いている。

蒼月の間でミユキは笑う。「音」と共にミユキは歌う。
仲間達と今を艶やかに、華やかに。
胸に輝く熱情の赤が、求めるものを見つけられる未来を信じて…。




オリジナルノベル タカセ・ミユキさんバージョンです。

ミユキさんは「悪に負けない心の形を探している。」というのがキャッチフレーズ
だったようなので、それを主軸にして書いてみました。
お兄さんは、設定には無かったのですが、より身近で憧れる存在として
お兄さんと、その守りたい人を加えさせて頂きました。

守りたい。それは何にも勝る強い思い。

ありがとうございました。

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