自分だけのヒーロー ケイン・アッシュ

 たった一つの出会いが、自分を変えてしまうことがある。
「運命」
陳腐な言葉だが、そういうしかないことも確かにあるのだと、
彼は知っていた。

その少年は、他の誰と特に違うところも無い普通の少年だった。
違いをしいてあげれば、彼は生まれてすぐに両親に捨てられ、
ある孤児院で育ったということ。
そしてやや内向的で、本を読むことが好きだったことくらいかもしれない。
だが、子供と言うのはある意味残酷である。
自分より弱いと思うもの。心に傷のある存在を見逃さないのだ。
そして、一部の悲しくも愚かな子供達は、その存在にぶつける。
自分の弱さを、見せかけの牙に変えて。
「いじめ」
現代社会の奥深い病魔。不幸にも彼は、そのターゲットとなっていた…。

子供達は「彼」に刻む。楽しそうに言葉のキズを心へと。
「や〜い、捨てられっこ。お前なんかこの世に生まれてこなければ
良かったんだ。」
「いらないって言われたんだぜ。お前、父さんにも母さんにもさ。」
それは、12歳の少年には、辛い現実だった。
毎日、毎夜。夢の中までその言葉が追ってきて彼を苦しめる。
自分は不要の存在だと、周囲すべてが言っているようで、
彼はいつしか部屋から動くことさえできなくなった。
毎日この苦しみを終わりにしようとロープを探し、カッターを手に取る。
だが、どうしても踏み切れず、ただ、闇の中ですごす日々が続いた。
こんな日々が永遠に続くのか。膝を抱き、うめき続ける。
だが、転機は訪れる。あまりにも突然に…。

「学校サボって、いいご身分だよな。ヒッキーちゃん!」
「もう、お前の席なんか無いんだぜ。花なんか飾ってあるかもしれないな。
アッハハ〜。」
少年を子供達が取り囲み、代わる代わる小突いたり、蹴りを入れたりしている。
それを受ける少年は、ただ頭を抱え、嵐が通り過ぎるのを待っていた。
学校に行かない自分を心配するふりをして、彼らは施設から少年を連れ出した。
「お友達が来てくれたわよ。」
そう言って送り出す寮母は、「お友達」の招待など知る由もない。
彼らは身体も精神も弱りきった少年を学校ではなく、ある場所へと連れていく。
そこは古い廃工場。彼らはその一つに少年を閉じ込めると嬉しそうに笑った。
「最近この辺にはさ、とっても大きくて凶暴な野良犬がいるんだってさ。
何人も噛まれているんだぜ。あ、ヒッキーちゃんが知るわけないか。」
「ほら、うなり声が聞こえるだろう?噛みつかれないといいな〜。」
少年は耳を澄ませた。
Guurururu〜〜。
確かに太いうなり声が聞こえる。野良犬の気配が、確かに感じられる。
外に出ようとする。だが扉は何かでしっかりと押さえられている様だ。
少年の力ではピクリとも動かない。
「助けて!ここから出してよ!!」
少年は必死の声で扉を叩く。
だが、聞こえるのは犬のうなり声と彼らの笑い声だけ。
「俺達学校に行かなくっちゃ〜。」
「じゃあな。元気でやれよ。生きてたらだけどな。」
ハハハ〜。
その声すらも、もう、遠ざかり聞こえない。
逆に犬の声は少しずつだが、確かに自分に近づいていくるのだ。
少年の心は、恐怖で満たされ、足はもう一歩も動かない。
犬の姿が見えた。黒い、大きなドーベルマン。自分と同じくらい、
いやそれ以上に大きく見える。
臨戦態勢で迫ってくる。今にも襲い掛かってくる。それが感じられたのだ。
少年は、もう誰にも届かないと思いながらも、最後の悲鳴をあげた。
「だ、誰か!助けて〜〜!!!」
バン!!その時、扉が勢いよく開かれた。
「えっ?」
少年と、犬が一瞬、同時に動きを止めた。
暗い、暗い部屋の中に一陣の光が走り、長い影が少年の前へと伸びる。
「やっぱり誰か、いたのか?大丈夫か?」
逆光で顔は見えない。だが若い男性の声。少年は、声と力を振り絞った。
「犬が、大きな犬がいるんだ。お願い!助けて!!」
「動くな!」
少年が走って彼のところに駆け出しそうになるのを、青年は制止した。
少年はビクッ!と背筋を凍らせ硬直する。
「犬は走ってくるものを追おうとするんだ、動かずじっとしていろ!」
その言葉に小さく頷くと少年は青年を見た。彼は腕にコートか
マフラーのようなものをぐるぐると巻くと少年とは逆に、犬に向かって、
ゆっくりとゆっくりと近づいていく。
うなり声をあげた犬は、狙いを動かない少年から、青年へと変えたようだ。
身を震わせ、狙いを定め…瞬間!飛びかかった。
「危ない!!」
少年は目をつぶった。鈍い何かが何かに噛み付いたような音が聞こえる。
だが、次に聞こえてきたのは、ドン!という鈍い音と
「キャウ〜ン、キャウ〜〜ン。」
同じ犬のものとは思えない弱々しい声。少年は恐る恐る目を開いた。
そこには犬の口に自らの右手を入れ、犬を横倒しに押さえる青年の
姿があったのだ。
さらに驚くことに青年は、倒した犬の目を見つめ、背中を優しく撫で始めた。
口から手を外し、犬と目を合わせ、語りかける。
「落ち着け。もう大丈夫だ。怖いことはないぞ…。」
犬もまた、栗色の瞳を青年に向け、顔を合わせた。
警戒のうなり声は少しずつ消え、静かな無音へと、そして、
「キュ〜ン、キュ〜〜ン。」
甘えるような優しい声へと変わっていった。
「ハハ!いい子だ。」
頭を撫でる青年に、犬は飛びつくとペロペロと顔を舐め始める。
「わっ!くすぐったい。止めろって〜〜。」
そんな彼らの様子を少年は、驚きの表情で見つめていた。
彼はたった一言言うのが精一杯だった。
「スゴイ…。」

二人と一匹は工場を後にした。
少年は、青年にぺこりと頭を下げる。
「助けてくれて、ありがとうございました。」
青年は照れたように笑う。
「いや、別にいいさ。こいつも、きっと怯えてたんだよ。知らないところに
迷い込んだか置いてかれたかしれないけど、一人になってさ。だから、
悪く思わないでやってくれ。」
キュ〜〜ン。頭を下げさせられた犬は、さっきと同じ犬とは思えないほど
しおらしく下を向く。
少年は、小さく笑ってはい、と頷いた。
「でも、どうしてキミみたいな子がこんな時間に、こんなところにいるんだ。
しかも閉じ込められて。学校は?さっき向こうに行った子たちがキミを
閉じ込めたのか?」
青年の問いかけに少年は、急に表情を萎ませた。青年は事情を察したの
だろうか。腰に手をあて、ふうとため息をつく。
「駄目だよ。いじめられたらイヤだ。止めろって抵抗しないと。」
「いいんです。どうぜ駄目だし。」
「どうして駄目だ、なんて思うんだ。やってみないと解らないだろう?」
「解ってるんです。僕はどうせ、いらない子、生まれてこない方がよかった
子だから何もできるはずなんて無いんだって。」
「だから、どうして…」
ルルル〜。何か言いかけた青年のポケットから明るい着メロが流れてくる。
彼はポケットから携帯電話を取り出すと何やら話し始める。顔をしかめ、
耳を押さえ、渋い顔で。やがてやっと会話が終わり、彼が電源を切って
前を見た時、少年の姿はすでにどこにも見えなくなっていた。
自分の影を見つめながら隣に残された犬と共に青年は、
「やれやれ〜。」
もう一度深いため息をつくことになる。

翌日、少年は寮母たちに激しく抵抗し、学校を休んだ。昨日の少年達も
流石に昨日の今日で彼を
無理に連れ出そうとはしなかった。2階の、誰も居ない自室のベッドの
上で一人膝を抱える。
トトン!
小さな音が窓を叩く。風かと思って、気にも留めなかったがもう一度、
トトン!!
少年は顔を上げて窓を見て
「わっ!」
と悲鳴をあげた。
そこには昨日の青年が窓から顔を覗かせていたのだ。
ここは2階。少年は慌てて窓に近づいて外を見た。
青年は窓の横の樹に登っていたのだ。
「よう、少年。良かったら出てこないか。昨日のあいつもお前に会いたがって
いるんだ。」
「ワン!」
木の下では昨日の犬が彼を待っているように、明るく吠えている。
「バレるとやばいから早く出てこいよ。」
青年はそれだけ言うと、するすると樹から下りていく。少年はそれを見送った。
いつもなら、外に出るのはイヤだ。人についていくことなんて、できない。
でも…。
少年は服の上にジャンパーを羽織ると外へと駆け出していった。

青年は、少年を近くの公園に連れ出した。ベンチに腰を下ろさせると
犬の頭をなでてやる。
嬉しそうに甘えると、犬は尻尾を振りながら青年の顔をなめた。
「こいつは俺達のところで飼う事にしたから心配するなよ。」
「あ、はい…。」
なんで出てきたのかな。自分でも今の状況が解らず戸惑っている少年の
握りこぶしに
ぺろり。
不思議な感触があたる。
「わあ!!」
犬が彼の手を舐めたのだ。慌てて手を引こうとするが、犬は少年の膝に前足を
乗せて手を、そして顔も舐め始める。
「ハハ!そいつはキミのことが好きみたいだな。」
青年の笑い声を聞きながら、少年は初めて感じる動物のぬくもりに、
不思議な安らぎを感じていた。何故だろう。気持ちいい…。
少年の幸せな笑顔を優しく見つめながら青年は静かに告げる。
「なあ、少年。昨日、キミはこいつと今日、こんな風に笑い合えるなんて
思ってなかったろ?」
「えっ?」
青年の言葉に少年は、少し目を見開いて彼を見た。彼の目は何故か、自分を
見守るように笑っている。
「今日が苦しくても、明日も同じだなんてことは決してないんだ。
明日は変えられる。君自身の気持ち一つでな。どうせとか、自分はいらない、
なんて思うなよ。君自身が自分を必要としてやらなくて、誰が君自身を
必要とするんだよ!」
「でも、ボクなんて何にもできないよ。いらない子なんだから…」
俯く少年の前に、青年は膝を落として屈み、目線を合わせた。
そして、肩をポンと叩く。
「いらない人間なんて、この世には誰もいない。そして何かできるか
できないかは自分自身が決めるんだ。恐れちゃ駄目だ!諦めちゃ…!」
突然青年の言葉が止まった。
彼は立ち上がるより早いか、一目散に公園の入り口へと走り出した。
少年は、後ろを振り向き彼の行った先を目で追う。
青年の走る先。そこにはボールを無心で追いかける女の子。
そしてその先には車の走る、道路が!!
「あ、危ない!!!」
青年は道路に飛び出した少女をしっかりと抱きとめると、
車道を避けてサッと転げた。車は躊躇いもせず走り去る。
青年の身体はガードレールに当たり、小さなうめき声を上げる。
だがそれでも少女を庇っていた。
少女は、恐怖からか、青年の手を抜けると、公園の中へと泣きながら走り戻る。
慌てて青年に駆け寄った少年は必死で声をかけた。
「お兄さん!大丈夫?早く救急車を。」
「いや、駄目だ。俺は病院に行くわけにはいかないんだ。」
青年は、肩を押さえながら立ち上がろうとするが、うっと呻いてまた腰を
落としてしまう。
「少年、頼みがある。」
彼は心配そうな少年の手を、しっかりと握ると、その目をじっと見つめた。
「この近くに俺の仲間がいるはずだ。そいつを探してここに連れてきて
くれないか。眼鏡をかけたやつと、少し体格のいい奴。どっちも男だ。
コイツがそれを知っているはずだから。」
やはり心配そうに近づいてきた犬の顔を見て、また彼は小さく呻いた。
少年は、不安そうに頭を振る。その顔には涙がいっぱいに浮かんでいた。
「できないよ。僕にはそんなこと。人を探したり、ここまで連れていたり、
僕にはできないよ!」
「じゃあ、俺はこのままここで野垂れ死にだな。」
青年はふっと目を閉じて寂しそうに笑う。少年は言葉を失った。
「!?」
彼はもう一度、少年を真っ直ぐに見つめ、手を強く握る。
「君にはできる!恐れちゃだめだ。俺を助けてくれ。今、君の力が必要
なんだ!!!」
その時、少年の心に何かが生まれた。それは小さく胸に光るもの「勇気」と
呼ばれるものだったかもしれない。
「解った。やってみる!必ず、連れてくるから!!だから、ここで待ってて!」
その言葉に青年は痛みを堪えながらも嬉しそうに頷いた。
「行こう!」
少年は犬を促し、走り始める。青年は身体を道路の端の目立たないところに
移動させながら満足そうに深く息をついた。

走り出したものの、少年の心には不安が山をなす。
顔も知らない人を、見つけ出せるだろうか。すれ違ったりしないだろうか。
声をかけられるだろうか…。
犬を追いながら、消えない不安を心から追い出そうと頭を振る。その時
うわっ!
少年は石につまづいて、転んだ。犬もそれに気付き足をとめ心配そうに近寄る。
膝こぞうにじんわりと血がにじむ。涙が出そうになる。
でも、少年はすぐに立ち上がった。彼を助けなきゃ!
犬を促し走り始める。そんな少年の気持ちを察したのか、犬もまた後を追い、
彼を導くように走りだした。
「何が出来るかは、僕が決める。僕にはできるんだ!!」
目の前に、一人の若者が現れる。きょろきょろと、誰かを探すような彼に、
まっすぐ走っていた
少年はドン!とぶつかる。
「わっ!」
「あ、ごめん、ごめん!大丈夫かい?」
尻餅をついた自分に手を差し伸べてくれた人物の顔を少年は見た。
眼鏡の…若者。
「?ノワール。なんでこんなところにいるんだ?」
見てみるとその横に居る恰幅のいい男性に、犬は抱きつくように甘えている。
(見つけた!!)
「お兄さんが、大変なんだ!来て!早く着いて来て!!!」
必死の形相の少年に驚きながらも、二人の男性は、目を合わせ、
そして、頷いて、走り出した。

「ばっかやろう!いつもながら無茶しやがって!!」
恰幅のいい男性が、青年に怒鳴りつける。ハハハと苦笑するように笑う
青年を助け起こした
眼鏡の青年もふうっとため息をついた。
「大事な仕事を抜け出して逃げ回るから、こういうことになるんですよ。
少しは懲りてくれないと…」
「悪い悪い。でもな、どうしても…な。」
「まったく、俺達の子供達に夢を与えるゲームを作るっていう夢には誰も
欠けちゃならねえんだぞ。」
「まあ、手は無事だからプログラムはできるでしょう。帰ったらみっちり
仕事してもらいますからね。」
「おいおい、怪我人に仕事させる気かよ〜。」
「足を怪我してるなら逃げられなくて、丁度いいさ。」
そんな楽しそうな喧嘩をする彼らの様子を、少年はどこか嬉しそうに、
どこか寂しそうに見ていた。
(いいなあ。仲間。誰も欠けちゃいけない、仲間か…。)
ふと、少年に気付き、眼鏡の男性が彼の前に膝を折った。
「僕達の仲間を助けてくれてありがとう。君は僕達の恩人ですよ。」
「ありがとな。おかげで助かったぜ。」
恰幅のいい男性も笑いながら礼を言う。
そして、仲間に肩を貸されていた若者もその手を外し、自分の足で立つと
少年に笑いかけた。
「君は、できたじゃないか。人を助けて、必要とされることが。
できるんだよ。君には。君の未来は君自身が決めるんだ。君は必要とされて
いるんだよ。この世界に!!」
ポン。暖かい手が自分の肩を叩く。
胸の中がさっきの様に不思議な熱い何かを帯びるのを感じる。
「ウン!やってみるよ。僕。一生懸命!そしたらボクもお兄ちゃんたち
みたいに友達や仲間を見つけられるかな?」
前向きな笑顔を向けられ、彼らは微笑んだ。
「ああ、もちろん!」
「お前は勇気があるやつだ。絶対、大丈夫!!」
「君自身が誰かを守れるようになる。保障しますよ。」
その言葉に少年は、もう一度、嬉しそうに、輝く笑顔で頷いた。

「まったく、お前ってやつは。なんで携帯で知らせてこねえんだよ。」
「そう言わないでやりましょうよ。あのコの…ためですね。」
「ああ、放っておけなかったんだ。昔の俺と同じ目をしたあの子をな…。」

その後、少年は彼らと再会することはなかった。
だが、彼の、彼らの行動は少年の心を大きく変化させた。
学校にも行き、友達も作り、やがて彼は孤児院を出るとき、
ゲームプログラマーの道を目指すことになる。
憧れた彼らに、少しでも近づきたい。そう思ったからだった。
それは変わらない。道が、少し変化を遂げた今でも…。

空には14.9の月、静かな蒼月の間の夜。
「…ケイン、あの…何を考えていたの…。」
静かに何かを見つめるケインに少女が声をかける。大きな篭手を手にした、
人形のような少女。
「ああ、アリス。なんでもないさ。」
静かに笑うケインの微笑みに、アリスは頬を染めて下を向いた。
彼のくつろぎを邪魔してしまったのかもしれないという気恥ずかしさと
嬉しさからだろうか。
そんなアリスの漆黒の髪をケインはふわりと優しく撫でた。
「…あっ♪」
アリスはまた、頬を染めて下を向く。
ケインの気持ちが伝わってくる。
(…嬉しい。自分は人形なのに。こんなに醜い…人形なのに。
ケインは受け入れてくれる。)
かちゃり、アリスの手の魔操の篭手が軽い音をたて、ケインの服を掴む。
自分を頼ってくれる、小さな手。
自分を必要としてくれる、純粋な…瞳。
今、自分はこの存在を、何よりも大切に思っている。
ケインは昔、出会った彼らの言葉を思い出していた。
「君自身が誰かを守れるようになりますよ。」
「勇気のある奴だ。大丈夫!」
「お前は未来に必要とされている!!」
あの前に死んでいたら、アリスと出会えなかっただろう。
あの時、彼らと出会っていなかった、今、自分はここにいただろうか?
ケイン・アッシュとして。
そう思うと、陳腐だが運命という言葉を信じずにはいられなくなる。
「なあ、アリス…。」
「…なんですか?…ケイン…。」
アリスは顔を上げ、自らの魔皇を見つめた。
「お前は信じるか?未来が俺達を必要としている、と。」
突然の質問にアリスは、ほんの少し目元を動かし、ゆっくりと考え、
そして静かに首を前に振る。
「…前の、私は…信じなかったと思う。…自分はなにもできない、
いらない子だと…思ってたから…。」
ケインにはアリスの気持ちが解っていた。痛いほどに…。
「でも…、今は、信じ…たい。…ケインがいてくれるから。
…あなたを守りたいから…」
また、アリスは頬を桜色に染める。自分がまるで、みのほど知らずなことを
言ってしまったように思えたから。
ケインに笑われるかも、そう思って、俯いてしまった。
でも、ケインは、笑わなかった。そして、膝を落とし、目線を合わせると、
「!?」
アリスの頬に口付けた。レプリカントの白い頬が上気する。
桜よりも紅い、炎のように。
「俺も、信じる。未来が俺達を必要としていると。
そして、仲間を、大切なものを、お前を…守れると俺は、信じている…。」
強い目と輝く魂で笑いかけるケインに、アリスはもう一度身体を預けると、
空を見た。
14夜の月が、静かに輝く。
「夜は…好き。私達の…世界。そしてこの月が私は一番好き。満月は嫌い。
明日が今よりも輝く、この時が…好き。」
「そうだな。この月の様であろう。俺達。明日を信じて強く生きよう…」
魔皇の言葉に逢魔は、いや、ケインの言葉にアリスは、はいと、
小さく頷いた。

恐れちゃいけない。
未来は君自身が決めるんだ。

遠い昔の、思い出の誰かが、そう言って笑ったような気がした。
 
 


オリジナルノベル ケイン・アッシュさんバージョンです。

彼は、昔であったヒーローのような人に影響を受けた、ということなので
思いっきり、特撮ヒーロー風にべたな展開で書いてみました。
ありがちな、ヒーローの行動は、わざとです。
わざとヒーローっぽくしてみました。

魔皇の話なのにラストが凄く短くなってしましましたが、書きたいことは書いて、
ケインさんの思いが伝わったのではないかと思います。
アリスとの空気も書きたかったのですが、力不足かなあ。

いつもながら、ありがとうございます。

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