未来を見る瞳・・ロック・ハーディリア・・

一つ、神帝に感謝していることがある。
もし、彼らが現れなければ、自分は一生知らなかったかもしれない。
この思いを…。

邪眼、と言う言葉がある。
目を見ただけで、相手を不幸に至らしめるという魔の眼。
ロックには生まれながらにそれがあった。いや、厳密には違うかもしれない。
ただ、彼の眼は俗に言うオッドアイで、左目が漆黒だったにもかかわらず、右目は深い碧色
だった。
そして、その眼を見たものは、何故か心と身体を凍らせる。身動きができなくなる。
まるで、眼に囚われたように…。
そう言われ、人々が離れていくのを知り、いつしか、彼は片目を隠して生きるようになった。
家族や人とも関わりを絶って一人暮らす。それを、彼はまあ楽しんでいた。
身を守るために基本的な技術は身に付けたが、それを他人に使うことは無い。
一人で好きな時に読書し、誰にも束縛されずに生きる。
静かな自由を自分は楽しんでいる。そう思っていた。

新学期が始まった頃だったかもしれない。
「神帝」とかいうのが表れ、いくつかの街が消えたりした結果、世界を支配することに
なったというのは・・・。
ふざけていると思われるかもしれないが、神帝の支配はロックにとってはこの程度の認識
だったのだ。人付き合いをするほうでもなく、何かに特に興味を持っていたわけでもない。
周囲の人々の、世界の空気が変わっていったことには気付いていたが、とりあえず周囲が
静かになりちょっかいを出してくる人間も減った。それでいい、そう思っていた。
神帝に反意を示すなんてことは考えたことすらない。
ごく普通の生活を彼は送っていた。そう、その日まで…。

静かな図書館に、相応しくない物々しい集団が現れた。
遠慮なく中に入っていく彼らを遠巻きに見つめながらも、止めるものは誰も居ない。
その装束は、「神帝軍」この世界の絶対正義である。
彼らは、窓際で、何冊かの本を重ね、のんびりと読んでいるごく普通の青年のそばに
近づいていった。
青年も、その存在に気付いてい、彼らがまさか、自分の前に立つとは想像さえして
なかった。まして
「ロック・ハーディリアだな。神帝様の命によりお前を捕縛する。」
そう言って自分を捕らえるなどとは…。
「魔皇狩り」
噂には聞いていたが、自分とは縁も何もない、そう思っていたことが今現実に・・・。
読みかけの本が、机から落ちて、閉じられる。
彼がその続きを読むことは、もう無いかもしれない。
残された人々はそう思って、本を拾い書棚へと戻した。

そして、今、彼は空中神殿内にいた。
さっきまでは一人で、牢の中に。
今は、一人の少女と一緒に、廊下を彷徨っている。
「魔皇様、これからいかがいたしましょうか?」
目の前に立っている少女は、そう言って自分を見つめた。
彼女は、シルフィーネと名乗った。
「魔皇様、お探しいたしました。今、お助けします。」
そう言って、牢を人間業とは思えない力で破壊し彼を助けてくれたのは誰であろう。彼女なのだ。
今、人間業とはと言ったが彼女はおそらく、人間ではない。
黒い石の翼を背に持っている。魔のものなのだろう。「神」がいるなら「魔」がいても不思議は無い。
魔の存在だからと言ってもロックは彼女に不信感は抱いていなかった。
元々あのままだったら翌朝には処刑されていたのだ。「神」は自分の命を奪うと言う。
なら、助けてくれると言うのなら、信じよう。たとえ魔であろうと。
そう思って彼は彼女とともに脱出したのだった。ただ…
「その、魔皇っていうのは一体何なんだ?説明してくれないか?君は一体何者なんだ?」
彼が問うとシルフィーネは必ず口をつぐんだ。
「今は、どうか脱出することを…考えて頂けませんか?お願いいたします。」
問い詰めたかった。事情を聞きたかった。だが、シルフィーネの辛そうな表情と
「くそっ!また来たか!!」
次から次へとやってくる追っ手に、ロックはしばし問題を棚上げした。
「逃げるぞ!フィーネ!」
咄嗟に、彼女の腕を掴み、彼は走りだす。
「ハ・ハイ!」
シルフィーネは頷くとロックの後に続いた。だが、前にも兵士達の姿が見える。
「危ない!」
素早く、ロックの前に立ちふさがりシルフィーネは彼を庇おうとした。切られる!
BAN!BAN!!
目を閉じた彼女は恐る恐る前を見る。そこには倒れ伏す兵士達の姿。
後ろを振り向くと、そこには銃を構えるロックの姿。
いつの間にか兵士達から銃を奪い取ったらしい。弾倉を確認し、ロックは銃を閉じる。
「も、申し訳ありません。魔皇様。」
恐縮しきったように頭を下げるシルフィーネにロックはフッと笑いかけた。
「いいさ。とにかく行くぞ!!」
その笑顔にシルフィーネの緊張が、ほんの少し緩んだのかもしれない。彼女の頬にもほんの少し笑顔がもれる。
「ハイ!」
ロックは前を走る。シルフィーネは、その後を一生懸命追いかけた。

そうして彼らは脱出した。兵士や追っ手と出会ったのは一度や二度ではないがその都度
かばい、かばわれ、助け、助けられ(ちなみにロックがシルフィーネを助けたほうが多い)
なんとか切り抜けることができたのだ。
人気のない公園に逃げ込み、とりあえず追っ手の心配が無くなったと判断した時
ロックはもう一度シルフィーネに向かい合った。
「なんとか逃げ切ったようだ。」
「はい、魔皇様。ご無事でなによりでございます。何度も助けてくださって
ありがとうございます。」
深々と頭を下げるシルフィーネを手で制すると、ロックは彼女をじっと見つめた。
本来、女性と、いや、人と話すこと自体ロックは得意ではない。
まして目を見て話すなど何年ぶりか、自分でも判らない。でも、今彼は彼女と
向かい合った。はっきりと聞かなくては。
「今度は、答えてくれ。魔皇とは一体なんだ?君は何者なんだ。」
その言葉から、今度はシルフィーネは逃げなかった。小さく息をつくと意を決したように
話し始めた。
「はい、ご説明いたします。私は逢魔。魔皇にお仕えする闇のものにございます。
そして、あなた様は・・・」
彼女は語る。魔皇と逢魔の宿命を・・・

長いようで短く感じた説明。
彼女が再び沈黙すると、ポケットに手を入れ話を聞いていたロックは顔を上げた。
「なるほど、話は判った。俺が捕まった理由も、こうなった訳も…な。」
ロックはかすかに笑みを浮かべている。自分は少なくとも神帝に反逆する気は
無かった。だが、彼らが自分を反逆者とするなら、望みどおりにしてやるか。
そんな、今までになかった積極的な意思が自分を支配していた。
それと、もうひとつ、今まで感じていなかった不思議な思いも…。
ロックはふと気づき、自らの逢魔と名乗った彼女を見つめる。
「だが、まだ俺は、魔皇では無いな。俺が魔皇として覚醒すれば強力な力を
持てるなら、なぜ神殿内でその話をして覚醒させなかった?」
そうすれば、もっと楽に逃げられただろうに?もっともな疑問だが
「それは…」
彼女は口を篭らせた。何か隠しているのか?
そう思ったが、もういい。ロックの心は決まっていた。
「俺を魔皇として覚醒させてくれ。」
ハッと彼女は顔を上げる。
「本当に、よろしいのですか?」
喜びと、心配と、そして何かが入り混じった顔と声でシルフィーネは
ロックを見つめた。
「ああ、どうせ、もう前の生活には戻れない。ならとことんやってやるさ!」
こう見えても、頼られると嫌とは言えない性格なのだ。誰も気づかないが。
彼の決心に、シルフィーネは祈るように手を胸で組み目を閉じた。
そして、ロックを真っ直ぐに見据えた。強い、魔の力を秘めた目で。
「判りました。魔皇様!」
ロックは、黒い静かな炎に包まれた。人としての最後に両目でシルフィーネの
姿を心に焼き付けて…。

「なるほどな、大したもんだ。」
目覚めたロックは自分の身体を確認するように右手を開き、閉じそして
身体全体を見回した。
外見はまったく変わっていないが、自分の中に潜む力の量は簡単に
理解できる。深く深呼吸すると立ち上がり、心配そうに見つめるシルフィーネ
の肩をポンと叩いた。
「心配するな。大丈夫だから。」
そうして、ぐっと伸びをして考える。さて、これからどうするか。
「もし、よろしければ、逢魔の結界においでになりませんか?そこでなら
少しは落ち着くことができると思うのです。」
そう告げたシルフィーネの言葉にロックは考えた。まだ情報も少ない。落ち着ける
場所があるのならそれがベターだろう。だが…。
「判った。そこに行こう。でもその前に、ちょっと部屋に戻る。」
ロックの決断にシルフィーネの表情がパッと変わる。
「危険です!神帝軍の手が回っている可能性があります!!」
お止めください。そう言うシルフィーネをロックは制した。
「取ってきたい物がある。俺にとっては大事なものなんだ。あれだけは、
失いたくない。」
あれだけは、失いたくない。
シルフィーネは俯いた。その言葉の意味するところを痛すぎるほど感じ…。
そして頷く。
「解りました。お供いたします。」
ロックは頬に小さな笑みを浮かべると行こう、そうシルフィーネを促した。

彼は一人暮らし。心配するものは部屋には待ってはいない。
だが、周囲の部屋には人がいる。学生も多い。図書館で捕まったことを
考えるとシルフィーネが言ったとおり手が回っている可能性は高い。
だから、ロックは可能な限り静かにことを運ぶつもりだった。
部屋に戻り、当座必要そうなものをかばんに詰め込み、
「どうしても持っていきたかったもの」を手にとった。
青いバンダナと蛇が絡みついた模様のペンダント。
これに、込められたものは、彼にしか理解できないだろう。
ペンダントを首につけ、バンダナを頭にしめたその時!
「キャー!!」
外で絹を裂くような悲鳴が聞こえた!彼女だ!!
ロックは荷物をそのままに外へと飛び出した。
「どうした!」
見ると彼女の周囲を数人の男たちが取り囲んでいる。
見知った顔ばかり。学生たちだ。そして彼女はこともあろうに羽を出している。
「ロック?お前、神帝様に捕まったんじゃ?」
「この女、人間じゃないんだ。まさか、おまえ?」
彼らがシルフィーネの腕を掴もうとした瞬間。何かが彼の中で弾けた!
隠していた目で彼らを睨み付ける。そして
「うっ!」「げっ?」「うわっ!!」
男たちの質問が口から発せられないうち、ほんの数瞬で男たちは皆、うめき声を上げて
倒れていった。
「魔皇様…」
ロックが魔皇の能力を開放し彼らに蹴りを見舞ったからだ。
一撃気絶。彼らは全員、意識を失っている。
「今だ!逃げるぞ!!」
右手に荷物、左手にシルフィーネの手を掴み、ロックは風の速さで駆け抜けていった。

「申し訳ありません。魔皇様、私がドジだったばっかりに…」
シルフィーネは涙を浮かべ頭を下げた。声をかけられ、逃げようとして転び、
羽を出してしまった。そう言って必死に彼女は謝る。
なんというおっちょこちょい。ロックは軽く頭を押さえた。
でも、何故か笑みがこぼれてくる。
「魔皇様、お許しください。」
「ストップ!」
ロックの静止にシルフィーネは目を見開いた。何を言われるのか。怒られるのか。
身を硬くして言葉を待つ。
「魔皇様、止めてくれ。ロックでいい。敬語もいらない。」
「えっ?」
思わぬ言葉に彼女の動きが止まる。
「俺は、お前と共に生きると決めた。だから、敬語は止めてくれ。
他人行儀な気がする。」
そう、気がついたのだ。自分は何時の間にか彼女のことが気になっている。
おっちょこちょいだが、この一途な少女を守りたいと思っているのだ。
「よろしいの…ですか?」
「いいと、言ってるだろう。だから、いいんだ。フィーネ。」
フィーネ。そう呼ばれたことにシルフィーネは頬を赤らめた。何故だろう。
幸せな気がする。これからの明るいはずもない運命さえも変えていけるような、
幸せさ。
「わかりま、いえ、解ったわ。ロック様。」
「さ、様はやっぱりつくのか?」
「これくらいは、いいでしょう?」
敬語で接しられたときには気がつかなかったテンションの高さに
少し頭を抱え、でも、ロックは楽しそうに笑った。フィーネも笑う。
何年ぶりかに、彼らは他人と共に笑った…。

彼女を守りたい。
そんな気持ちからロックは「蒼月の間」を自分の仮宿に選んだ。
そこで、皆の話を聞いているうちに気づく。
彼らのほとんどが、神殿の中覚醒していることに。あるものは半強制的でさえ
あったという。
そして思う。神殿から出るまで、頑なに事情を話さなかったシルフィーネの思いを。
(あいつは、きっと残しておきたかったんだ。俺に選択の余地を、魔皇として
生きるか、人間として生きるかを。)
ここには、目を忌み嫌うものもいない。みんながごく普通に仲間として接してくれる。
仲間と共になったことでか、ロックに心を許したことでか、明るい輝きを
放つようになった前向きな彼女の笑顔を見てロックは考えていた。
一つだけ、神帝に感謝しよう。
こうならなければ。俺は一生知らなかったかもしれない。
大切な、誰かを持つことの喜びを。友と笑い合うひと時を。
その笑顔を守りたいと思うことを。

ロックとフィーネ。
彼らは共に歩く。

いつか、運命が二人を分かつ時まで…。




オリジナルノベル ロック・ハーディリアさんバージョン

丁度旅行中でしたがプロット持っていって、仕上げてきちゃいました。
旅行中に何してるんだか(^^;)

設定の中には眼に独特な力を持っているということと、シルフィーネさんが
神殿から脱出するまで、頑なに事情も話さなかった、覚醒もしなかったということなので
そこをアレンジさせていただきました。
ペンダントとバンダナにはどんな意味があるのか。
これから知っていきたいですね。

ありがとうございました。



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