兄弟…悠宇&デューシンス…


蒼月の間、夜の宴会は、ほぼ毎日の恒例になっている。
時に笑い、時に討論し、彼らは日々を楽しむ。

「あ、デューシンス?何してんの?」
弓鳴りの間で机の上を掃除していたデューシンスは、後ろからかけられた声に
ちょっと手を止めて後ろを見た。そして、笑顔を向ける。
「なんだ、悠宇か。今晩もみんなが来るだろうから、ま、その準備だな。」
「ふ〜ん、いつもながらマメだねえ。夢は?」
頭の後ろで手を組み、悠宇はデューシンスを見る。彼はまた掃除に戻り手を休めないで
答えた。
「新月の間で、パソコンいじってる。なんか情報整理でもしてるんだろ。俺の手伝える
ことはないからな。おまえこそ、日和さんと一緒じゃないのか?珍しいな。」
「日和は部屋でレッスン。側にいたいけど邪魔になるだろうから…さ。」
「そうか…。」
つまらなさそうに地面を蹴る悠宇を見つめ、デューシンスは頬に軽い笑みを浮かべた。
悠宇の顔がほのかに赤く染まる。
「な、なに笑ってんだよ。」
「別に…(^^)」
「別にって顔じゃネエぞ!」
微妙な何かをたたえて笑うデューシンスに悠宇はくってかかろうと身体を起こした、が、
「ほら!」
シュッ!
「わあっ!」
突然自分に向けて何かがほおリ投げられる。
怒るのを一瞬忘れて、慌てて悠宇はそれを顔の前で受け止めた。
手を下ろし、自分がキャッチしたものを見る。
りんごだ。
「それでも食ってろよ。季節最後だが美味いぞ。」
絶妙のタイミングで攻撃が封じられたのを悠宇は感じた。優しい笑顔で見つめる青年の
顔とりんごの間に数回視線を往復させ、無言のため息をつくと悠宇はりんごをかじる。
「…うまい。」
「だろ?」
悠宇は完全に敗北を悟り、デューシンスに照れた、明るい笑みを見せたのだった。

「なあ、デューシンス。ちょっと聞いていい?」
デューシンスの仕事が一区切りついたと思われる頃、悠宇はちょっと惑うような口調で
問い掛けた。いつもと違う何かを感じデューシンスは、真面目な顔つきに戻り
まあ、そこに座れと悠宇を促す。
「俺が、答えられることならいいんだがな?」
促されるままにソファに身体をうずめると、悠宇は目の前に立ったデューシンスの目を
見つめた。
「兄弟とか、家族ってどんな感じだと思う?そんなに大切なのかなあ。」
「?」
質問の意味が理解できず、ちょっと目を見開く彼に悠宇は言葉を続けた。
「日和ってさ、お兄さんっていうのが3人いて、他にお父さんや、お母さんや家族が
いっぱいいてとっても大事に、大切にされて育ったんだって言ってた。」
家族の話をするとき、日和の顔は嬉しそうに、楽しそうに輝く。悠宇はそれを見るのが
嬉しい反面、少し辛かった。
「俺達には、あんまり家族とかって関係ないだろ。」
「まあな。みんな仲間だが、特に親しいとかってこともないからな。」
デューシンスは相槌をうちながら考えた。
逢魔たちは、主に個人で過ごすことが多い。
彼らにとって仲間よりも自分の半身である魔皇への関心の方がはるかに高いからだ。
それぞれに仲良くなることもあるだろうが、司への思慕以外は人間のいう家族関係とは
程遠いだろう。
そろそろ、悠宇の言いたいことも理解できてきていた。
「日和はさ、その大事な家族と別れて魔皇になったんだ。俺には日和が一番だし、
何があっても守りたいって思うけど、日和には、家族が一番なのかな、って。俺は
代わりにはなれないのかなって…。」
悠宇は額に手をやって、下を向いた。日和にとって大切なものにやきもちをやいてしまう
自分と、それを嫌悪してしまう自分がいる。どちらも日和への思いがあるから。
でも、その思いはすべての逢魔がすべての魔皇に持つ、「魂の絆」にすぎないのか。
血の絆にはかなわないものなのか。
それはまだ年若い逢魔には胸を焼かずにはいられない、答えの出ない問い。
悠宇の思いが頬にキラリと光るとき、
くしゃくしゃ!
悠宇の頭に今まで感じたことの無い、不思議な感覚が感じられる。悠宇は顔を上げた。
そこには、大きな…手。
デューシンスの大きな、暖かい手が、自分の頭を撫でているのだ。他人に頭を撫でられる。
そんなことは覚えている限り初めてで、我ながら頓狂な顔をしているだろう。と悠宇は
思った。でも、目の前の眼差しは、とても優しく見つめていた。自分自身を。
「悠宇は悠宇でいればいいさ。誰の代わりにならなくてもいい。」
「でも、でも、日和には…」
言葉に出し切れない悠宇の思いにデューシンスは手を引くと小さく頷いた。
「俺にだって解るさ。男性魔皇を持つ男逢魔とか、その反対とかは別として、性別の
違う魔皇を持つ逢魔は誰だって思うと思う。いや、それ以外の連中だって思うさ。
魔皇には幸せになって欲しい、幸せにしてやりたい。自分の魔皇と一緒に生きたい。
ってな。この気持ちが人の言う恋愛感情かとか、家族の絆に勝るのかなんて俺達には
解らない。俺達はそれを知らないからな。」
デューシンスは遠くを見つめる。自分自身も胸に抱くこの思い。自分にとって魔皇は
すべて。でも魔皇には大切なものがたくさんある。それを守りたいという。
それにまったく嫉妬しないほどの人格者ではないと、自分でも思っている。
小さく笑って彼は目を閉じた。
「デューシンス…」
今まで見たことの無い彼の表情に、悠宇は小さく声をかける。その言葉に反応したか
のように彼は目を開けて、悠宇を見つめた。
「でもな、俺達のこの気持ちは、俺達自身のもの。俺達の一部だ。誰にも譲れないし、
代わりもできない。それと同じように、彼女自身にも譲れないものがあり、それが彼女の
一部なら、俺はそれも認め、守ってやりたいと思う。彼女にとって、家族が一番大事でも、
自分がただの道具でも、俺はかまわない。俺がそうしたいから、そうするんだからな。」
手を胸にあてて、誇りを持った表情で彼は言う。
「悠宇は違うのか?悠宇は彼女にとって、自分が一番でなければ彼女を守れないのか?
自分より大事なものがあるなら、彼女なんていらないって思うのか?」
「そんなわけないだろ!日和は日和だから、俺は大事なんだ。誰が大切とかそんなの
関係ない!」
まっすぐな、くもりのない瞳にデューシンスは微笑む。
「なら、代わりになろうとか思わず、悠宇は悠宇らしく日和のそばにいればいい。そして
思うことをすればいい。それでいいんじゃないか。」
悠宇は何か肩の力がすっと抜けたような気持ちを感じていた。
(そっか、そうだよな。
俺は日和が笑ってくれればいいんだもんな。余計なこと考えなくてもよかったんだ。)
デューシンスは、悠宇と肩を並べるように横のソファに腰を降ろす。
俺の言いたいことが解るか?そんな目で見つめるデューシンスに悠宇は惑わず頷いた。
「うん、そうだね。解ったよ。」
「そうか。いい子だな。」
くしゃくしゃ。デューシンスはもう一度悠宇の髪をかき回す。
「わあっ。止めろよ。俺、子供じゃないんだぞ!」
肩をすくめ、笑って、でも悠宇はその手を振り払わなかった。
その感触をもう少し味わっていたかったから。そしてそんな様子を見てデューシンスも
笑ってその時を楽しんでいた。

頃は夕暮れ、そろそろ誰か来るかもしれない。
二人は立ち上がってお互いの顔を見つめた。
同族、だが、今まで意識したことも、顔をあわせたことも無かった気がする。
それが、今、ここで同じ時を過ごしている。
デューシンスはふっと笑うと、悠宇を手招きした。
「なに?なに??」
内緒だぞ。誰にも言うなよ。
そう言って、顔を寄せた悠宇にだけ聞こえるような小さな声で、デューシンスは告げた。
「俺は、ほんの少しだけ神帝に感謝している。あいつらが出てこなければ、俺達たちは
魔皇に逢えずに、ここでこうしてることも無かったからな。」
真面目な優等生に見えた彼が、自分にだけ囁いた小さな本音。それが悠宇は何故か
うれしかった。それに何故かホッとした。
「そうだね。俺もそう思うよ。あいつらもちょっとは役に…」
「シーッ!」
指を一本立てて口を押さえるデューシンス。あっと自分の口を押さえる悠宇。
丁度その時、お互いの魔皇が入ってきたからだ。
「今度、ぜひ、チェロを聞かせてくださいね。あ、デューシンスご苦労様。」
「ええ、楽しみにしていますわ。悠宇もこっちにいたのね。心配してたのよ。」
微笑を交わす二人を見つめ、そしてお互いを見つめ、二人の逢魔は笑い出した。
ハハハハハ〜。
何があったのか解らず、それを見て二人の魔皇は、右と左に小さく首をかしげたのだった。

(もう一つだけ、感謝しよう。俺に仲間を、いや家族をくれたことに。)
デューシンスは心で祈った。
逢魔は何に祈るのか。神か、悪魔か、それとも司にか。
それは、誰にも解らない。

ひょっとしたら、集会のときとか、どこかですれ違ったり出会っていたかもしれない。
そんな逢魔はたくさんいる。でも…、
(俺が日和以外で、好きになったのはあいつだけだからな。)
リーダーの側で、マメに働く真面目逢魔を見ながら悠宇は笑った。
「何笑ってるの。悠宇?さっき、デューシンスさんと何があったのよ。」
日和が笑いながら聞く。
でも、これは誰にも言わない。もちろん、彼にも。日和への思いと一緒。
誰にも…言わない。

時に笑い、時に討論し、日々を楽しむ彼らの上に優しい風が吹く。
いつか、始める戦いまでの、今はそう、安らぎのとき…





今回は、少し趣向を変えて、逢魔同士、うちのデューシンスと月島日和さんの
ところの悠宇くんとの交流を書いてみました。

もとを言えば日和さんが、悠宇くんがうちのデューシンスを兄みたいに
慕っているってことにしてもいいですか?と言ってくださったのが
妄想の始まり。それが、あんまり嬉しくて、つい
萌え、じゃなかった燃えてしまったのです。
いやあ、書き上げるの早かったわ。

勝手にキャラクターお借りしたのに、快く許して下さった日和さん
ありがとうございます!

またこういうの書いてみたいなあ。

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