本当の強さ…ゼルガメール&ペイン

珍しく人気の無い蒼月の間の廊下を靴音が強く叩いていく。
そして新月の間へと続き、一つの部屋の前で止まった。
トントントン!
「ふぁああ!どうぞ。開いてるぞ。」
部屋のなかで昼寝でもしていたのだろうか。ゆるやかな声が客人の入場を促す。
明確な返事はせず、その人物はドアを開け、部屋の中へ入っていった。
「おう!ゼルガ!!なんのようだ?」
旧知の魔皇に、部屋の主は身体を起こすと手をあげて挨拶した。
入り口の所で軽く身構えていた逢魔も手を下ろし受け入れる。
「忍、いやネクロス。久しぶりに手合わせでもしないか。」
その落ち着いた話口に、ネクロスはふっと小さく笑みを浮かべる。
「そうか、お前は…」
彼は答えない。ただ、彼を見つめている。不思議なまでに静かな眼で。
「よし!やるか!!」
「ちょ、ちょっと待ちなよ!ネクロス!!」
ベッドから飛び降りやる気満々のネクロスを珍しくビストが止めた。
「どこでやるつもりなんだい。この部屋の中で暴れたらまた夢が怒るよ。この間のこと
忘れたのかい!」
「ぐっ!」
ネクロスの動きがぴたりと止まり、言葉を失う。
それは、そうだろう。先日と先々日大暴れして、管理人である彼女にダークフォース
まで使わせて怒られたのは流石の彼でさえ忘れるには記憶に新しすぎる。
そして、自分の居場所をこれ以上壊す気にもなりはしなかった。
「心配するな。」
ついて来い、そう彼は促した。ネクロスはにやりと笑うと手早く準備を整え、彼の後を
追ったのだった。
「やれやれ。」
ため息をついたビストが、鎌を担いで彼らの後を追ったのは、さらに数瞬後のことである

「ほおお、こりゃあいい。」
ひゅ〜っ。ネクロスは小さく口笛を吹いた。そこ小さくはあるが見事な闘技場だった。
「蒼月の間の地下にいつの間にこんなもんを…」
ビストが半ば呆れ顔で見回していると小さな手が彼のズボンをくいくいっ、と引張った。
「僕が作ったんだよ。すごいだろう。」
「ディスト…。」
弟のような小さな逢魔の得意げな笑顔にビストは、そうだね。と気持ちの篭らない同意の
言葉を口にして、顔を上げた。
目の前では自らの魔皇ネクロスと、ディストの魔皇ゼルガメールが向かい合っているのだ。
これから、手合わせと銘打った真剣勝負が始まるのは目に見えている。
それを邪魔することができないことも。
「ビスト、これからちょっと騒がしくなるから、そいつと一緒に外に出てろ!」
「解った!でもネクロス、ゼルガ。ほどほどにしておきなよ。」
言っても無駄だと解っているが一応声をかけると、二人は軽く手をあげる。
ビストは頷くとディストの手を引いて外に出た。思わず小さなため息が又こぼれる。
「ネクロスもゼルガもよくやるよなあ。」
「違うよ。あれはゼルガじゃない。」
「えっ?」
頭一つ以上違う逢魔の言葉に、ビストは眼を丸くすると、しゃがんで目線を合わせた。
「あれはゼルガじゃない?」
こくりとディストは頷いた。無邪気に笑う。ビストは唾を飲み込んでもう一度問うた。
「じゃあ、あれは一体…誰?」
「あれはねえ、ペインだよ!」

二人きりの闘技場で、彼らは向かい合った。
「久しぶりだな。かれこれ、10年ぶりか?ペイン。」
ネクロスはどことなく嬉しそうな笑みを浮かべている。
「そうだな、もう、そんなになるのか…。」
反面、ゼルガ、いやペインの表情は、何かを、遠い何かを見つめるようでどこか重い。
「俺は無力だった。10年前も今も。」
「昔はどうだったか知らんが、今は違うだろ?」
どこか、見守るような励ますようなネクロスの声に、ペインは前を向く。
「それを確かめるために、俺はここに来たんだ。いざ!勝負!!」
「よし!受けて立つぜ!行くぞペイン!!!」
観客も応援も無い、二人だけの異種格闘技戦の、聞こえないゴングが、今鳴った。

ネクロスは徒手空拳を得意とする格闘家だ。素手で構えをとる。
対するペインは巨大な両刃の剣を構えている。柄のところに大きな刃がついてる独特な剣だ。
最初に動いたのはネクロスだった。
素手対剣の戦いでは、やはり何があろうと最初に懐に潜り込まないと素手には不利な戦いと
なる。だからこそ、瞬間の判断が勝負を決める。
ネクロスは閃光の如く真っ直ぐに、ペインの懐を狙って飛び込む。正中線を狙った彼の
攻撃はやはり、読まれていた、飛び込んでくるのとほぼ、同時にペインは後ろに下がり
着地と同時に、剣を翻した。
シャン!
なぎ払われた風は一瞬前までネクロスがいた位置を切って、半弧を描いてペインの
手へと戻っていく。顔をさっとかわしたネクロスの頬に、ツーッと赤い線が過ぎる。
「流石…だな。」
手の甲で頬をこするとネクロスは前を見つめた。彼にキズを負わせられるのは数えるほど
しかいない。目の前にいる人物は、確実にその一人だった。
「だが、まだ、勝負は始まったばかりだ!」
ネクロスは再び拳に力を込めて走り出した。
ペインもまた、剣をかまえ迎え撃った。二人の力と技がぶつかり合い見えない火花を散らす。

「はあ、凄いもんだ。」
扉の隙間から覗くビストは感心の吐息を漏らす。ほんのわずかな隙間からだけでも、
彼らの剣圧、空気、力の熱さが感じられる。
武道派魔皇同士の戦い。
戦いに身を置くが習性の凶骨にとってもそれは滅多に見られるものではない。
興味半分、心配4分の1、後の残りは好奇心、ビストは見物を決め込んでいた。
「う〜ん、大体実力は同等ってとこかな。そういや、10年前から全部の戦い引き分け
ってネクロス言ってたっけ。でも、ということはあのペインはネクロスとはいえ、
子供に勝てなかったんだ。」
「そう、それが結構キツかったみたいなんだ。ペインは。」
ビストの下で、同じように覗き込んでいたディストはうん、うん、と頷いた。
「あ、ペイン、剣を捨てた。白兵戦の勝負だ。」
二人はもう一度、無言で彼らのほうへと視線を送っていた。

(天分の才、それを持って生まれたものはこの世に確かに存在する。そして俺はそうじゃない。)
ペインはネクロスとの手合いをしながら思っていた。
格闘技を目指すものなら誰でも、最強の男の座に憧れる。そして、その力で
大事なものを守るのだ。と。
だが、自分は、強くなったと思っていた自分は子供にすら勝つことができなかった。
知らされたのだ、天与の力の前に、自分は無力さを。
そして…無力な自分は、落ち込むあまり、大事なことを見失っていた。
強さよりも大事なこと、大切なものを守れなかったのだ。
その償いに自分の人格を封印した。いや、悪く言えば逃げたのだ。心の中に。
新しい人格にすべてを押し付けて。
だが、前向きなもう一人の自分と、ネクロス。そして出会った魔皇たち。そして逢魔。
外に出て、彼らと出会い、このままでいるべきでは無いと彼は悟った。
自分自身も戦うべきなのだ。大切なものを守りたいのなら、逃げずに。
ペインはネクロスを見た。天与の才を努力で磨いたもの。
こうはなれなくても、自分にできることを怠るべきではないのだ!!

流石の二人の体力も限界に近づいてきた。次の一撃が最後だ。
二人は、もう一度向かい合い、真っ直ぐに相手を見つめた。そして!
誰が合図したのでもなく、同時に彼らは赤と黒の稲妻となった。
それぞれの攻撃と、カウンターが瞬間にすれ違い、炸裂する。
「グワッ!」「ウッ!!」
彼らは、同時に膝をつき、地に伏した。そして、同時に身体を半回転し、
身体を上に向けて、深く息をつき…、そして、笑い出したのだ。
「ハハ!10年経ってもやはり勝てんか。かなわんな。天与の才には。」
「イヤ、俺が一度足りとも勝ったことのないのは、あんただけだ。だいぶ力を
つけたと思ったんだが、まだまだだな。」
身体を起こし、ペインはネクロスの顔を見つめた。
「俺は、今度こそ守れると思うか、大事なものを…」
「ああ、あんたが望めば、必ずな!」
「そうか、そうだな…。」
ペインは小さく微笑むと目を閉じた。
「そろそろ、ゼルガに身体を返そう。すまなかった。ありがとう。」
「まてよ!」
ネクロスの声にもう一度「ペイン」が目を開く。
「また!やろうぜ。今度こそは絶対勝つからな!」
不器用にウインクしたネクロスの笑顔を見て、ペインは笑った。そしてもう一度目を閉じる。
「ああ、その時こそは、きっと…」
黒い瞳が再び目の前に開かれたとき、そこにいたのはペインではなかった。
「あれ?」
「よう!ゼルガ!目が醒めたみてえだな。(いててっ)」
「どうしたんです?ネクロス。そんなにボロボロになって。あ、まさか僕が?」
「いや、そうじゃねえよ。気にするなって。」
「そう…ですか?」
「やっと終わったのかい?命がけだね、魔皇同士の戦いは、やるのも、見てるのも。」
「今度はみんなにも見せてあげよーよ。」
「おいおい!」
男同士の明るい笑い声が、今は、静かな闘技場に穏やかな空気を運んでいた。

異次元に眠る殲騎の中で「心」がまどろむ。
今度は間違えずに進めるだろうか。本当の強さを見つけられるだろうか。
大切なものを守れるだろうか。

きっと大丈夫だろう。
俺もあいつも、一人ではないのだから…。





オリジナルノベル ゼルガメールさんバージョンです。
正確には、二重人格のペインさんの話ですけど。

ネクロスさんと子供のときから引き分け続けたということでした。
ご本人は、指定しませんでしたけど、子供と大人が引き分けるというのは
やはり大人の身としてはきっついだろうなあ、と思いこういう話になりました。

試合のテンポはどうも難しいです。
戦い方の表現を勉強しないと、と思っています。

UPが遅くなってしまいました。ヤキモキさせてしまったようですみません。

ゼルガメールさん、申し訳ありませんでした。

トップへ
トップへ
戻る
戻る