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魔皇というのは、相対的に男性が多いようである。
逆に逢魔は女性が多い。
もちろん、それで何が変わるというわけでは無い。
差別されることも一切無い。
でも、やはり同性同士は仲がよいと言えると思う。
気を許す相手。友…。
「日和さん!」
「?何です。夢さん。」
なじみの魔皇の呼び声に、月島日和はちょっと目を丸くした。
彼女の声も、目も真剣そのものだ。
「お菓子、一緒に作りましょう!」
「えっ?」
日和の顔が一瞬呆けた。突然、何を言い出す?
「ケーキつくりお得意でしたよね。私に作り方教えて頂けませんか?」
「ああ、そういうことですか?いいですよ。私でよければ…。」
優しく笑いかける日和さんに、夢は飛び上がるようにしてお礼を言った。
「ありがとうございます。実はもう用意してるんですよ。
じゃあ、善は急げ。さあ行きましょう。」
思い込んだら一直線。直感勝負の彼女は直感の白…。
「ちょっと、今すぐですか?夢さん、待って!せめてエプロンを着替えさせて…。」
ずるずるずる、引きずられるようにキッチンへと(強引に)誘われる中、
日和はそれだけ口にするのが精一杯だった。
用意してある材料は、チョコレートケーキ用の材料だと思われる。
チョコレート、バター、小麦粉、卵。だが、何故かチェリーに(これはまだいいが)
米粉にあんこ?
?頭に?マークを浮かべる日和に夢はちょっと恥ずかしそうに俯く。
「それは、あの、間違えちゃったんです。同じ粉だし、黒いし…。」
普通、あんこをケーキの材料に買ってくるだろうか?
料理をほとんどしたことが無いというのは、結構本当なのかもしれないわね。
日和はくすっと笑いながら、とりあえずそれらの材料を脇に避けた。
「じゃあ、まずはスポンジを作りましょうか?卵割ったりはできますよね。」
「ええ、それくらいはもちろん!」
次第に甘い匂いがキッチンに溢れ出してくる。
それに誘われたかのように、ひょいっと元気な笑顔が二つ、顔を覗かせた。
「いい匂いだね?何してるの?」
「あ、おいしそーなの作ってる。いいなあ。」
「あ、ミユキさん、マオさん。いらっしゃい。」
必死になって材料をかき混ぜている夢の代わりに日和は二人に笑いかけた。
「今、お菓子作っているんですよ。良ければミユキさんたちもいかがです?」
魅力的な誘い声に、ミユキがう〜んと悩んだような声を出す。
「あたし、家事は得意だけど料理はあんまり得意じゃないんだよね。でもできたての
お菓子は魅力的だから、手伝うよ。」
「あたしは見てるだけ〜、でもいい?」
いいですよ。と頷く日和に二人は手を洗ってキッチンへと入ってきた。
チョコレートケーキの材料はかなり余っている。
料理の初心者は材料を多めに買ってきがちだ。さっと見回すと日和は夢に余った
材料を使ってもいいか?と問う。
「あ、もちろん。どうぞ。」
夢の顔はまだ必死。バターはなかなか柔らかくならないのだ。
そんな彼女の様子を微笑みながら見つめると、日和はミユキを助手に別のケーキの
準備を始めた。
「何やら騒がしいと思ったら、こんなところに集まっていたのか?」
また、誰かが顔を出す。新人と言える人物。火茄神 濡怨だ。そばには逢魔圭菜もいる。
「あ?濡怨さん、何か御用ですか?」
やっとケーキのめどがたち、余裕ができた夢は顔を上げた。
「いや、用というほどではないが、楽しそうだな。」
「私、料理はあんまり得意じゃないので、教えてもらってたんです。やっとできそうで。」
微笑む夢に、無表情だった濡怨の顔にふっと何かが浮かぶ。
「よければ、私も手伝おうか?」
「え?いいんですか?お願いします。」
どこからか、たすきを出して、袖元をたくし上げると彼女も中へと入ってくる。
こう見えても料理は結構得意で好きなのだ。
圭菜も後を追うようにお辞儀をして入ってくる。
「でも、ケーキの方はもう終わりか…ん?」
そう思っていた濡怨の目に使い道なく残されていたあんこと、米粉が映る。
これで…。二つを手に取り彼女は夢に話し掛けた。
「これ、使わせてもらってもいいか?」
「ええ、どうぞ。どうぞ。」
「すまないな。圭菜手伝ってくれ。」
「はい」
キッチンには、3つのお菓子の甘い香りが不思議に交じり合っている。
チョコレートケーキはオーブンに入った。フルーツケーキの準備もでき、焼くばかり。
そしてガス台では濡怨が何やら、静かな音を立てて焼いている。
「へえ、これ、金つばですか?こんな風にして作るんだ。」
「ああ、比較的簡単なんだ。あんこから作ればまた違うが…。」
無表情で金つばをひっくり返しながら濡怨は説明する。
肩口から覗き込む夢、ミユキ、マオは興味深そうにその仕草を見ていた。
「ちょっとお茶にしましょうか?金つばには緑茶が合いそうですよね。」
とぽぽぽぽ、何時の間にか人数分のお茶の用意をしている日和の声に少女達は
素直に頷いて集まった。キッチンの横のテーブルにお茶を運ぶ。
少し遅れた濡怨の手には出来たて、焼きたての金つばの山。小さな歓声が沸き起こる。
「いっただきま〜〜す(×6)」
「うわ〜、ふわっとしていて美味しい!」
「焼きたての金つばって始めて食べました。美味しいですね。」
「うん!最高。」
「あたし、こういう味好きだなあ。」
「とても美味しいです。濡怨様」
それぞれの褒め言葉に濡怨の頬に、薄やかな、でも明確な笑みが浮かぶ。
「そう言ってもらえると作ったかいもあったというもの…。 ? どうしたんだ。夢。」
濡怨の言葉に皆が、夢の方を見た。確かに彼女の表情がかすかに何かを浮かべている。
心配そうな顔の皆に、夢は慌てて手を振った。
「たいしたことじゃないんですよ。ただ、こんなに幸せなのがなんか不思議で…。」
その言葉の意味をみんな知っている。小さな沈黙が場に流れた。
「私は、ここに来るとき幸せとか、楽しいこととか、みんな捨てなきゃ、忘れなきゃ
って思いでここにきたんです。でも、ここに来てみなさんと出会えて、こんなに楽しくて
幸せな時に出会えた。それが凄く不思議で、嬉しかったんですよ。」
「そうですね。人間、何かを失ったと思っても生きていれば必ず、それを埋める何かが
手に入れられんですね。」
「諦めちゃ、駄目ってこと!」
「うん、あたしもそう思うよ。」
「人生万事塞翁が馬。不幸も幸せもどこにどう転がっているか解らない。だからこそ」
面白いのだろう。きっと。」
「そうですね、皆さん。」
運命の歯車が少し違っていなかったら出会わなかった仲間、友。
彼女達に、夢は心からの笑顔で笑いかけた。
そして彼女達は答えてくれた。最高の笑顔で…
チーン!
レンジがケーキの完成を高らかに知らせる。
慌てて駆け寄って扉を開くと、ふんわりと幸せ色の匂いがあたりを包み込む。
「大成功。みたいですね。」
日和の言葉に、夢はホッとしたように頷いた。
「さっそく、味見〜〜〜。」
伸びたシャンブロウの手からケーキをさっと逃がす夢。頭の上に持ち上げて首を振る。
「これだけは、ダメ!材料の余りで作ったミニケーキはいいけど、これだけは!」
ぷうっと頬を膨らませるマオ。
でも、魔皇たちはなんとなく理由を察したのだろう。顔を合わせて含み笑う。
「まあまあ、マオ。せっかくの大傑作、食べてもらいたい人がいるんでしょ。」
「フルーツケーキもありますから、あとで食べましょう。ね。」
「邪魔をするな?馬に蹴られるぞ。」
「馬?なんで??」
3人の言葉に夢は顔を真っ赤にする。
日和がオーブンに入れたチェリーよりも赤い彼女の顔に、少女たちは声を明るく、含んだ
笑みを空に放った。
彼女達の笑い声はどんな音楽よりも鮮やかに、ひと時の幸せの価値を歌っている…。
その日の夜の宴会は女性軍の腕を振るったお菓子の数々が、彼女達と共に花を添えた。
だが、夢の作ったチョコレートケーキの姿は見えない。
「ねえ、ミユキ、日和さん。濡怨さん、あのケーキはどこに行ったんだと思う?」
マオの言葉に3人は、無言である方向を指差した。
それを見てマオもああ、と納得して頷く。
彼女達が指さした先、そこには…。
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